『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 〜天才と呼ばれたバレエ界の異端児、その孤独な素顔 〜

  • 2017年07月16日更新

19歳で英国ロイヤル・バレエ団史上最年少のプリンシパルとなるも、わずか2年後に、人気と実力のピークで退団。バレエ界きっての異端児、セルゲイ・ポルーニンの知られざる孤独と苦悩の日々、そして再生までを綴ったドキュメンタリー。
2017年7月15日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

天才バレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンが完成、そして崩壊を経て再生するまで
【あらすじ】ウクライナ出身のセルゲイ・ポルーニンは、6歳のときに体操からバレエへに転向。類い稀なる才能を見せ始めた彼のバレエ人生を金銭的に支えるため、家族はそれぞれが外国に稼ぎに出ることになる。それに応えるように、ポルーニンはめきめきと実力をつけ、2009年19歳で英国ロイヤル・バレエ団史上最年少のプリンシパルとなる。「久しぶりの大型スター登場!」とバレエ界は沸くが、反面、ポルーニンには、タトゥーを彫るなど名門バレエ団に見合わない行動が多く、問題多き異端児としても評判になる。そしてわずか2年後には電撃的に英国ロイヤル・バレエ団の退団を発表。当時、ポルーニンに一体何が起こっていたのか? その真実に迫るとともに、彼が再生する姿までを綴る。

血の滲むような努力だけが天才を育てる
天才が完成されるには、何より本人の血の滲むような努力が必要だろう。肉体的苦痛に耐え、精神的なプレッシャーを乗り越え、毎日コツコツと才能を磨き続けなければならない。そして、家族の協力も必要となる。特にバレエという世界的にスケールの大きな業界ともなれば尚更だろう。本作を観ると、裕福でない家庭出身のポルーニンが、スター・ダンサーに登り詰めるために、家族と共にいかに心血を注いで来たかがよくわかる。

天才バレエダンサーとしての心情を体験できる演出

本作はバレエダンサーのドキュメンタリーと呼ぶには、かなり異色な作品だろう。通常長回しで挿し込むであろう舞台の舞踊シーンは、技の見せ場が切り取られ、ロックなど別の曲が当てられている。これは本作がバレエダンサーの半生を客観的に描いた作品ではなく、ポルーニン本人の内面から描こうとしているからなのだろう。それゆえに、本作を観るとポルーニンの苦悩が、まるで我が身のように感じられ、天才の内側に潜り込んだような思わぬ感覚を覚える。ポルーニンがどうやって「天才」と呼ばれる

ダンサーとなったのか、そして多くのダンサーから羨まれる名門バレエ団のプリンシパル

という立場にありながら、なぜ奇行を繰り返したのか……。本作で明かされたポルーニンの姿、その言動は、決して一般に理解されないものではなく、世界中のだれにも共通する「人間としての苦悩」の結果だということがわかるのではないだろうか。そして「踊るのもつらい、踊らないのもつらい」という行き場のない世界に迷い込んでしまったポルーニンが『Take me to church』で自分自身の内面を表現し(この曲は、一曲通して踊りが収録されている)、再生していく姿はとても力強い。バレエとは無縁な人が観ても、この天才ダンサーの半生に自分を重ね、明日への希望を見出すことも可能だろう。

▼『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』作品・公開情報
(2016年/イギリス・アメリカ/85分/カラー、一部モノクロ/16:9/DCP)
原題:『DANCER』
出演:セルゲイ・ポルーニン、イーゴリ・ゼレンスキー、モニカ・メイソン ほか
監督:スティーヴン・カンター
劇中映像『Take me to church』演出・撮影:デヴィッド・ラシャペル
配給:アップリンク・パルコ

●『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』公式HP 

2017年7月15日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

  • 2017年07月16日更新

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