9月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2019年09月05日更新

9月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
9/7(土)公開 『かぞくあわせ
9/13(金)公開 『ある船頭の話
9/14(土)公開 『サウナのあるところ
9/20(金)公開 『おいしい家族
9/20(金)公開 『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ
9/20(金)公開 『シンクロ・ダンディーズ!
9/20(金)公開 『帰ってきたムッソリーニ
9/28(土)公開 『お嬢ちゃん


『かぞくあわせ』

しゅはまはるみ映画初主演! 色とりどりの「かぞく」を描くオムニバス3部作

結婚式場を舞台に、気鋭監督3人が色とりどりの「かぞく」の物語を紡ぐオムニバス映画。各話とも、実力派俳優の「しゅはまはるみと藤田健彦をW主演」に迎え、「同じ撮影ロケーション」「撮影時間は3作で72時間(各作品24時間)」という条件(ムチャぶり!?)のもとで制作された意欲作だ。
第1話は、長谷川朋史監督の『左腕サイケデリック』。「かぞく」という日常的なキーワードとは一見ミスマッチなタイトルどおり、トンデモ展開が待ち受けるSF作品。驚きと笑いの先制パンチに、この先どんな作品が待っているのだろうとワクワク感が高まる。予告編でチラリと本編映像を観た方も多いと思うが、筆者個人としてはできるだけ予備知識を入れずに楽しんでほしい作品だ。
続く2作目は、大橋隆行監督によるモノクロ作品、『最高のパートナー』。人間のパートナーコンピューターであるシュハマとフジタのあいだに芽生える淡い感情を描く作品だ。こちらもSFだが、ノスタルジーと近未来が同居するモノクロ映像に映し出される世界は、普遍的な温もりと独特の愛らしさが漂う。 “AIものの命題”=学習を繰り返すことで人間的な感覚に近づくという視点から、すでにヒトに近い感情を得ているフジタに対し、シュハマの反応はまだ機械的だ。しかし、彼女に“ある感覚”が宿った瞬間、スクリーンに鮮やかな色彩が広がっていくような錯覚を覚えた。豊かな感情表現を封印したしゅはまも新鮮で魅力的だが、最後に見せる表情の美しさには、思わず釘付けになる。
最後の作品は、3作のなかでダントツの長編(52分)である田口敬太監督の『はなればなれになる前に』。「かぞく」という小さな集団のなかに、離婚を前にした夫婦、義理の親子、結婚を控えた恋人同士……など、多様な人間関係を描き出す作品だ。「かぞく」でありながら遠慮を抱え、「かぞく」だからこそ愛おしく思い、「かぞく」なのに違う方向へ歩いていく。そんな、確かで、不安定で、切なく、温かい人間模様を、巧みな脚本と独特の映像演出で表現する。全話を見届け、それぞれの日常や「かぞく」の元へ戻る観客たちの胸に、静かに広がる余韻を残す作品だ。そして、映画館を出るときには、すっかり、しゅはまはるみと藤田健彦のファンにもなっていることだろう。(min)

2019年9月7日(土)〜20日(金)池袋シネマ・ロサにてレイトショー上映 公式サイト
(2019年/日本/92分)監督・脚本:長谷川朋史、大橋隆行、田口敬太 企画:奥村朋功 撮影協力:シーサイド リビエラ 企画・制作:ルネシネマ 出演:しゅはまはるみ、藤田健彦、茎津湖乃美、田口敬太、奥村朋功、佐藤考哲、太田いず帆、宇佐美真仁、上久保汐李、黒田麻美、才藤えみ、林良、藤井杏朱、松坂慎治、小島彩乃、池田良、松澤可苑、星野花菜里、てっぺい右利き ほか 配給:ルネサンスデザイニング ©2019 ルネシネマ

