『ひつじ村の兄弟』―北欧の大自然の中、モフモフの羊たちを愛しすぎた老兄弟の運命は…?

  • 2015年12月16日更新

北欧アイスランドの力強く雄大な自然を舞台に、40年もの間不仲だった老兄弟、そして彼らの羊との愛と絆を、独特の切り口で描いた作品。グリームル・ハゥコーナルソン監督は、長編2作目となる本作で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」グランプリを受賞した。ヒューマニズムとユーモアに溢れる世界観。老人2人の突飛な兄弟愛の行方は、観るものに新鮮な驚きと、直感的な感動をもたらしてくれる。可愛い羊たちにも注目。12月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

40年間、不仲の兄弟。それでも羊を愛する心はひとつ。
アイスランドの人里離れた村で、隣同士に住む老兄弟グミー(シグルヅル・シグルヨンソン)とキディー(テオドル・ユーリウソン)は、それぞれ先祖代々継承してきた牧羊業で生計を立てている。一方、グミーとキディーは40年もの間、全く口をきかないほどに不仲なのだった。二人が受け継いできた羊たちは国内随一の優良種で、毎年のようにコンテストで優勝を競い合っている。今年はひねくれ者である兄キディーの羊が優勝。しかし、優勝したキディーの羊が重大な疫病にかかっていることに気付いたグミーは、第三者を介し疫病検査を依頼。果たして検査の結果は陽性、さらに村の他の牧場からも疫病の羊が発見されてしまう。保健所は感染の恐れがある地域全ての羊を殺処分することを決定。牧羊で生計を立てていた村は崩壊寸前となる。愛する羊を処分しながらも、グミーはひとり密かに、先祖から継承した優良な羊の血を守ろうと計画を立てる。やがて秘密が露見し、追いつめられたグミーは、兄キディーに助けを求めることに。果たして、グミーとキディー、そして羊の運命は――?

アイスランドの雄大な自然に、モフモフの羊がいっぱい!…でも牧羊の村を襲う疫病の恐怖は、エグい。
雄大な自然の中に、羊の群れ。モフモフと柔らかそうな羊たちが画面いっぱいに映ると、それだけでたまらないほど幸せな気分になってしまう。そんな羊にほほをすりすり溺愛する、これまたモフモフの髪とひげをたくわえたおじいちゃんも、とても可愛らしく見えてしまう…。しかしこんな幸せな光景が、序盤のうちにあっという間に崩壊してしまう。始めは「なぜにこの作品がR15+なの?」と思っていたが…愛情たっぷりに育てた羊たちを殺処分しなければならない、という身を切られるような残酷な展開。ドライでリアルな描写もある。…ああ、なるほど…。さて、ここからは非情で現実的な展開ばかりが続くのかと思いきや、さらにストーリーは奇想天外な方向に動き始める。見事に観客は心を捕え、広い振り幅で心を揺り動かしてくる。ちなみにおじいちゃんの裸体が何度も登場したり、倒れた兄を妙な方法で搬送するシーンなど、シュールなユーモアが散りばめられている。

失われた血縁の関係を取り戻させるのは、守られてきた羊の血筋
主人公の老兄弟は、口すらきかないほど仲違いをしていながら、隣同士に住んでいる。先祖代々の土地と羊を分け合っているものの、どうも兄のほうは正式に継承したわけではないという事情が見えてくる。この二人とも家族すらもたず、愛情と生活の全てをひたすらモフモフの羊の群れに注いで生きている。この羊の血統を誇り、守ろうとする意地は兄弟で共通していて、やがてこの想いが、二人を再び結びつけていくことになる。愛する羊のために40年ぶりに真っ当に会話を始めれば、羊への想いが二人の魂をひとつに結びつけていく。羊にかける愛が、そのまま彼ら一族の伝統と血筋にすりかわっていくのだ。ご存知の通り、羊とアイスランドは切っても切れない関係(全人口より羊の数が多いといわれている)。ゆえに、この兄弟のプライドはそのままアイスランドのプライドにも見えてくる。ちなみに、この作品に登場する羊たちはオーデションで選ばれた選りすぐりのキャストなのだそうだ。2015年、ひつじ年の締めくくりにぜひおすすめしたい作品だ。

 

▼『ひつじ村の兄弟』作品・公開情報
(2015年/アイスランド、デンマーク/93分/カラー/アイスランド語/R15+)
原題:『HRÚTAR』/英題:『RAMS』
監督・脚本:グリームル・ハゥコーナルソン
出演:シグルヅル・シグルヨンソン、テオドル・ユーリウソン ほか
提供:ギャガ、新日本映画社
配給・宣伝:エスパース・サロウ
コピーライト:(C)2015 Netop Films, Hark Kvikmyndagerd, Profile Pictures
『ひつじ村の兄弟』公式サイト

※12月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

文:市川はるひ

  • 2015年12月16日更新

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