映画評論家、町山智浩氏マジカルトークショー!(映画『マジカル・ガール』日本公開記念イベント)

  • 2016年03月12日更新

2014年サン・セバスチャン国際映画祭にてグランプリ、監督賞をダブル受賞したカルロス・ベルムト監督『マジカル・ガール』。2016年3月12日(土)からの日本公開を記念し、映画評論家の町山智浩さん登壇のトークショー付きプレミア上映が行われました。 3月3日(木)、満席になったヒューマントラスト渋谷の会場にて、短い時間ながら会場を熱くした町山さんの”マジカルトーク”をレポートします。映画『マジカル・ガール』を紐解いて語られたのは、作品に組み込まれたカルロス監督の思い、隠されたモチーフ、裏話など、前のめりで聴きたくなる情報ばかり。お楽しみください!




この日、トークショーが始まってすぐに客席に向かって感想を聞き、質問を募り始めた町山智浩さん。しかし『マジカル・ガール』の独特な作風に戸惑ったのか、作品観賞直後の観客からは挙手が若干少なめでした。町山さんのこの質問の意味は、トークの中で明らかにされていきます。以下、町山智浩さんのお話をまとめました(ネタバレ防止等のため、多少、表現の言い換えをしています。ご了承ください)。

町山智浩さん(以下、町山):さて、この作品の冒頭のシーンなんですが、少女時代のバルバラが手品を見せるじゃないですか。この映画のタイトルの『マジカル・ガール』というのは、(魔法少女に憧れるアリシアだけでなく)、人妻のバルバラのことも言ってるんです。マジックを使う女性ということ。だから本当は、複数形(ガールズ)の方が正確な感じですけどね。この監督はネット配信の作品は撮ってるんですけど、劇場用映画としてはこの作品が初めてなんです。カルロス監督はもともと漫画家なんです。公式ポスターの絵柄は監督自身が描いた絵なんですよ。バルバラの額の傷は黒蜥蜴(くろとかげ)になってるんですね。

江戸川乱歩作、三島由紀夫戯曲、深作欣二監督、丸山明宏主演の「黒蜥蜴」が色濃く影響!
町山:黒蜥蜴は、もともと江戸川乱歩の小説の登場人物で、女怪盗なんです。この小説を作家・三島由紀夫さんが舞台劇にして、黒蜥蜴役に選んだのが美輪明宏さん(当時は丸山明宏)さん。美輪さんは黒蜥蜴のテーマも作詞作曲して、それがこの作品のエンディングでも流れる曲です。今回はピンク・マルティーニっていうグループがカバーしています。
『黒蜥蜴』は映画化もされていて、深作欣二監督、丸山明宏さん主演版(1968年公開)が、カルロス・ベルムト監督も大好きなんです。60年代終わりのヒッピーで、ロックンロールで、セックス&ドラッグで、サイケデリックな世界観です。サイケデリックってわかりますか? LSDをやって頭がグルングルンになっているところをアートで表現するんです。ゴーゴー・ガールがミニスカ履いて、ファズのかかったギターのロックンロールを、薬でラリったような状態で踊りまくるところに、ゼラチンライトのグニャグにゃとうごめく照明を部屋中に当てて。そこでみんなクスリ飲んでトリップするという素晴らしい文化があったんですよ! それを映画の中に取り込んでいる『黒蜥蜴』、今観てもすごくかっこいんですけれど、カルロス監督も大好きになったそうです。その黒蜥蜴がモチーフとしてこの『マジカル・ガール』に沢山盛り込んでいるんですね。この黒蜥蜴は、心の冷たい女っていう設定なんです。ところが明智小五郎だけをはじめて愛して、冷たい心の女が熱い心を燃やして…っていう話なんですが、それがこの映画もモチーフになっています。




悲劇は、あらぬ方向からやってくるという真実
町山:この映画で一番感じたと思うんですが…嫌な気持ちになりませんでした? 少女アリシアは幸せだったのか? というと、わからないけど、少女の夢は叶いましたね。少女の夢を叶えたのは誰でしょう? バルバラですよ。バルバラの自己犠牲によって、少女の夢は叶ったんです…非常に困った映画ですよ。どう考えていいかわからなくなる。そう作ってあるんです。カルロス監督は「キリスト教における自己犠牲の精神、そういったものの中で自分は育ってきているからこそ」と言っていました。残酷で、酷くて。それをこの映画でやりたかったと言っているんですね。
それに、この映画、変な展開だと思いませんか? 最初はほのぼのとしてて、アニメ大好きな女の子が白血病になって、その子の夢を死ぬまでに叶えてあげたいお父さんの話だと思ったら、怪しい組織とか変態ジジイとか出てきて…「えっ?」っ思いませんでした? この「あれあれあれ?」って訳のわからない方向への展開が、監督がやりたかったことだそうです。「元々の思いと、全然関係ないところへ展開していくというのは、実は現実なんだ」とも言ってます。ある悲劇が起こったとき、元をたどっていくということを誰もしようとしないけれど、たどっていくと、それはもしかしてとんでもないところに行き着くかもしれない…ということをやりたかったそうなんです。そういう映画というのは存在します。興味を持ったらぜひ観て欲しいんですが、ロベール・ブレッソンの『ラルジャン』(1983年公開)という作品。これは、1枚のニセ札をあるティーンエイジャーが使ったことから、どんどんどんどん恐ろしい犯罪へと転がっていく「風が吹けば桶屋が儲かる」という映画なんですね。この作品はその手の映画では一番こわい、と言われています。

