韓国ノワール映画に新たな歴史を刻んだ新鋭監督―『名もなき野良犬の輪舞』ビョン・ソンヒョン監督インタビュー

  • 2018年04月26日更新

映画『名もなき野良犬の輪舞』ビョン・ソンヒョン監督インタビュー  犯罪組織を舞台に繰り広げられる男たちの裏切りと復讐を描き、第70回カンヌ国際映画祭で喝采を浴びた『名もなき野良犬の輪舞』のビョン・ソンヒョン監督にインタビューしました。組織のナンバー1を狙う受刑者のジェホを名優ソル・ギョングが演じ、新たに刑務所に入所してきた野心的な若者ヒョンスを人気アイドルグループ「ZE:A」のメンバーであるイム・シワンが演じることでも話題の本作。兄弟のような絆で結ばれた男たちが、背信と憎悪に葛藤する姿をハードボイルドかつスタイリッシュな映像で描き出します。韓国ノワール映画に新たな歴史を刻んだ新鋭監督の熱い思いと、俳優陣の魅力などを語っていただきました。


既存のフィルム・ノワールとはどうしても一線を画したかった

― どのシーンを切り取っても興奮度が高く、めちゃくちゃおもしろかったです!

ビョン・ソンヒョン監督(以下、ビョン監督):ありがとうございます。

― ビョン監督は、これまでに3本の長編作品を撮っていらっしゃいます。最初の『青春とビート、そして秘密のビデオ』は音楽青春ドラマ、長編2作目にして商業デビュー作の『マイPSパートナー』はロマンティックコメディ、そして今作はハードボイルドなノワール映画と、毎回違うジャンルに挑戦される理由は何でしょうか?

映画『名もなき野良犬の輪舞』サブ2ビョン監督:理由は特にないんです。ロマンティックコメディを撮っていると、今度は骨太な映画を撮りたくなり、そしてまた最近はメロドラマ的な恋愛映画が気になっています。テーマを選ぶ基準を挙げるとすれば、自分がその時に観たいと思う映画ですね。自然と惹かれる題材で、さまざまなジャンルの映画を撮りたい。ただし、ホラーは苦手なので、多分この先も撮ることはないと思います。

―『マイPSパートナー』の脚本を手掛ける際には、90年代のアメリカのロマンティックコメディ映画をたくさんご覧になったそうですが、本作を撮るにあたり参考にされた作品などはありますか。

ビョン監督:ノワール映画は、もともと好きでよく観ていたジャンルですし、ジョニー・トー監督やマーティン・スコセッシ監督、クエンティン・タランティーノ監督の作品など、本当にたくさんの映画から影響は受けています。具体的にどれかと聞かれると正直選べないですが、これまでに観たさまざまな作品が参考になり、教科書にもなりました。

― ビョン監督の作品は、ちょっと遊び心のあるスタイリッシュな映像にも定評がありますが、今作では絵コンテの制作に3ヶ月かけたそうですね。一番こだわったのはどういった点ですか?

ビョン監督:絵コンテにとことん注力した理由は、ありきたりな撮り方をしたくなかったから。というのも、韓国では、以前からフィルム・ノワールと呼ばれるジャンルの作品がたくさん作られてきました。だからこそ、既存の作品とは一線を画すような手法でどうしても撮りたかったんです。僕とコンテ作家と撮影監督の3人で、3ヶ月間ほとんど1日も休まずに話し合いを重ね、ときにはケンカもしながらコンテを作っていきました。

― カットとカットが切り替わる際に、趣向を凝らしたエフェクトを施すのもビョン監督らしい演出ですよね。それがとてもおしゃれでカッコ良くて!

ビョン監督:ありがとうございます。“トランジション”という手法ですね。おっしゃるように、そういう撮り方が好きで、『青春とビート〜』よりもっと前の短編作品からこだわって続けている部分です。

観る者を魅了する “セクシー”なソル・ギョングとイム・シワンの“伝達力”

映画『名もなき野良犬の輪舞』サブ4― これまで、さまざまな役を演じてきたソル・ギョングさんが、本作では見たこともないようなセクシーな表情や仕草をされていて、すごくドキドキしました。

ビョン監督:ソル・ギョングさんといえば、本当にたくさんの役を演じてこられたベテラン俳優で、僕自身もずっとファンだったのですが、ジェホのように気取った演技は見たことがないと思ったんです。なので、今作では、「かっこよく気取った姿をセクシーに演じてほしい」とお願いをしました。そして、セクシーさを強調するためにキメキメのスーツ姿を撮りたくて、胸と腕の筋肉を付けてほしいというリクエストもしたんです。

― イム・シワンさんの演じるヒョンスもすごく魅力的でした。ジェホとヒョンスは、見た目と裏腹に大きな葛藤を心に抱えていますが、光と影を行き来するキャラクターの二面性や振り幅が、本作をより色気のある作品にしていると思うんです。

ビョン監督:彼らの演技を見て、キャラクターの幅の広さや複雑さを感じてくださったのなら、それはまさにお二人の力量があってこそなんです。ソル・ギョングさんの卓越した演技力は皆さんもご承知だと思いますが、イム・シワンさんの場合は、天性で備わった“伝達力”がとても大きい俳優だと思うんですよ。

―“伝達力”といいますと?

