『すばらしき映画音楽たち』トークイベント・レポート― ハリウッド映画音楽の舞台裏に迫るドキュメンタリーの魅力

  • 2017年08月19日更新

『すばらしき映画音楽たち』トークイベント/宇野維正2017年7月15日~8月18日に開催され、今年も大盛況のうちに幕を閉じた「カリコレ2017/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2017」(以下、カリコレ)。なかでも、上映全5回のチケットが即日完売し、追加上映も全回満席となるほど反響を呼んだのが、ハリウッド映画音楽の舞台裏を追ったドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽たち』だ。

ハリウッド映画史100年を彩るすばらしい音楽の数々は、どのように誕生し、どんな変化を遂げてきたのか。『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター シリーズ』のジョン・ウィリアムズ御大、『ライオン・キング』『パイレーツ・オブ・カリビアン シリーズ』のハンス・ジマーをはじめ、米映画界を代表する名音楽家たちの本音や制作秘話を、貴重なインタビュー映像や作品映像とともに解き明かしていく本作。カリコレでは、8月6日の上映回後にトークイベントが催され、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏が登壇した。映画と映画音楽に関する豊富な知識を交えながら、わかりやすく本作の魅力を紐解く宇野氏のトークに、観客たちは熱心に聞き入り、充実した時間を過ごしたようだ。本リポートでは、その全容をダイジェストでご紹介する。


― 本作の感想について

宇野維正氏(以下、宇野):「映画音楽が好き!」というマット・シュレーダー監督の思いがストレートに伝わってくる作品で、作りはオーソドックスだけど、ためになったし、大変おもしろかった。

クエンティン・タランティーノや、クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソンは、今でもフィルムで映画を撮っているけど、資金も莫大にかかるうえに、上映館も限られる。それでも、フィルムを使うのは、作家としての純粋な欲求とともに「フィルム文化を守る」という動きでもある。そういった点で、彼らは芸術的なトップ・ディレクターと言えると思う。ハンス・ジマーはデジタル以降の映画音楽家の代表格にも関わらず、オーケストラを維持するのは映画音楽にとって生命線だと語っていて、そこに説得力を感じるし、オーケストラを守ることは、オーケストラ・レコーディングのできるスタジオを守るということでもある。シュレーダー監督はオーケストラによる映画音楽が純粋に好きでこの作品を撮っているけど、結果的に、「映画音楽におけるオーケストラを守る」という意義のようなものが、監督の意図を越えて生まれているように感じた。

― 本編中で多くの音楽家たちがリスペクトを表する、ジョン・ウィリアムズとハンス・ジマーの特長とは

宇野:ウィリアムズがオーケストラ映画音楽の伝説的な人物なら、ジマーは前述したようにデジタル以降の代表格。ウィリアムズはあれだけの作品(『ジョーズ』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』等)を手掛けているのだから、作品の思い出も込みで“神”扱いされるのもわかる。『スター・ウォーズ シリーズ』のように、全編でオーケストラの音を聞けるスコアは減っており、同作の感動はそこにもあるし、皆が知っているメインテーマだけじゃなく、新シリーズの度に作られる新曲のレベルが、1977年当時から全く下がっていないことにも驚かされる。

ジマーはクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』で、次の次元を切り拓いていた。今年10月に日本公開されるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ブレードランナー2049』は、僕が今一番好きな音楽家で、同じくヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』などを手掛けたヨハン・ヨハンソンが音楽を担当するはずだったが、いつの間にかジマーに引き継がれていて…。このクラスの作品はやはりジマーの手を借りるのかと、衝撃を受けた(笑)。

― “ポスト”ハンス・ジマーとして宇野氏が名を挙げるとしたら誰か

宇野:オーケストラとデジタル、2つの大きな映画音楽の流れを跨いで突出した作品を生み出しているという点で、本作にも登場するトーマス・ニューマンと、坂本龍一さん。ニューマンの手掛けた『007 スカイフォール』は、ここ10年くらいでは突出していると思う。2時間20分を越える全編のほとんどのシーンで音楽がかかっていて、しかも細かいカット割りや動きに音が連動している。音はオーケストラだけど全部デジタル編集されていて、どうやって作っているのか、プロでもわからない。

本作を観てわかるのは、映画音楽家の一人ひとりにセオリーがあり、基本的に特殊技能だということ。ハッキリ言って、ハリウッド映画の大作は5、6人の音楽家に仕事が集中している。『マッド・マックス 怒りのデスロード』のジャンキーXL(トム・ホルケンボルフ)や、本作には登場しないけど『スパイダーマン:ホームカミング』のマイケル・ジアッキーノもそうだが、おそらく彼らには突出した才能だけではなく、何百億という予算のプレッシャーに負けず、納期を守るという特殊技能が備わっているんだと思う(笑)。

