映画館を愛してやまない人々へ— “ 映画館が登場する名作 ” オススメDVD&Blu-ray特集

  • 2020年06月21日更新

新コロナウイルスに関わる緊急事態宣言が解除され、全国の映画館の営業再開が始まりました。「映画館の休業」という前代未聞の出来事に、劇場で映画を観ることの喜びや、映画館の存在の大きさを改めて認識した人も多いのではないでしょうか。あのワクワクする雰囲気を思い出し、これからも足を運んでもらいたいという願いから、映画館を愛してやまない人々にお届けするDVD特集第2弾として、今回は映画館愛に溢れた作品から映画館が印象的に登場する作品まで、幅広いジャンルから4本の名作をご紹介します。


『ラスト・ショー』ほろ苦いタッチで綴られる青春の終わり

『ラスト・ショー 』
(1971年/アメリカ/126
監督・脚本: ピーター・ボグダノヴィッチ
出演:ジェフ・ブリッジズ、シビル・シェパード、クロリス・リーチマン、ランディ・クエイド、エレン・バースティン

『ぺーパー・ムーン』のピーター・ボグダノヴィッチ監督によるノスタルジーに満ちたモノクロ作品。アメリカ南部の田舎町に生きる若者の青春の終焉が、町にひとつしかない映画館の閉館に重ね合わせて描かれる。

1950年代の初頭、テキサスの小さな町にすむ高校生サニーたちのデートの場所は、古びた映画館ぐらいしかない。彼は親友デュエーンの恋人ジェイシーに惹かれながらも、フットボールコーチの妻と関係を持つ。ジェイシーにふられたデュエーンは故郷を離れるが、やがて朝鮮戦争に行くため帰郷。そして、サニーとともに、かつて遊んだ思い出の映画館を訪れる……。

誰もが知り合いで“クシャミをしてもすぐ人にわかる”この町では、老いも若きも閉塞感や空虚な思いを抱え、どこか諦めたような表情をしている。その裏で渦巻く愛増や背徳、裏切り。だが、砂埃が道に舞い上がる地で展開される人間関係は、ボグダノヴィッチ監督の人物描写やモノクロ画像とも相俟って、乾いた印象を残す。

従業員の老女が一人でチケットもぎりからポップコーン売りまで担う劇場で、サニーがガールフレンドと観るのはエリザベス・テーラー主演の『花嫁の父』、そして閉館前の最後の上映作品はジョン・ウェインの西部劇『赤い河』だ。監督は前者の引用について「そこで描かれた中流家庭像が本作とはかけ離れたものだったから」、後者の作品については「テキサスの繁栄を正当に描いていた作品だから」とコメントしている。

本作で映画館自体が映される時間はあまり長くはない。だが、テレビの隆盛などにより客足が遠のいた劇場の閉館は、青春の終わりだけではなく、時の流れに人や町が飲み込まれていくことを象徴する重要なエピソードとなっている。

存在することが当たり前、そばにあることが当然だった映画館がなくなってしまうのは、自分の人生から何かが欠けていくことと同じなのかもしれない。ここで描かれた時代から約70年。映画館が誰かの特別な場所であることは、今も昔も変わりがない。(吉永くま)

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『ニュー・シネマ・パラダイス』— 映画への愛に満ち溢れる不朽の名作

『ニュー・シネマ・パラダイス』
(1988年/イタリア・フランス/123分)
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演: フィリップ・ノワレ、ジャック・ペラン、サルヴァトーレ・カシオ、マルコ・レオナルディ、レオポルド・トリエステ
 

エンニオ・モリコーネの美しい音楽が全編に流れる、映画愛に溢れた永遠の名作。第二次世界大戦終結後まもないイタリア・シチリアの村を舞台に、少年と映写技師の男性との交流を描く。

映画監督としてローマで活躍するサルヴァトーレのもとに、故郷の村から訃報が届く。亡くなったのは、彼が幼い頃から通い続けた映画館パラダイス座の映写技師で、父親のように慕っていたアルフレード。長らく帰郷していなかった彼の胸に、アルフレードと過ごした少年時代やほろ苦い初恋を経験した青年時代の思い出が蘇る。

サルヴァトーレはトトと呼ばれた子どもの頃、母親から渡されたミルク代でチケットを買ってしまうほど映画に夢中だった。パラダイス座の中でも彼のお気に入りの場所は、客席の後方にある映写室だ。アルフレードは自分の仕事場に入り浸るトトを持て余していたが、やがて彼の熱意に負け、仕事を教えるようになる。