映画『名もなき野良犬の輪舞』サブ5ビョン監督:“共感力”と言うべきかも知れない。一見すごく淡白で飄々として見えるヒョンスだけど、彼が悲しいと観ているこちらまで悲しくなる。彼が笑うと観ているほうも笑みがこぼれる。イム・シワンさんの演技には、そういう魅力があると思ったんです。

― すごくわかります。ヒョンスの心の動きに引き込まれる感じがありました。さらに、男ばかりの血なまぐさい世界で、チョンチーム長(チョン・ヘジン)のようなタフな役を女性が演じていることも、物語をさらに複雑でおもしろくしていると思うんですね。このアイデアはどのように発想されたのでしょうか?

ビョン監督:おっしゃるように、普通なら男性が演じるマッチョなキャラクターですが、チョン・ヘジンさんが演じることで、ありきたりな作品から脱却できると思ったんです。特に彼女のようなカリスマ性のある女優に演じてもらったら、すごくおもしろくなると思った。しかも彼女はすぐにこの役を快諾してくれて、それがとても嬉しかった。

ソル・ギョングさんは“どんな人と仕事をするか”を大切にする人

映画『名もなき野良犬の輪舞』ビョン・ソンヒョン監督インタビュー― イム・シワンさんは別の韓国メディアのインタビューで、監督のことを「お仕事をするなかで、非常に信頼できた」とおっしゃっていました。また、ソル・ギョングさんも監督に対して信頼感をもってお仕事をされたとお話されています。そのような信頼関係というのは、どうやって築かれるのでしょうか

ビョン監督:うーん。俳優たちから直接言われたことがないので、むしろ真意なのか聞いてみたい(笑)。でも、それが事実なら、幸運にも現場がうまく回っていたということでしょうね。それに、僕はスタッフとはとことん話し合って撮影を進めるけど、俳優たちとはそんなに会話をするほうではないんです。演出に関しても、基本的にあまり細かい指示は出さず、大きな方向性だけを示したうえで、俳優たちがどんな役作りをしてくるのかを見るというスタンスです。

― 俳優たちとはあまり話し合いをされないとおっしゃいましたが、ソル・ギョングさんとは、撮影に入る前に二人でお酒を飲みにも行かれたそうですね。彼は、そのときに監督への信頼を深めたのが本作出演の決め手となったと語ってもいらっしゃいます。お酒の席では、どんな会話をされたのですか?

ビョン監督:そのときは、僕がこれまでどんな風に生きてきたのかを話しました。というのも、ソル・ギョングさんが僕の人生や人間性にとても興味を示してくださったんです。お互いにかなり酔うまで飲んで、その勢いのままざっくばらんに会話をしましたが、とても熱心に聞き入ってくださいました。その時に、ソル・ギョングさんという人間は、“どういう仕事をするかよりも、どんな人と仕事をするか”をすごく大切に考える人なんだと感じました。

映画『名もなき野良犬の輪舞』サブ6― 大変興味深いお話ですね。ソル・ギョングさんの素顔を垣間見ることができましたし、私も監督のこれまでの人生を聞いてみたくなりました

ビョン監督:いや、残念ながら、僕の人生はそんなに映画的ではありませんよ(笑)。

― すでに次回作のお話も進行中だそうでが、可能な範囲でどんな作品か教えていただけませんか?

ビョン監督:次回作は『キング・メーカー(仮)』というタイトルで、選挙戦略家たちを描く政治ドラマになる予定です。実はこのシナリオは、『名もなき野良犬の輪舞』よりも前に書いていたもので、現在はそのシナリオを脚色しているところです。

― うわぁ、とても楽しみです。次回作にもソル・ギョングさんがご出演されるという噂もちらっと小耳に挟んだのですが……。

ビョン監督:きちんと契約を交わしたわけではないですが、あくまでお酒の席で「また一緒にできたらおもしろいね」ということは話しています(笑)。

― 日本で公開された際には必ず拝見します!本日はありがとうございました。

<ビョン・ソンヒョン監督プロフィール>
映画『名もなき野良犬の輪舞』ビョン・ソンヒョン監督インタビュー1980年生まれ。ソウル芸術大学を卒業後、2005年に30分の短編『REAL』を制作。2010年には、Bボーイたちを描いた『青春とビート、そして秘密のビデオ』で長編映画デビュー。この作品がきっかけとなり、2012年にはチソンとキム・アジュンを主演に迎えたロマンティックコメディ『マイPSパートナー』で商業デビューを果たす。3作目の長編作品となる本作では綿密なリサーチと準備を重ね、各テイクに全力を注いだ。今、韓国で最も人々を興奮させる監督の一人。

 

 >>>『名もなき野良犬の輪舞』予告編映像<<<

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▼『名もなき野良犬の輪舞』作品・公開情報
映画『名もなき野良犬の輪舞』メインビジュアル(2017年/韓国/120分/PG-12)
原題:不汗党
監督・脚本:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング、イム・シワン、チョン・ヘジン、キム・ヒウォン、イ・ギョンヨン
日本語字幕:石井絹香
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
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『名もなき野良犬の輪舞』公式サイト

※2018年5月5日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

取材・編集・文・インタビュー撮影:min

  • 2018年04月26日更新

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