『ディーパンの闘い』~フランス、パリ郊外。スリランカ内戦を逃れてきた、難民疑似家族を待ち受けるもの~

  • 2016年02月11日更新

ディーパンの闘い 難民、移民、フランスの抗争など、現代の社会情勢を盛り込んだ、スリリングなドラマ。家族を失い、戦意も喪失したスリランカの元兵士が、愛のために再び立ち上がる。元兵士を主演俳優に起用、孤独と再生をリアルに描き、骨太に仕上がった作品。フィルム・ノワール的な作風が持ち味のフランスの鬼才、ジャック・オディアール監督による本作は、コーエン兄弟やグザヴィエ・ドランら審査員から絶賛を得て、第68回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールに輝いた。

内戦で家族を失い、疑似家族になってフランスに渡る3人。新天地パリ郊外での新しい日々は…
ディーパンの闘い 内戦の続くスリランカ。戦火で家族を失った3人が出会い、移住許可を得るため疑似家族となる。3人は、夫”ディーパン”(アントニーターサン・ジェスターサン)、妻”ヤリニ”(カレアスワリ・スリニバサン)、娘”イラヤル”(カラウタヤニ・ヴィナシタンビ)としてフランスに渡る。ディーパンは「タミル・イーラム解放の虎」の元兵士だが、すでに闘争心を失い、新天地で穏やかな生活を望んでいた。パリ郊外の住まいと共に、ディーパンはその団地の管理人という職を得る。娘イラヤルはフランス語を覚え、なかなか新しい生活になじまなかった妻ヤリニも、ようやく家政婦という仕事で、自分の居場所を見つける。日々を重ね少しずつ親密になってゆく3人。しかしささやかな幸せを目前に、団地内で密売組織の抗争が勃発。彼らは、再び銃弾が飛び交う争いに巻き込まれていく…。

本物の元兵士を起用、魂そのものが演技するかのような演出。
ディーパンの闘いディーパンの闘い 暴力を捨て、分別を身につけた男が、愛する家族のために怒りに燃え、立ち上がる姿は「わらの犬」(1972日本公開 サム・ペキンパー監督)の主人公を思い出させる。主人公”ディーパン”を演じたのは実際に元スリランカの兵士だったアントニーターサン・ジェスターサン。16歳でタミル・イーラム解放の虎に入隊、19歳まで少年兵として戦い、その後、亡命し作家となった。演技は未経験だというが、鋭く熱い眼光と、落ち着いた物腰が”ディーパン”としての説得力をみせる。ジャック・オディアール監督は、彼の魂そのものが演技しているかのような演出で、俳優としての魅力を引き出している。過酷な人生を過ごし、諦めることなく人生を切り開いてきた、実際のアントニーターサンの経験が、この主人公”ディーパン”に重なるのだろう。そして、聡明そうな瞳が印象的な娘”イラヤル”を演じるカラウタヤニも、オーディションで選ばれた新人子役だ。妻”ヤリニ”を演じる カレアスワリ・スリニバサンは、舞台の経験はあるものの、映画初出演の無名な女優だが、疑似家族の中で成長していく”ヤリニ”を好演。子を持った経験がなく頼りないが、素直で人好きのするこのキャラクターに、多くの観客が感情移入するだろう。無名の俳優たちの泥臭いまでのリアルな魂と、スタイリッシュなカメラワーク&音楽という組み合わせが、手に汗を握る緊迫感を生み出している。また、疑似家族とは「別枠」にいる孤独な青年を演じるヴァンサン・ロティエの存在感が、素晴らしい。フランス人として暮らしながら、ヤクの売人として生きる、社会からはじかれた危険人物だ。ここにも、現実のフランスにおける社会構造が語られている。

正義がなくとも、生きていく人々。実在するスリランカ反政府勢力、難民、フランス移民問題。

ディーパンの闘い 本作に登場する「タミル・イーラム解放の虎」という反政府勢力は、かつて実在していた。スリランカでは、民族間での対立が高まり、約26年もの間、悲惨な内戦が続き、この内戦で多くの人が家族を失い、難民が生み出された(国政などの危険から逃れ、命がけで安全に暮らせる国に避難する人々を「難民」という)。一方フランスには、はるか昔、高度経済成長期に、多くの移民が希望を胸に、移り住んてきたという。しかし現在、かれらの子孫は、貧困、格差に悩み、社会からドロップアウトしがちな存在だ(フランスでは大都市郊外を「バンリュー」と呼び、ここに多くの貧しい移民が住む公営住宅地帯がある)。これが本作に登場するヤクの売人グループにあたるのだろう。この作品は、根深い孤独と人間の再生を描いているが「わかりやすい正義」は一切登場しない。ヤクを売りさばいて暮らすこと、他人になりすますこと。抗争も、武器を手に取ることも、いずれも正義ではない。しかし、生きるために道を切り開き、どんな環境にいようと光を見いだそうとする登場人物の生き様は、観客の魂を力強く揺さぶるだろう。この作品から何を得るかは、それぞれの観客にゆだねられている。

▼『ディーパンの闘い』作品・公開情報
ディーパンの闘い(2015 年/フランス/フランス語・タミル語/115 分/シネマスコープ/カラー)
原題:DHEEPAN
日本語字幕:丸山垂穂
監督・脚本:ジャック・オディアール
脚本:ノエ・ドブレ、トマ・ビデガン
出演:アントニーターサン・ジェスターサン 、カレアスワリ・スリニバサン、ヴァンサン・ロティエ、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ ほか
『ディーパンの闘い』公式サイト
提供:KADOKAWA、ロングライド
配給・宣伝:ロングライド
2016 年2 月12 日(金)、TOHO シネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマほか全国公開
場面写真:© 2015 – WHY NOT PRODUCTIONS – PAGE 114 – FRANCE 2 CINEMA – PHOTO: PAUL ARNAUD

文:市川はるひ

  • 2016年02月11日更新

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