『月子』越川道夫監督&川瀬陽太さんトークショー― 映画を愛する二人が被災地で密かに共有していた“想い”とは

  • 2017年09月07日更新

『月子』トークイベント、越川道夫監督、川瀬陽太映画プロデューサーや配給という立場から数々の佳作を世に送り出し、『アレノ』『海辺の生と死』のメガホンを執った越川道夫監督の長編第3作、『月子』が全国順次公開中だ。父の自殺で生き場所をなくした青年・タイチと、障がい者施設から逃げ出してきた少女・月子の“ふたりぼっち”の旅路を描くロードムービーは、主演を務めた三浦透子と井之脇海の瑞々しい存在感とともに、観客たちの心に深い余韻と感動を広げ続けている。
2017年8月26日(土)に公開初日を迎えて以来、越川監督は時間の許す限り上映館である東京・新宿K’S cinameに自ら足を運び、舞台挨拶やトークショーに立っているが、同月29日(火)には、20年来の盟友であり“犬を連れた作業員”として本作に登場する俳優の川瀬陽太さんが駆け付け、2人でトークショーを行った。作品への愛に溢れる越川監督と川瀬さんが本作撮影中に密かに共有していた“想い”とは――?


「『月子』は、僕がこれまでに出会ってきた子どもたちや、子ども時代に会った人の姿を一生懸命に描こうとした映画」(越川道夫監督)

越川道夫監督(以下、越川):川瀬さんとは約20年前に、僕が配給で携わった福居ショウジン監督の『ラバ-ズ・ラバー』(1996)という映画で出会ったんだよね。確か、川瀬さんは役者として出演した初めての映画だったよね?

川瀬陽太さん(以下、川瀬):公開順としては作品が前後しますけど、撮影自体はそうですね。越川さんは、近年は監督として活躍されていて、公開中の『海辺の生と死』でもご一緒させていただいたけど、基本的にはプロデューサーであったり、配給であったりという形で20年前からお会いしていて。まさか、こんな風に2人でトークショーをやるとは思いませんでした(笑)。監督作品としては、12月公開の『二十六夜待ち』も待機しているし、立て続けに作品を撮られていますね。

越川:でも、1年に1本のペースですよ。

川瀬:そのペースで撮っていれば、もう立派な監督じゃないですか(笑)。

越川:川瀬さんも僕も、助監督からこの世界に入ったんだよね。僕自身は、積極的に監督をやろうとは思ってこなかったんだけど、50歳になって『アレノ』(2015)の監督をやることになって。はじめは少し困ったりもしていました。でも、これからは、あまり言い訳をしないでやっていこうと思います(笑)。

川瀬:でも、映画が好きで、ずっと映画に携わってこられて、ご自分の作品を作りたいと思われるのは納得できます。『月子』は福島という土地や、福島を抱えた日本ということも、メインテーマの一つであると思うんですが。

『月子』トークイベント、越川道夫監督越川:2015年に『海辺の生と死』を撮影して、東京に戻ってきて『アレノ』が公開になったんだけど、その頃から、あるきっかけで福島のいわきの子どもたちと関わるようになって、いわきに行くことが増えたんです。そんななか、2016年に相模原の障がい者施設で殺傷事件が起きて、この事件に対して個人的にかなり辛い気持ちを抱えてしまって……。それが『月子』を撮ろうと思ったきっかけです。月子とタイチという若い2人を主役にしようと思ったとき、僕は彼らを「逃がしたい」と思ったんです。

川瀬:この作品を観たとき、三浦さんと井之脇くんが本当に素晴らしいと思いました。だからこそ、中盤以降は、ときに月子の気持ちになり、ときにタイチの気持ちになり、観ていて辛くなってくるんですよね。台本を読んで、2人の道行きを知ってはいたけど、福島の富岡町が出てきて……。ぶっちゃけた言い方をすると、彼らは、上の世代からのツケを払わされているような人たちですよね。福島のことだけではなくて、当事者から見るとその悲劇に気がつかない、カギ括弧付きの「通常」の人たちや子どもたちが普通に存在しているわけで。

越川:そうですね。僕はプロデューサーとしても、震災以降に『楽隊のうさぎ』(2013)などを手掛けていますが、子どものための映画を作りたいと思うし、子どもと動物のことが描きたいと常にどこかで思っているんですよ。

川瀬:子どもを描くことで“未来”であるとか、“先”のことを描きたいということですか?

越川:“未来”という風にもあまり考えていないけど、子どもが好きなんですよ。『月子』は、僕がこれまでに出会ってきた子どもたちや、子ども時代に会った人……会えなかった人もいるけど、その姿を一生懸命に描こうとした映画なんです。

「僕たちはある一時期そこに行って、それらしいことをして帰るだけ。常にそういう気持ちをもって撮影に臨まなくてはいけないと思う」(川瀬陽太さん)

『月子』トークイベント、川瀬陽太川瀬:僕は月子とタイチが辿り着いた先にいる“作業員のおじさん”役で本作に出演させていただきましたが、それまで2人きりだった彼らの世界に登場して、“世界”を説明する役というか。寓話的な物語であるからと自分では解釈していますが、「大きな地震があって……」というセリフをわざわざ言ったり、ある種、その土地に起きたことの抽象的な存在として描かれていますよね。

越川:あの役のモデルになっているのは、実際に遺体捜索のボランティアとして犬を連れて福島に行っていた方なんです。その後、除染作業員になられるんですけど、ある事件に巻き込まれて殺されてしまって。たまたまその人と僕のいわきの友人が顔見知りで、その話を友人から聞いたとき、僕は彼に映画の中にいてほしいと思った。それで、その役を誰に頼むかというときに、川瀬さんしか思い付かなかったんです。こういう場所で言うのは照れるけど、川瀬陽太という俳優は、とても優しいと思うんだよね。

川瀬:(相当照れながら)ふっ……ははは!そうでしょうー!?

