ウイスキーには心の距離を縮める力がある―『ウイスキーと2人の花嫁』ギリーズ・マッキノン監督インタビュー

  • 2018年02月15日更新


ウイスキーの配給が制限された第2次世界大戦下のスコットランドを舞台に、座礁した貨物船から大量のウイスキーを“救済”しようと奮闘する小さな島の人々と、娘の結婚を巡る父親の複雑な心境をハートフルかつユーモアたっぷりに描く『ウイスキーと2人の花嫁』。本作でメガホンを執ったギリーズ・マッキノン監督にインタビューしました。実際に起きた貨物船座礁事件に基づく1949年製作のコメディ映画『WHISKY GALORE!』(イギリス映画/日本未公開)を現代風にリメイクした本作に、マッキノン監督はどんな思いを込めたのでしょうか……?


リメイク版ではストーリーと女性キャラクターの役割を大きく膨らませた

― 本作はイギリスやスコットランドで約70年にも渡って愛されている名作コメディ映画のリメイクですが、監督を引き受けられた理由をお聞かせください。

ギリーズ・マッキノン監督(以下、マッキノン監督):一番の理由は、プロデューサーのイアン・マクリーンがリメイクに強い情熱を持っていたことです。彼にとって、子どもの頃から繰り返し観てきた『WHISKY GALORE!』をリメイクすることは、映画人としての長年の夢でした。もう一つは、私が映画学校の卒業制作で撮った作品が 1986 年のエディンバラ国際映画祭で賞をいただいた際に、プレゼンターを務めてくださったのがオリジナル版のアレクサンダー・マッケンドリック監督だったんです。私にとって不思議な縁を感じる作品でした。

― 運命的な作品だったのですね。オリジナル版とリメイク版の違いを具体的に教えていただけますか。

マッキノン監督:はい。まずは白黒の作品を、現代的な作品としてよみがえらせたことですね。オリジナル版は座礁船からウイスキーを運び出すことがストーリーの大部分を占めますが、今作ではウィンザー公爵の恋や、マクルーン父娘をはじめとする家族の物語を新たに加えてストーリーを膨らませました。これらは脚本家のピーター・マクデゥガルのアイデアだけど、僕自身もすごく気に入っています。映画全体のことでいえば、女性キャラクターの役割を大きくしたことです。オリジナル版では男性だけが座礁船に乗り込んだけど、このご時世に「女性たちは待っていろ!」とは言えないと思ったんです(笑)。これは私のアイデアなんですよ。

― 個性豊かな島民たちも本作の大きな魅力ですが、俳優たちが生き生きとチャーミングに演じていらっしゃいましたね。

マッキノン監督:俳優たちは本当に素晴らしかったですよ。島民たちを描くうえでは、“コミュニティ”という感覚が不可欠だったのですが、彼らは撮影現場でも自ずとコミュニティを築いてくれました。もちろん、私も監督として皆が打ち解けられるように懇親会を開いたりもしました。でも、何より俳優たち自身が求められる雰囲気を汲み取ってくれたのです。ジョセフ(グレゴール・フィッシャー)と2人の娘(ナオミ・バトリック、エリー・ケンドリック)もごく自然に家族になっていましたしね。

― 素晴らしいですね。ジョセフ役のグレゴールさんは、娘の幸せを思う父親としての気持ちと、自身の孤独と葛藤する切なさを表情豊かに演じられていました。

マッキノン監督:ジョセフは父親として純粋に娘を手放したくない気持ちもあるけど、姉のペギーの恋人であるオッド軍曹(ショーン・ビガースタッフ)がイングランド人ということにも複雑な思いがあるんです。スコットランドとイングランドは今ではイギリスという1つの連合国家ですが、元々は歴史的にも全く違う国で、特に小さい島の人々は自分たちの歴史やアイデンティティをとても大切にするんです。

― 島民たちの結束の固さには、そういった背景も大きく関係していたのですね。そんななか、ワゲット大尉(エディ・イザード)だけはかなり浮いていますね(笑)。彼は、第1次世界大戦時はまだ幼く、第2次世界大戦では歳を取り過ぎていて従軍できず、ようやく民兵として出番がきたという設定なのに、張り切り過ぎて空回りばかりしています。でも、その姿がどうにも愛おしくて(笑)。

マッキノン監督:ワゲットは、自分のことをシリアスに受け止め過ぎていて滑稽ですよね(笑)。実は、彼もイングランド人という設定なんです。島の人々にとっては、よそ者で面倒な人ではあるんだけど、唯一愛すべきところが、能力がなさ過ぎるところなんです(笑)。

― 島民たちは敬虔なキリスト教徒でもありますが、安息日はあそこまで厳格に守るものなのですか?

マッキノン監督:日本では文化的にわかり辛いかも知れませんね。私たちは島の文化を理解していますので、「今日は安息日だ」と言われれば、何もせずに日曜日が終わるのを静かに待ちます。島民にとって、神に仕えるマカリスター牧師(ジェームズ・コスモ)は畏れるべき存在です。とはいえ、表向きにはそうでも、偽善的な部分も大いにあります。その証拠に、マカリスター牧師自身も安息日に双眼鏡で島民の様子を覗いたり、ウイスキーを飲みたがったりしていますよね(笑)。コメディチックに描きたいけれど説明的にはしたくなかった部分で、日本の皆さんにうまく伝わるかが少し心配です。

― ご心配には及ばないと思います。島民たちの信仰心や習慣は観ていてわかりましたし、そのうえでのマカリスター牧師の行動には爆笑してしまいました(笑)。

マッキノン監督:それはよかった(笑)。さらに解説を加えると、島民にとって関税消費税庁の役人は“権威”を象徴する存在です。彼らは常に島の利益と相対するところにいるんです。

― なるほど! ウイスキーを手に入れるための攻防は、島民たちと“権威”との闘いでもあるのですね。

マッキノン監督:その通りです!

