『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』― 笑いと皮肉、幻想と現実が交差するダーク・ファンタジー

  • 2015年04月11日更新

世界が称賛! 斬新な演出が際立つブラックコメディにしてダークファンタジー

かつてはヒーロー映画の主人公として一世を風靡し、現在は落ち目の俳優がブロードウェイの舞台に再起をかける。しかし、待ち受けていたのは奇想天外なトラブルの連続だった――。本年度アカデミー賞で作品賞・監督賞・撮影賞・脚本賞に輝き、世界で総計170もの賞を獲得した話題作がいよいよ日本公開を迎えた。監督は『バベル』『アモーレス・ぺロス』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。これまで、シリアスな人間ドラマで評価を受けてきた同監督が、本作では皮肉がたっぷり効いたコメディにしてダークファンタジーに挑む。現実と幻想が交差するストーリー、俳優たちの演技バトル、全編をワンカットで撮影したかのような奇跡的なカメラワーク、緊張感を盛り上げるドラム・スコアなど、斬新な演出に息をのむと同時に、自らの存在意義と愛を必死に求める主人公の姿は多くの観客にカタルシスをもたらすだろう。

すべてを失くした男の人生の幕は再び上がるのか――?

かつて、スーパーヒーロー映画『バードマン』で人気を博しながらも、現在は落ち目の俳優リーガン・トムソン(マイケ ル・キートン)。名声と家族を失った彼は、復活をかけてブロードウェイの舞台に挑む。レイモンド・カーヴァー作の「愛について語るときに我々の語ること」を自ら脚色し、演出と主演を務める舞台に、彼はすべてを注ぐ覚悟でいた。しかし、プレビュー公演を目前に出演俳優が大怪我を負い降板。共演者のレズリー(ナオミ・ワッツ)の紹介で、ブロードウェイの実力派俳優マイク・シャイナー(エドワード・ノートン)を迎えるが、その才能とエキセントリックな性格は次第にリーガンの脅威となっていく。アシスタントに付けた娘サム(エマ・ストーン)との心の距離も一向に近づかず、リーガンは気づかないうちに舞台の役柄に自分自身を重ねていく。さらに、かつて演じた“バードマン”の幻影までが現れるようになり、精神的に追い込まれていくリーガン……。人気俳優だったエゴとの闘い、次々に巻き起こるトラブル。果たして舞台は無事に幕を開けるのか? そしてリーガンは再起できるのか……?

奇跡的なカメラワークと俳優の演技で生まれた、かつてない映像世界!

次々に起こるハプニングを手持ちカメラで流れるように追い、ドキドキの臨場感で最後まで観客を引きつける。この奇跡的な映像を可能にしたのは、『ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞撮影賞に輝いたエマニュエル・ルベツキの撮影技術。さらに、アントニオ・サンチェスのドラム・スコアが張りつめるような緊張感を生み出す。メロディを排除したBGMは、飛翔シーンの美しい音楽とコントラストを奏で、際立たせている。

もちろん、綿密に計算された演技を寸分の狂いもなく演じきった俳優たちの力無くしては成立しない。主役リーガンを演じたマイケル・キートンは、役柄同様にかつて『バッドマン』を演じ、現在のヒーロー映画ブームの火付け役となった俳優だ。もちろん、彼自身は「過去の人」に成り下がったわけではない。しかし、スーパーヒーローも老いるのだという皮肉を、円熟味のある演技と自らの表情・肉体をもって体現し、まさに適役だと思わせる。それに対し、マイク役のエドワード・ノートンは若くエネルギッシュだ。神がかりな演技を見せるというハードルの高い役柄も、見事にやってのける。その演技力はまさに圧巻。娘役のエマ・ストーンも情緒不安定で多感な少女を繊細に演じる。『バッドマン』のマイケル、『インクレディブル・ハルク』のエドワード、『アメイジング・スパイダーマン』のエマという新旧アメコミキャストが顔を揃えるのも気の利いた洒落のようで興味深い。

物語の余韻はラストシーンの後からジワジワと効いてくる

「真に認められることとは何だろう?」という問いが物語の核にはあるが、批評家やソーシャルメディア社会の矛盾を鼻で笑うようなシニカルさも含め、本作はとある舞台の幕が上がるまでのドタバタ劇を描いたコメディだ。しかし、ふと差し込まれる幻想的なシーンは、その真意の所在やどこまでが現実なのかを一瞬悩ませるかもしれない。けれど、ここはあえて笑いを優先して観たままを楽しんで良いのではないだろうか。このストーリーの中に何を見いだすか(あるいは何も見いださないか)は、おそらく観客それぞれの人生経験によって違うだろう。そして、その余韻はラストシーンをどう感じるかによって、後からジワジワと効いてくる類のものだと思うのだ。


▼『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』作品・公開情報
(2014年/アメリカ/120分/PG12)
原題:BIRDMAN or (The Unexpected Virtue of Ignorance)
監督: アレハンドロ・G・イニャリトゥ
撮影:エマニュエル・ルベツキ
ドラム・スコア:アントニオ・サンチェス
出演:マイケル・キートン、ザック・ガリフィナーキス、エドワード・ノートン、アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツほか
配給:20世紀フォックス映画
コピーライト:©2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』公式サイト

※4月10日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー

文:min

  • 2015年04月11日更新

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