この村でパラダイス座を愛していたのはトトだけではない。貧しく娯楽もあまりない時代、劇場前には朝から村人たちが群がってくる。スクリーンに向かってやじを飛ばしたり、作品に触発されてよからぬことをしたり、この時代の観客はとても自由だ。皆目をキラキラさせて画面を見つめ、楽しいシーンでは大笑いし、怖い場面では悲鳴を上げて一体感や高揚感に身を委ねる。映画館で映画を観ることの醍醐味を肌で知る彼らの人生もまた、パラダイス座とともにあった。

当時33歳だったジュゼッペ・トルナトーレ監督の長編2作目の本作は、シチリアで育ち、映画好きだった彼の自伝的作品といわれる。ノスタルジックで温かい映像とストーリー、少年トトを演じたサルヴァトーレ・カシオの愛くるしさ、心に染み入る楽曲などすべてが完璧にはまり、カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリやアカデミー賞外国語映画賞を受賞するなど高い評価を受けた。日本では1989年にシネスイッチ銀座で単館公開され、40週というロングラン上映を記録している。

あの映画史に残る感動的なラスト(ここではトルナトーレ監督が映写技師役でカメオ出演している)では、アルフレードの贈り物を受け取ったサルヴァトーレの気持ちに共鳴するかのように、私たちにも悲しさや後悔、懐かしさ、喜び、愛しさなどありとあらゆる感情が押し寄せてくる。映画と映画館を愛する人にとって、何度観ても胸が熱くなる至宝のような作品といえるだろう。(吉永くま)

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『楽日』- 失われゆくものへの愛惜を描く異色の傑作

『楽日』
(2003年/台湾/82分
監督:ツァイ・ミンリャン
出演:チェン・シャンチー、リー・カンション、 三田村恭伸、ミャオ・ティエン 、シー・チュン 、ヤン・クイメイ 、チェン・チャオロン

台湾の巨匠ツァイ・ミンリャンが閉館する映画館の最後の夜を描き、2003年ヴェネチア国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞した人間ドラマ。舞台となった「福和大戲院」は、ツァイ監督作『ふたつの時、ふたりの時間』(2001)にも登場する実在の劇場で、閉館を知った監督は即座に本作の脚本をしたためたという。長回しの映像と極小のセリフのなかに、失われゆくものへの愛惜と、監督が幼いころから親しんだ映画文化へのオマージュが凝縮された作品だ。

土砂降りの夜。古びた映画館が、間もなく歴史の幕を下ろそうとしている。最後にスクリーンを飾るのは、キン・フー監督の武侠映画『龍門客棧(残酷ドラゴン 血斗竜門の宿)』(1967)。公開当時、華々しい記録を打ち立てたヒット作も、広々とした客席にはまばらな人影が見えるだけだ。

映画に観入る者、周りの客を物色する者、虚構と現実の狭間で揺蕩う者……。同じ空間で、同じ光と音に包まれながら、それぞれの孤独と向き合っているようにも見える。煙草を燻らしたり、前の座席に足を投げ出したり、自宅のようにくつろぐ者もいる。空席だらけなのに不自然に席を詰めて座る男たちは、恋の相手を探しにきたのだろうか(当時、台湾の映画館は同性愛者の男性たちの出会いの場所でもあった)。寂れた劇場で、幾度となく繰り返されてきた風景――ツァイ監督はそれをただ淡々と映し出す。

トイレに立った青年は、暗く不気味な通路を無限回廊のように歩き回る。一服している男が「この映画館は幽霊が出る」と告げると、青年は「僕は日本人なんだ」と男に告げる。素性の知れない観客たちは誰もが幽霊のようにも見える。異国に来た青年は、さらなる異世界に迷いこんだのかもしれない。しかし、一歩そこを出れば、誰もがそれぞれの現実を懸命に生きているのだろう。劇場に棲みつく幽霊は、この場所にどんな情念を残したのだろうか。

閉館の時間が迫るなか、少しずつドラマが動いていく。終盤は、現実の残酷さと美しさを表裏一体として描く名シーンの連続だ。足の悪いもぎりの女が映写技師の男に寄せる淡い恋のゆくえ。『龍門客棧』の主演俳優シー・チュンとミャオ・ティエンとの再会。土砂降りの中にけぶる劇場のネオン。観客がいなくなった客席を5分にわたって映すシーンは圧巻だ。あまりの長回しに、ヴェネチア国際映画祭では、映写機の故障と勘違いした観客がざわつき出したという逸話が残るこのシーンは、二度と見ることのない景色を永遠に焼き付けたいと切望する監督の強い思いが伝わってくる。