ウイスキーはすごくおかしな飲み物。心の距離をあっという間に縮める力がある

― マッキノン監督は、特に気に入っているキャラクターはいらっしゃいますか?

マッキノン監督:すべてのキャラクターを愛していますが、自分も娘が2人いるので、ジョセフには特に共感を覚えますね。娘に求婚する男たちに厳しく接するのはもちろんですが、妹のカトリーナの恋人であるジョージ(ケヴィン・ガスリー)に関しては、また別の思いもあるんです。というのも、彼には非常に支配的な母親がいますよね。一見、小さな島いる特別な親子関係に見えますけど、実はこういう人は世界中のどこにでもいる。ジョセフは、ジョージが母親に立ち向かうべきだと思っているわけです。

― たしかに、日本にもジョージのような男性はいると思います。そんなジョージが母親のミセス・キャンベルに立ち向かうのも、ミセス・キャンベルが心を解くきっかけになるのも、まさにウイスキーの力でしたね。ウイスキーが人々の気持ちを解くシーンはほかにも出てきますが、とてもステキなシーンばかりでした。

マッキノン監督:そう。ウイスキーはすごくおかしな飲み物で、人と人との心の距離をあっという間に縮める力があるんです。私はグラスゴー出身ですが、数年ぶりに友人と再会するような時には、やはりウイスキーを飲みます。すると、昨日会ったばかりのように打ち解けられるんです。ただし、良くも悪くも感受性が豊かになり過ぎるので、飲み方には注意も必要です(笑)。

― 本作を観れば、ウイスキーの魅力が存分に伝わると思いますし、とにかくウイスキーが飲みたくなる映画ですよね! 最後にマッキノン監督の素顔に迫る質問もさせていただきたいのですが、これまでに、ウイスキーに限らずお酒の力を借りて上手くいったことや、逆に失敗したことなど、お酒にまつわるエピソードがあればお聞かせ願えませんか?

マッキノン監督:いろいろなことがあり過ぎて、何から話していいのかわからないなぁ(笑)。

― ちなみに私は、ある年の大晦日に飲食店のカウントダウンパーティーで飲み過ぎてしまって、ハッと我に返ったら、その店の従業員の制服を着て働いていたことがあります!

マッキノン監督:本当に!? Oh my God! あっはっはっは(爆笑)!

― ということで(?)、ぜひ、監督のエピソードもお聞かせください!

マッキノン監督:いや、話すよ。話すけどね(笑)。一つだけ誤解してほしくないのは、この作品は酔っぱらいの映画ではなく、島の文化と、その文化に根ざしたお酒と人々の物語ですから、そこのところはちゃんと心得て聞いてくださいね(笑)!

― 監督、ご安心ください。しかと心得ております!

マッキノン監督:と、前置きをしたうえで(笑)。あれは、私がまだお酒の飲み方も知らない学生の頃だね。友人たちとキャンプをして、皆でベロベロになるまで酔っぱらったんです。そのうちに、誰かが「酔っぱらうと殴られても痛くないらしいぞ!」と言い出して、お互いに「試しに殴ってみて!」「うわー。本当だ、痛くない! お返しだ!わっはっは!」って大笑いしながら殴り合いになって。次の朝起きたら、全員の顔がもうメチャクチャだったよ、あれは本当にヒドかったね! あっはっはっは(爆笑)!

― さすがマッキノン監督、私の予想を超えてきました(笑)! 本日はいろいろな意味で貴重なお話をありがとうございました!

マッキノン監督:こちらこそ! ウイスキーなしでも、すごく楽しかったよ(笑)。


<PROFILE/ギリーズ・マッキノン >
1948年1月8日、スコットランド・グラスゴー出身。グラスゴー芸術大学で絵画を、英国国立映画テレビ学校で映画を学ぶ。卒業制作として脚本・監督を務めた作品が 1986 年 エディンバラ国際映画祭のファースト・スコティッシュ映画賞を獲得。賞のプレゼンターは、1949 年のオリジナル『Whisky Galore!(原題)』を監督したアレクサンダー・マッケンドリックだった。以降、世界各国の映画祭で多数の受賞・ノミネート歴を誇る名監督として評価を受けている。映画代表作はケイト・ウィンスレット主演の『グッバイ・モロッコ』(1998)など。ジョージ・ルーカス製作のTVドラマ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』にも携わるなど、映画やTVドラマの監督・脚本家として活躍するほか、マンガや絵画も描いている。

▼『ウイスキーと2人の花嫁』作品・公開情報
2016 年/イギリス/英語/98 分)
原題:WHISKY GALORE!
監督:ギリーズ・マッキノン
原作:コンプトン・マッケンジー「Whiskey Galore」
脚本:ピーター・マクドゥガル
製作:イアン・マクリーン、アラン・J・ワンズ
出演:グレゴール・フィッシャー、ナオミ・バトリック、エリー・ケンドリック、ショーン・ビガースタッフ、ケヴィン・ガスリー、エディ・イザード、ジェームズ・コスモほか
配給:シンカ
© WhiskyGaloreMovieLimited2016

『ウイスキーと2人の花嫁』公式サイト

 

>>>『ウイスキーと2人の花嫁』予告編映像<<<

※2018年2月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!

取材・編集・文・インタビュー撮影:min

  • 2018年02月15日更新

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