関連記事:【スクリーンの女神たち】『かぞくあわせ』『二人の作家<根岸里紗×田口敬太>』小島彩乃さんインタビュー


『ある船頭の話』

日本の原風景を湛える見事な映画話法

俳優のオダギリジョーが、撮影監督に『花様年華』のクリストファー・ドイル、衣装デザインに『乱』のワダエミら国際派スタッフを迎えて取り組んだ初の長編監督作。山あいの川で舟の渡しをしているトイチは、川のほとりのみすぼらしい小屋で一人、もう長いこと変わらぬ暮らしをしてきた。ある日、何かが舟にぶつかってきてトイチがすくいあげると、それは一人の少女だった。緑濃い水辺にたたずむトイチの姿をロングショットでとらえた冒頭の映像から、役者の表情、音楽の効果も含め、この映画の世界観に心奪われる。時代背景など一切の説明はないものの、これぞ日本の原風景であり、自然破壊をもたらす人間の欲望への皮肉も漂う。オダギリ監督の見事な映画話法に陶然となった。(藤井克郎)

2019年9月13日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2019年/日本/137分)英題:They Say Nothing Stays the Same  監督・脚本:オダギリジョー 出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎 ほか 配給:キノフィルムズ ©2019「ある船頭の話」製作委員会


『サウナのあるところ』

心にしみる裸の男たちの身の上話

サウナの本場、北欧フィンランドから、サウナをモチーフにしたちょっと風変わりなドキュメンタリー映画がやってきた。登場人物は名もなき裸の男たち。映画は、彼らがサウナに入って訥々と身の上話を語る様子を、ただ写し取る。決して美しいとは言えない裸体をさらしながら、ある者は継父にいじめ抜かれた話、ある者は長年連れ添った妻に先立たれた話、ある者は幼くして命を落とした娘の話など、忘れることのできない思い出を問わず語りにつぶやく。中には笑えるエピソードもあるが、いずれも人生の重みを感じさせるもので、虚飾を脱ぎ捨てたからこそ語ることのできる思いがぐっと胸に突き刺さる。フィンランドの雄大な景色と、焼けた石に水が当たるジュっという音もまた心にしみる。(藤井克郎)

2019年9月14日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2010年/フィンランド/81分)原題:Miesten vuoro 英題:Steam of Life 監督:ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン 配給:アップリンク+kinologue ©2010 Oktober Oy.


『おいしい家族』

人と人のつながりをオフビート感覚で描く

小説「えん」ですばる文学賞の佳作を受賞するなど、作家としても活躍するふくだももこ監督が、自ら手がけた短編を再構築して初の長編映画に挑んだ。夫とは別居中で、東京での暮らしに疲れ気味の橙花は、母の三回忌のために帰ってきたふるさとの離島で、父の姿を見て愕然とする。母親の服を着て台所に立っているばかりか、女子高生の娘がいる中年男の和生と家族になるというのだ。一人だけまじめな主人公を取り巻く周囲の人々のとぼけぶりが楽しいオフビート感覚あふれるコメディー。風変わりな家族の姿を通して、人と人とのつながりには何が大切かを問いかけるふくだ監督の熱い思いが伝わる。オフビートに乗れない橙花役の松本穂香をはじめ、出演陣のなりきりぶりも見もの。(藤井克郎)

2019年9月20日(金)より全国公開 公式サイト
(2018年/日本/95分)監督・脚本:ふくだももこ 出演:松本穂香、板尾創路、浜野謙太、モトーラ世理奈 ほか 配給:日活 ©2019「おいしい家族」製作委員会


『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

承認欲求に振り回される不器用な青春

映画『エイス・グレード』メイン画像

オバマ前⽶⼤統領が2018 年の年間ベスト映画に選出するなど多くの著名⼈を魅了した青春映画。「学年で最も無⼝な⼦」に選ばれてしまったケイラは、不器⽤な⾃分を変えようとSNS を駆使してクラスメイト達と繋がろうとするが、うまくいかない。人気者の女子には素気ない態度を取られるし、憧れの男子へのアプローチ方法もわからない。パパが話しかけても不機嫌な顔でスマホとにらめっこ。「13歳は宇宙人だな」と思いながらも、はるか昔の青くさい自分を思い出す。奥手だけど承認欲求が強く、自分の方向性に迷ってばかりのケイラ。小さいけれど複雑な世界の中でもがく彼女にエールを送りたくなる。(吉永くま)

2019年9月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/アメリカ/93 分)原題:EIGHTH GRADE 監督・脚本:ボー・バーナム 出演:エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソン ほか 配給:トランスフォーマー © 2018 A24 DISTRIBUTION, LLC


『シンクロ・ダンディーズ!』

今度は英国版! シンクロがしおれた人生に潤いをもたらす!?