出演は、チェン・シャンチー、リー・カンション、ヤン・クイメイら、ツァイ監督が全幅の信頼を寄せる俳優たち。日本人青年を演じた三田村恭伸はツァイ監督の熱心なファンで、交流を深めるうちに本作出演に至ったという。ちなみにミャオ・ティエンの孫役の少年はリー・カンションの甥っ子。ツァイ監督作『郊遊<ピクニック>』(2013)では彼の成長した姿も見ることができる。そして、残念ながら、ミャオ・ティエンは本作が遺作となった。

11歳のときに故郷のマレーシアで観た『龍門客棧』が、その後も強く印象に残っていたというツァイ監督。全編に織り込まれた映画へのリスペクトとノスタルジーを、エンドロールに流れる60年代歌謡の「留恋」(名残惜しい気持ちを表す中国語)の美しい歌詞とメロディーがさらに深い余韻として残す。(min)

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『カイロの紫のバラ』- “ 銀幕の恋人”との甘くほろ苦いランデヴー

『カイロの紫のバラ 』
(1985年/アメリカ/83分
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ミア・ファロー、ジェフ・ダニエルズ、ダニー・アイエロ、ダイアン・ウィースト、ヴァン・ジョンソン、カレン・エイカーズ、カミーユ・サヴィオラ

ウディ・アレンが1930年代のアメリカを舞台に描くロマンティック・ファンタジー。大恐慌時代のニュージャージーでウェイトレスとして働くセシリアは、失業中なうえに遊んでばかりのDV夫との生活に辟易している。そんな彼女の唯一の楽しみは、映画を観ること。スクリーンの中に広がる世界に浸り、辛い現実を忘れる時間だけが心を満たしてくれる。今はギル・シェパード主演の新作映画『カイロの紫のバラ』に夢中で、セリフを覚えるほど映画館に足を運んでいる。

美麗な衣装に身を包んだ人々、上流社会の優雅な暮らし、ギル扮するリッチでハンサムで少年ような心を持つ若き考古学者……映画の世界に魅了されたセシリアは、仕事中も上の空で失敗ばかり。雇い主に叱責され、またもや映画館に逃げ込んだセシリアに、主人公のトム・バクスターが、スクリーンの中から語りかけてくる……! そして、トムはついに映画を飛び出し、セシリアの手を取って映画館から現実の世界へと逃避行。

平凡な主婦に訪れた、魔法のような出来事。しかし、完ぺきなはずのトムも現実世界では少しずつほころびが見え始める。映画の衣装のサファリ・ルックは街中では浮いてしまうし、リッチなはずの彼の財布に入っていたのは、小道具として作られた紙切れ。夢物語の中にも皮肉を効かせるウディ・アレン節が絶妙だ。それでも、真っ直ぐに愛を語りかけてくれるトムとの時間は、セシリアの心を温める。行き場をなくした二人は寂れた遊園地で愛を語り合い、夢のような時間を重ねる。しかし、そのころ映画会社は大慌て。主演俳優のギルも、自分の分身が何か事件を起こさないかと気が気じゃなく、ニュージャージーへとやってくる。ついには、トムとセシリア、ギルの奇妙な三角関係が勃発し……。

セシリアを魅力いっぱいに演じるのは製作当時、アレン監督のパートナーでもあった名女優ミア・ファロー。トムとギルの二役に扮したのは、ミアより実年齢が10歳若いジェフ・ダニエルズ。撮影に使われた映画館は、1935年生まれのアレン監督が少年のころに通っていたコニー・アイランド(ニューヨーク・ブルックリン)にある「ケント」という古い映画館。劇場の雰囲気も含め、本格的なトーキーの時代へと突入し、ハリウッド黄金期を迎えたアメリカ映画の古き良き時代の空気も見どころだ。

かくして、セシリアの運命は……? すべてはラスト・シーンの彼女の表情が物語る。彼女が映画館で観ているのはフレッド・アステアとジンジャー・ロジャース主演の名作ミュージカル、『トップ・ハット』(1935)。現実は厳しくても、映画はいつだって私たちにさまざまな夢を魅せてくれる。(min)

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