越川:中途半端に優しいんじゃなくて、本当の意味で優しいと思っているんです。

川瀬:いやぁ。もう、悪いことできないなぁ(笑)。

越川:いやいや、悪い役もやらないといけないからね(笑)。本当の意味で優しいと思ってオファーしているんだけど、現場で川瀬さんの芝居を見ていると、脚本の段階でいろいろとペシミスティックなことを考えていた自分の感覚が変わっていくんだよね。

川瀬:わかります。僕に限った話ではなくて、脚本って役者の命が吹き込まれることで、変わっていくものだと思うんですよ。それが、監督の喜びにもなり、「あちゃー」と思うようなこともあるのだろうけど。富岡町はまだオンタイムでいろいろなことが起きている現場で、不謹慎な言い方になってしまうんだけど、演じるうえではすごく“のれてしまう”役。そういう悲しさがありましたね。

越川:僕は映画を作るなかで作品が変わっていくことを良しとしたいし、映画が伸びていきたい方向というのが絶対に出てくるんだよね。僕が描いていた青写真を、いろいろな人が関わって越えていくときがやはり喜びじゃないですか。三浦透子と井之脇海という若く才能豊かな俳優と撮影をしていて、どんどんその青写真が変わってきていたところに、最後に川瀬さんが登場して。それで、一度は撮影を中断したんだよね。ダメだということじゃなくて、そういう芝居じゃないんだなって。2人も川瀬さんも映画のパーツとしてハマろうっていう芝居じゃないからね。僕はそういう俳優たちと一緒に映画を作りたいと思うんだけど。

『月子』トークイベント、越川道夫監督、川瀬陽太川瀬:『海辺の生と死』は戦時中の奄美の加計呂麻島を舞台にしていて、今回は福島の富岡町で撮影しているけど、僕たちはある一時期そこに行って、言い方は悪いけどそれらしいことをして帰るだけですよね。映画の撮影でそれを言い出したらキリがないかも知れないけど、常にそういう気持ちをもって撮影に臨まなくてはいけないと思うんです。

越川:そう。鈴木清順さんとは、晩年親しくさせていただいたのですが、清順さんがよく言っていたのは、「映画は借り物競走である」と。人が生活している場に入って、その土地や人の営みを止めて、邪魔をして作るという面がある。

川瀬:確かにそうですね。喜んでいただけるときもありますけど。

越川:もちろん、僕たちも喜んでほしいと思ってやっているけど。何かを一歩間違えると、“ハラスメント”という言葉に限りなく近くなることもあると思うんです。『海辺の生と死』のトークショーでも言ったけど、あの作品に出てくる軍隊の姿は、撮影隊として島に入る僕らの姿でもあると。そういう思いのなかで、映画を作らざるを得なかったし、常に作品への向き合い方というか、カメラの向け方は意識しますね。

川瀬:万人にウケるものなんて僕らは作れなくて、僕だって絶対にどこかで誰かを傷つけていると思っていますよ。

越川:でも、たとえどんな役でも、演じるということは自分の役を愛することでもあるわけじゃない? だから、そのやり方はすごく微妙だと思うし、大事にしていかないとシンドイよね。

映画『月子』トークショー、越川道夫監督、川瀬陽太川瀬:そうですね。結果的には映っている姿を観ていただいて、「どうですか?」と言うしかないですけど。でも、そういった気持ちは常にもっていたいと思います。

越川:そうだね。……って、あっという間に時間になってしまったけど、最後に川瀬さんから言っておきたいことはある?

川瀬:皆さん、今日は本当にありがとうございました。ちっちゃこい映画ですけど、三浦さん、井之脇くんはじめ、キャストにもスタッフにも、この作品を撮る理由は僕らの中ではピキっとあって、一生懸命に作った映画です。……って、僕が監督みたいなこと言っちゃった(笑)!

越川:いや、ありがとう(笑)。皆さんも、川瀬さんも、今日は本当にありがとうございました!

 

映画『月子』ポスタービジュアル▼『月子』作品・公開情報
(2017年/日本/122分)
監督・脚本:越川道夫
撮影:山崎裕
音楽・音響:宇波拓
挿入歌:「天には栄え」歌/森ゆに、ギター演奏/宇波拓
出演:三浦透子、井之脇海、奥野瑛太、信太昌之、鈴木晋介、杉山ひこひこ、大地泰仁、信川清順、吉岡睦雄、内田周作、礒部泰宏、岡田陽恵、川瀬陽太
配給:スローラーナー、フルモテルモ
©2017 株式会社ユマニテ

『月子』公式サイト

※2017年8月26日(土)より新宿K’S cinameにて全国順次公開

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取材・編集・文・イベント撮影:min

  • 2017年09月07日更新

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