― 技術的な意味での最新の映画音楽とは、どういったものか

宇野:1990年代後半からドルビーシステムが映画館に普及していったことと連動して、旋律で聴かせる映画音楽から、音圧と音響重視になってきていると思う。象徴的なのはやはりジマーで、低音がすごくデカい。家で楽しもうと思ったら、よほど予算をかけてシステムを構築する必要があるし、そこに、映画館で映画を観ることの意味も付いてきているよう感じる。配信などで高レベルのコンテンツが観られるようになった今、映画館に人を呼ぶためにIMAXや3D、4DXなどがあるけど、それ以上に、あの音量や音圧で映画を観られることが、映画館に行く一番の理由じゃないだろうか。観客は、それに無意識に気付いていると思うし、ジマーやジャンキーXLの音楽は、そこにマッチしているんだと思う。

― 今後の音楽家と映画監督との関係性について

宇野:ヒッチコックやスピルバーグと同様に、名匠にはお気に入りの音楽家がいる。デヴィッド・フィンチャー監督は、ほぼ全作品をナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーや、アッティカス・ロスと一緒にやっているけど、新しいパートナーシップを監督と築くのは、ポピュラー・ミュージックやバンド出身の人が多い。ポール・トーマス・アンダーソンもレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドと組んでいるし、トム・ヨークもイタリアのダリオ・アルジェント監督と組んでリメイク版『サスペリア』(日本公開未定/2017年8月現在)の音楽を手掛けている。トップ・バンドのヴォーカリストが映画音楽を手掛けるのが、ミュージシャンのセカンドキャリアとして確立されつつあり、ダンス・ミュージックも含めたポピュラー音楽の人達が映画界に参入して、監督と密接なパートナーシップを築いているのが、今の映画音楽の最先端と言えると思う。今後は、監督がパートナーとなる映画音楽家を見つけて、離さないことが重要になるのではないだろうか。撮影監督も然りで、監督の作家性には、音楽と撮影のパートナーをどれだけ抱え込めるかが一つの大きなポイントになると思う。

― 本作を観ながら自分にとっての思い出の曲を探すのも一興だと思うが、宇野氏にとってのこの1曲は?

『すばらしき映画音楽たち』トークイベント/宇野維正宇野:映画音楽の特集記事などの依頼を受けると、自分的には劇伴のことを書きたいと思っていても、編集側の意図としては映画のなかのポップ・ソングについて語ってくれということが多い。一般的にいう映画音楽とは、『卒業』でいうところの「サウンド・オブ・サイレンス」(サイモン&ガーファンクル)みたいなことだと思うし、その辺がごっちゃになっているのを痛感する。タランティーノがすごいのは、ポップ・ソングの使い方を変えたことだと思う。『ヘイトフル・エイト』の音楽をエンニオ・モリコーネに頼んだりという劇伴のすごさもあるけど、劇中でCDやレコードをかけたり、ラジオから音楽が流れたりっていう状況音以外のポップ・ソングをダサいものにしてしまった。そういう意味での極め付きがエドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』だと思う。主人公が全編にわたってiPodの音楽を聴いているけど、実際に劇中で流れている音楽じゃないとポップ・ソングは耐えられなくなってきていると思う。そういう風にしたのはタランティーノだと思うし、エドガー・ライトはそこを更新している。でも、自分的には劇伴を語るほうが楽しい(笑)。

 

▼『すばらしき映画音楽たち』作品・公開情報
(2016年/アメリカ/93分)
監督・脚本・編集:マット・シュレーダー
出演:ハンス・ジマー、ダニー・エルフマン、ジョン・ウィリアムズ、ジェームズ・キャメロン、ランディ・ニューマン、クインシー・ジョーンズ、ハワード・ショア、パトリック・ドイル、ブライアン・タイラー、スティーヴン・スピルバーグ、ゲイリー・マーシャル、クリストファー・ヤング、エルマー・バーンスタイン、バーナード・ハーマン、アルフレッド・ニューマン、マックス・スタイナー、トレント・レズナー、アッティカス・ロス
配給:アンプラグド
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『すばらしき映画音楽たち』公式サイト

※2017年10月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

 

取材・編集・文・イベント撮影:min

  • 2017年08月19日更新
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