映画『シンクロ・ダンディーズ!』メイン画像

今の世の中「四十にして惑わず」なんていう昔の賢人の言葉を誰が信じるだろう? 本作は、それとはほど遠い、惑いまくり、ミッドライフ・クライシス真っ只中の男性たちがシンクロに挑む英国コメディだ。「デジャブ?」と思った方、正解です。日本では7月にフランス人中年男性シンクロチームの奮闘を描いた『シンク・ オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』が公開されたばかり。どちらも実在のスウェーデンチームの話をもとにした作品なので、見比べてみるのもおすすめ。人生の終着点が見えてくる年齢に新しい世界に飛び込み、新しい仲間とひとつの目的に向かって進む。その先には、素晴らしい未来が待ち受けている……かも。(吉永くま)

2019年9月20日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/イギリス/96 分)原題:SWIMMING WITH MEN 監督:オリヴァー・パーカー 出演:ロブ・ブライトン、ルパート・グレイヴス、ジム・カーター ほか 配給:キノフィルムズ/木下グループ  ©SWM FILM COMPANY LTD 2018


『帰ってきたムッソリーニ

あの独裁者が蘇る!? 現代社会の危うさを描く風刺コメディ

映画『帰ってきたムッソリーニ』メイン画像

映画『帰ってきたヒトラー』の原作と同じ小説をもとに、主人公をムッソリーニに置き換えて映画化したブラックコメディ。彼が車でローマを巡るシーンはほぼドキュメンタリーとして撮影されたそうだが、人々の反応が実に興味深い。ムッソリーニが現代のローマに突然出現。売れない映像作家と撮影旅行に出た彼は、そっくりさんだと思われスマホでの記念撮影に応じる一方、移民問題や政府に対する国民の不満に耳を傾ける。そしてTV出演で人気が高まると、再び国を征服しようと野望を抱くが……。笑い者にされることも厭わず人々の心をつかんでいく元独裁者。そのカリスマ性にとらわれていく社会に背筋が寒くなる。(吉永くま)

2019年9月20日(金)より公開 公式サイト
(2018年/イタリア/96分)原題:SONO TORNATO 英題:I’m Back 監督:ルカ・ミニエーロ 出演:マッシモ・ポポリツィオ、フランク・マターノ、ステファニア・ロッカ ほか 配給:ファインフィルムズ © 2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.


『お嬢ちゃん

会話の積み重ねからの圧巻の瞬間

前作『枝葉のこと』がロカルノ国際映画祭など各国で高く評価された二ノ宮隆太郎監督が、主役に『ハローグッバイ』の萩原みのりを据え、驚異の長回しと刺激的な会話で紡いだ異色作。鎌倉の海辺でおばあちゃんと2人で暮らす21歳のみのりは、友人にも初対面の男にも堂々と持論を展開し、決してひるまない。だが、ふと自分自身に向き合ったときに感情が湧き出てきて……。冒頭、さまざまな男女の姿を移動カメラでつないでいく見事なショットをはじめ、四宮秀俊撮影監督のカメラワークの妙が光る。言いたい放題の会話を重ねながら徐々に自省の念がこみあげ、思いを一気に吐き出す萩原の演技は圧巻で、その瞬間を引き出した二ノ宮監督の胆力にも感嘆を禁じえない。(藤井克郎)

2019年9月28日(土)より公開 公式サイト
(2018年/日本/130分)監督・脚本・編集:二ノ宮隆太郎 出演:萩原みのり、土手理恵子、岬ミレホ、結城さなえ ほか 配給:ENBUゼミナール ©ENBUゼミナール

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