スペインの「少年少女が汚れなき夢を抱く」というダーク・ファンタジーな文化

町山:少年少女が汚れなき夢を抱いてお祈りをするという話は、カトリック的で、イタリアとかスペインの文化の中では一つの定型があるんです。「残酷なんじゃない?」と思う人もいると思うんですけれど。ギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2006年公開)は、その構造です。監督に「スペインって、そういう映画がすごく多くない?」と聞いたら「ああ、子どもの頃からそんな映画ばっかり見せられてるよね!」って言ってました。『汚れなき悪戯』(1955年公開)は、カルロス監督も子どもの頃から見せられて「『リング』の貞子より嫌だった!」って言ってました(笑)。これは、教会に引き取られた孤児がお母さんに会いたいと願い続けるんですね。教会には十字架にはりつけられたキリスト像があるわけですよ。「これが困っている人の願いを叶えてくれる神様っていうのですよ」…あとは作品を観ていただければと思います。そして、わかりやすい例は『フランダースの犬』。これはフランス人が書いた作品ですが、一種のハッピーエンドですよね…願いが叶ったんですから。カルロス監督はこういうものにすごく「なんだよ!」って気持ちがあって、だからこういう作品を作ったって言ってましたね。それからスペインの作品といえばビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき」(1973年公開)。女の子が願いをかけて奇跡が起こるって話です。こういった設定は、スペインの文化なんですよ。

ブラックボックスが仕組まれている『マジック・ガール』。彼らに何が起こったか?

町山:みなさん『マジカル・ガール』の章立ては、気にならなかったですか?「世界」「悪魔」「肉欲」ってついてるじゃないですか。これらはカトリックでは、人間を神から遠ざけるもの、誘惑するものとして教えられていて、これが人間をダメにするんだと教えられてきたそうです。カルロス監督は「それってイヤな文化だよね」って言ってました。それを作品に取り入れてるんですね。
それから『マジカル・ガール』を観て一番疑問に思って欲しいのが、ダミアン先生のこと。なぜバルバラの言うことを聞きくんでしょう? 冒頭のシーンで、少女時代のバルバラはダミアン先生の授業を妨害したと怒られた。で、次に登場したら時間が経っていて、ダミアン先生は刑務所に入っているんですよ! しかもあんな歳まで。 どう考えても大罪を犯してます。学校の数学の先生ですよ、もともと。ぼくはカルロス監督に聞きました。「一体、彼女とダミアン先生の間に何があったんですか?」と。そしたら「わかりません」って言われました(笑)。彼も色々考えたんだけど、考えて答えを出すより、みんなに考えてもらいたいそうです。バルバラとダミアン先生の間に何が起こったか…みんなにそれぞれ、できるだけ、嫌な、嫌な想像をしてもらったほうが面白いだろうということなんです。

疑問が出てくるのがいい映画。疑問を抱くのが楽しんだ証拠
町山:この作品は奥とか裏側にいろんな映画とか、キリスト教とか、そういったネタ元があります。そして長山洋子さんが、歌の使用をどうして許可したのか…いろいろ気になりませんか?(笑)これから帰り道で、いっぱい疑問が湧いてくると思います。だからぼくは冒頭で皆さんに質問したんです。いっぱい疑問が出てくるのがいい映画だし、疑問がいっぱい出てくるのが、いい映画の観かたです。もしも疑問が出てこなかったとしたら…これは映画だけじゃなくて、芸術を見て、世界を見て、ということでも共通です。それは、しっかり楽しんでいないということだと思いますよ。これからいっぱい疑問が出てくると思うんで、自分なりの一番、嫌〜な答えを想像してください。すると、この映画はすごく楽しくなります!



▼『マジカル・ガール』作品・公開情報
(2014年/スペイン/カラー/127分/シネスコ)
監督: カルロス・ベルムト
出演: ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン ほか
●『マジカル・ガール』公式サイト
配給:ビターズ・エンド
3月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー!
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

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取材・編集・文・撮影:市川はるひ



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