【スクリーンの女神たち】『いぬむこいり』主演・有森也実さんインタビュー

  • 2017年05月12日更新

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー『ピストルオペラ』『オペレッタ狸御殿』のプロデューサーとして21世紀鈴木清順ワールドを世に出し、監督としても独自の映画表現に挑み続ける片嶋一貴監督の最新作、『いぬむこいり』が2017年5月13日(土)より新宿 K’s cinemaほか全国順次公開となります。伝承民話「犬婿入り」をモチーフに、4章構成&4時間超えというスケールで綴る物語は、“魂の救済”という普遍的かつ根源的なテーマを辛辣な風刺とユーモア、そしてエロスを交えて描く現代絵巻物語。そんな本作でヒロインの梓を演じるのが有森也実さん。何をやってもダメな小学校の女教師が、“お告げ”に導かれて数奇な運命を辿るなか、美しく逞しく成長を遂げる姿を、文字通り体当たりで演じきっています。そんな有森さんに、本作への思いや撮影時の様子などを伺いました。

<有森也実プロフィール>
神奈川県横浜市出身。雑誌モデルとして人気を博し、1986年に『星空のむこうの国』で映画デビュー。同年には山田洋次監督『キネマの天地』のヒロイン役で、 第29回ブルーリボン賞新人賞、第10回 日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も、テレビ、CM、映画、舞台など幅広く活躍。主な映画出演作は『新・仁義の墓場』『育子からの手紙』『五つ星ツーリスト THE MOVIE』。片嶋一貴監督作品には『小森生活向上クラブ』『たとえば檸檬』『TAP 完全なる飼育』に続き、本作が4作目となる。


女優を辞めてもいいと思うほど激しく消耗した作品

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー― 片嶋監督とのタッグは4作目ですね。回数を重ねた分の “やりやすさ”みたいなものはありますか?

有森也実さん(以下、有森):そうですね。撮影スタイルはわかっているので、漠然とした不安や怖さはないですね。

― とはいえ、毎回かなりエッジの効いた作品で、最初に脚本を読むときは戸惑われたりもするのではないでしょうか。

有森:うーん。片嶋監督の作品に関しては、いつも挑戦状を突きつけられるような感じで。戸惑うというよりは、脚本をもらう度に「さあ、どうやって挑もうか!」って自分を奮い立たせています。

― 今作で演じられた梓の人物像や役づくりについて、監督と話し合われたことがあれば教えてください。

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー有森:梓のキャラクターについては当て書きをしていただいたので、できるだけ有森也実のままで演じるというのが監督との共通認識としてありました。

― では、割とスムーズに梓という役に入ることができたのでしょうか?

有森:ところが、そんなことはなくて(笑)。脚本を読んだ時点である程度は役を理解したつもりでしたが、現場は大変でした。そんなに簡単には梓にならせてくれなくて、監督も随分粘りましたし、わたしも自分と向き合うことに疲れてしまうこともあったし。

― 監督が粘られたのは、どういった部分だったのですか?

有森:同じシーンでも「もう一回!もう一回!」という感じですね。何が違うのかが明確であれば改善の余地があるんですけど、監督自身も感覚的な方なので、“何かが違う”という要求で。でも、そんな風にテイクを重ねていくなかで、梓がどんどん出来上がっていくという実感はありました。ただ、撮影中は無我夢中で、自分が梓になりきれているのかどうかを客観的にみることができなかったんです。

― そうだったのですね。では、できあがった作品をご覧になったときは、どう思われましたか?

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー有森:3回目に観たときに、やっと「梓になれていた」と思えました(笑)。

― 1、2回目はどういう感情でご覧になったのですか?

有森:1、2回目のときは、まだ撮影の痛手から立ち直れていなくて。冷静に観ることができなかったんです。もう女優を辞めてもいいかなって思うくらい、この作品と向き合うことで激しく消耗してしまって……。

― 全身全霊で役に挑まれたていたのですね。主な撮影は鹿児島県の指宿で行われたそうですが、撮影の合間にどこかへ行ったり、リラックスするような時間はあったのでしょうか。

有森:指宿には1ヶ月半くらい滞在していましたが、かなりタイトな撮影スケジュールで、どこかへ遊びに行くとか飲みにいくことはほぼなかったですね。撮影から宿に帰ったらバタンキューで。唯一のリラクゼーションといえば宿の温泉で、帰ったらすぐに飛び込んでいました(笑)。

― この世に温泉があってよかったです(笑)。飛び込むといえば、無人島で全裸になって泳ぐシーンが印象的でした。妖艶なシーンももちろんステキでしたけど、あのヌードシーンは同性の目から観ても、とてもヘルシーで眩しかったです。

有森:そう観ていただけるのは、とてもうれしいですね。

― 今作のヌードシーンでこだわられたことはありますか?

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー有森:ヌードシーンに限らず、今作では監督とディスカッションする時間があまりなくて。でも、それがかえって良かったのかも知れないですね。あっさりと、自然な感じでヌードになれたと思います。

― 同性としては、肌を露出されるシーンの前はどういったボディケアをされるのかが気になるところです。

有森:いろいろやりますよ。筋トレをして、クラシックバレエのレッスンをして、食事制限も少しして、エステに行って……。あとは、温泉に入って(笑)。そもそも玄米菜食ですけど、タンパク質を加えるために、撮影前はお肉もしっかり食べていました。撮影中もロケ帰りにスーパーに寄って、買った野菜を宿で食べたりしていましたね。指宿はオクラの産地として有名なだけあって、ほんとうに安くて美味しいんです。ポットの湯に15分くらい浸けて軽くボイルして、刻んで鰹節とお醤油をかけて食べたり。指宿の鰹節もすごく美味しくて!

