『ローズの秘密の頁(ページ)』― 秘めた愛を聖書に綴り、逆境を生き抜いた女性の軌跡と奇跡

  • 2018年02月02日更新

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』メイン画像『マイ・レフトフット』(1989)でダニエル・デイ=ルイスにアカデミー賞主演男優賞をもたらし、『父の祈りを』(1993)でベルリン映画祭金熊賞を受賞したアイルランドの名匠ジム・シェリダンが監督と脚本を務める『ローズの秘密の頁(ページ)』が、2018年2月3日(土)より公開となる。原作は、英国およびアイルランド在住の作家を対象とした権威ある文学賞、“コスタ賞”に輝いたセバスチャン・バリーの小説「THE SECRET SCRIPTURE」。40年以上に渡り精神科病院に収容され続ける老女ローズの衝撃的な愛の記憶を、過去と現代の時間軸を往復しながら壮大なスケールで描き切る。ルーニー・マーラとヴァネッサ・レッドグレイヴがそれぞれ若き日のローズと現代のローズを演じるほか、エリック・バナ、ジャック・レイナー、テオ・ジェームズら実力派俳優たちの繊細な演技にも注目だ。

聖書のなかに隠された、一人の女性の壮大な愛

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』取り壊しが決まった、アイルランド西部の聖マラキ精神病院。転院する患者たちを再診するために派遣された精神科医のスティーヴン・グリーン(エリック・バナ)は、“精神障害犯罪者”として40年以上も収容されている老女ローズ・F・クリア(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)に出会う。赤ん坊殺しの罪に問われている彼女は、無罪であることと、自分の名が「ローズ・マクナルティ」であることを一貫して訴え続けているという。ローズの様子に何かを感じたグリーン医師は、彼女が大切にしている1冊の聖書の存在を知り興味を抱く。彼女は聖書のなかに、何十年にも渡って秘かに日記を綴っっていたのだ。頁(ぺーじ)をめくる毎に紐解かれていく、半世紀前のローズの真実。やがて、ローズ自身も自らの人生を語りはじめる……。

時代の檻に閉じ込められ、複雑にもつれ合う愛と無自覚な憎しみ

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』本作は、アイルランドの複雑な歴史と時代背景に翻弄された、一人の女性の愛とアイデンティティを巡る闘いを描く物語だ。第2次世界大戦下、ドイツ軍による英国への攻撃が激化するなか、両親のいないローズ(ルーニー・マーラ)は英領北アイルランドからおばの住む田舎町へと疎開する。住民のほとんどがカトリックの町で、プロテスタントのローズは異端の存在であり、なおかつ、異性を惹き付ける魅力を備えた彼女は人々の好奇と注目の的となる。そんな状況下、ローズが恋に落ちるマイケル(ジャック・レイナー)もまた、英国寄りの人間として町の住人たちから危険視されている存在だ。英国に征服された歴史を持つアイルランドは、第2次世界大戦中は中立国としての立場を守っていたが、マイケルは英国兵として出兵しIRA(アイルランド統一主義の強硬派)に追われる身となる。

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』一見すると、ローズとマイケルの関係は直感的過ぎるようにも思える。しかし、逆境のなかで信念を貫き通す者同士が強いシンパシーを感じるのは、むしろ自然なことなのかも知れない。そして、何よりこの運命的な愛に説得力を与えるのは、ルーニー・マーラのすべてを見透かすような神秘的な瞳だ。それは、老年期のローズを演じたヴァネッサ・レッドグレイヴにも共通している。ルーニーとヴァネッサ、2人の強く澄んだ眼差しが、物事の本質を鋭く見抜くローズの強さと、狂気すら帯びた純真な愛をことば以上に雄弁に物語る。

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』ローズを過酷な人生へと追いやったのは時代や戦争だけではない。ゴーント神父(テオ・ジェームズ)の恋心が、愛し合うローズとマイケルをさらなる逆境へと陥れる。しかし、ゴーント神父自身は決して悪い人間ではないのだ。敬虔なカトリックの神父として人々に敬われ、ローズへの親切心にも溢れている。しかし、男としての嫉妬心や支配欲に理性で抗えず、半ば無自覚に彼女を追いつめていく。恋愛感情という極めて主観的でコントロールの効かないシロモノは、ときに、大義名分を隠れ蓑にして愛する人を傷つける。さらに、追いつめている本人は悪意を悪意として自覚していないことも多いから、愛憎というやつは本当に始末が悪い。壮大な物語の節々に描かれる人間の愚かさや、みみっちくも醜い感情も本作の見どころであると思う。

ローズの受難は、現代の文明社会では遭遇することのない理不尽なものだ。しかし、ローズの愛の軌跡がもたらす “奇跡”は、目に見えない束縛や不自由のなかで自身自身を生きようともがいている人々を温かい気持ちにするだろう。俳優たちの心揺さぶる名演とともに、ローズの真摯な生き方とこの壮大な愛の結末をぜひ見届けてほしい。

 

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』ポスタービジュアル▼『ローズの秘密の頁(ページ)』作品・公開情報
(2016年/アイルランド/英語/108分)
原題:The Secret Scripture
監督・脚本:ジム・シェリダン
原作:セバスチャン・バリー「The Secret Scripture」
出演:ルーニー・マーラ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、エリック・バナ、ジャック・レイナー、テオ・ジェームズほか
配給:彩プロ
© 2016 Secret Films Limited

『ローズの秘密の頁(ページ)』公式サイト

※2018 年 2 月 3 日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開

文:min

  • 2018年02月02日更新

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