― 美味しそうです(笑)。お忙しいなかでも、しっかりと自己管理されていて尊敬します。ところで、梓の嗅覚は特別に鋭いものですが、女性には直感的に相手の本質を見分けるような、嗅覚に近い感覚が本能的に備わっているように思うんです。有森さんご自身は、人に対する嗅覚は敏感なほうですか?

有森:女性の直感力ってありますよね。ただ、わたし自身は、人に対する好き嫌いがほとんどないんです。もちろん、「嘘くさいなぁ」とか「うさんくさいなぁ」と感じることはあるし、そういう人に必要以上に接することはいないけど、苦手だからとシャットアウトすることはないですね。出会うのも何かの縁ですし、女優の仕事をするうえでは私情を入れると役の邪魔にもなりかねないですし。できる限り人に対して先入観をもたず、苦手意識を蓄積させないことは常に心掛けています。心掛けというより、そういう考え方がクセになっている感じかな。

最悪な状況下だからこそ見付けられるものがある

― 本作はさまざまな社会的メッセージを含んだ作品でもありますが、梓という女性の自分探しの物語でもあると思うんです。梓と同じように自分が何者であるかを模索している人にとっては、共感する部分がたくさんあるんじゃないかと。

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー有森:“普通の女の話”ですよね。革命家でも政治家でもなければ、世の中に対して強いメッセージのあるタイプじゃない女性がヒロインであることが、この作品の一つの魅力だと思うんです。梓は少し臆病で、嗅覚のせいでうまくいかないことも倍になって返ってきちゃうような人だけど、何かしら人の役に立ちたいという気持ちは持っている。「自分はどんな人間で、どんな風に社会に役立っていけるのだろう?」という漠然とした思いを抱えて生きているんです。そういう女性が生きる指針を求めて、お告げのようなものに身を委ねてしまう。それをバカバカしいと思う人もいるかも知れないけど、梓にはそういう素直さがあって、だからこそ、巻き込まれた物事に対しても、「何かのためになるんじゃないか」と信じて進んでいけると思うんです。そんな風に自分の価値を見出そうとする空気感は、今を生きる人たちのなかにもあるんじゃないかな。

― 確かに、そうですね。わたし自身も、梓と自分を重ねて観るシーンがたくさんありました。でも、梓の辿った運命は彼女自身が嗅ぎ分けて辿り着いたものであるし、抗えない大きな力や宿命みたいなものに導かれた結果にも思える。そのバランスをどう捉えるかで、この作品から受け取るメッセージも変わってくるとも思うんです。有森さんご自身は、梓の運命をどう解釈されましたか?

有森:うーん。わたしは、梓がさまざまな経験をしたからこそ、最悪な状況下でも本当に大切なものを見付けられたと思うんです。最悪の状況で一番大切なことに気付くというのは一見アンバランスだけど、今、現実でも辛い状況にいる人がたくさんいて、そういう人たちに「そこでこそ見付けられるものがあるんだよ」という、優しいメッセージを発信しているようにも思えるんですよね。辛さや痛みを伴っても、本当に関わらなくては生まれないものがある……って、よく出来ていますね、この映画(笑)!

― 本当ですね(笑)!有森さんのお話を伺って、わたしも作品への理解と興味がますます深まりましたし、今日のお話を踏まえて、もう一度この作品を観たいと思います! 本日はありがとうございました。

 

『いぬむこいり』主演・有森也実インタビュー★ミニシア名物! 女神の靴チェック
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事前に足元の撮影をお願いすると、当日は私物の靴で登場してくださった有森さん。ネイルと靴の色を合わせたコーディネートが、とてもステキでした。すっと伸びた背筋でピンヒールを履きこなす秘訣は、幼い頃から続けているクラシックバレエのレッスンと、ここ半年くらいハマっているというフラメンコのレッスンだそうです。

 

 

『いぬむこいり』ポスタービジュアル▼『いぬむこいり』作品・公開情報
(2016 年/245 分/日本/R-15+)
監督:片嶋一貴
撮影:たむらまさき
出演:有森也実、武藤昭平(勝手にしやがれ)、江口のりこ、尚玄、笠井薫明、山根和馬、韓英恵、ベンガル、PANTA、緑魔子、石橋蓮司、柄本明
配給・宣伝:太秦
©2016 INUMUKOIRI PROJECT

『いぬむこいり』公式サイト

<STORY>東京の小学校で教師として働く梓の実家には、先祖代々伝わる物語があった。それは、お姫様と軍功を上げた家来の犬が結婚するという「犬婿伝説」。ある日、勤務先の学校で問題を起こし、フィアンセにも別れを告げられ、何もかもうまくいかない梓が落ち込んでいると、天から「イモレ島へ行け。そこには、おまえが本当に望んでいる宝物がある」と、お告げが聞こえる。すべてを捨てて宝探しの旅に出た梓だが、行く先々では数々の苦難が待っていた……。オフビートなペテン師、ゴロツキ革命家、引きこもりの元ギタリスト、犬に変身する亡命王子……どこか狂った連中との出会いと別れのなかで、少しずつ「犬婿伝説」と自分の関わりに気付かされる梓。数々の煩悶と挫折を繰り返しながら、辿り着いたイモレ島で梓が見たものとは……!?

2017年5月13日(土)より新宿 K’s cinemaほか全国順次公開

取材・編集・文:min スチール:ハルプードル

  • 2017年05月12日更新

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