『イマジン』-目の見えない男女は“音”を介して恋に落ちた

  • 2015年04月24日更新

舞台は情緒溢れるポルトガルの古都リスボン。視覚障害者施設で働く盲目の教師と美しい女性との淡い恋や、彼と生徒たちとの交流が描かれる。自然光を駆使して詩的な映像を作り上げたのは、1963年生まれのアンジェイ・ヤキモフスキ監督。近年評価の高い作品を続々と生み出しているポーランド映画界期待の新鋭である。




さまざまな音と匂いに満ちた外の世界
リスボンにある視覚障害者のための施設で働くイギリス人の新任教師イアン。自身も視覚障害者である彼は、“反響定位”というテクニックにより白い杖を使わずに歩くことができる。彼は子供たちにも、その手法を使って施設の外の世界に出ることの大切さや素晴らしさを知ってほしいと考えていた。イアンの隣の部屋に住む引きこもりがちのエヴァは、そんな彼に興味を持つようになる。ある日、彼女はイアンとともに、思いきって白杖を持たずリスボンの街に出ることを決意。そこにはさまざまな音や匂いが存在し、今まで知らなかった世界が広がっていた。


冒険とリスクは隣り合わせ
“反響定位”とは、音波の反響を使って周囲の状況を知る手法で、コウモリやイルカなどがこのシステムを使うといわれている。しかし、人間にとってこのテクニックを学ぶのは容易ではない。そのため、施設側はイアンの授業は子供たちにとってリスクが高いと考えるようになり、両者の間に溝が生じていく。

確かなのはイアンが施設に新しい風を吹き込んだことだ。広い世界にいざなわれたエヴァや子供たちの意識は明らかに変化した。既存の枠を打ち破る冒険にリスクを伴うのはある程度仕方がない。作品同様、実際の教育現場でもこの方法への過信には異論があるだろう。安全を重視することは当然だが、彼の授業がもたらした希望は決してむだなものではないと思いたい。


個々の感覚器に意識が注がれる
イアンとエヴァ、そして彼の授業に興味を示す子供たちなど視覚に障害を持つ彼らは、聴覚や触覚、嗅覚を駆使して日々の生活を送る。そうしたシーンを追っていくうちに、自分の感覚も研ぎ澄まされていくことに気づく。ほかの映画のように音と映像が一体となって体に入り込むのではなく、音は耳から、映像は目から別々に流れ込んでくるような不思議な感覚だ。

ポーランド人監督による全編ポルトガルロケの作品であり、出演者の国籍もイギリス、ドイツ、フランスなど数ヵ国に渡るという。そんな多国籍性が特定の国の匂いを持たない無国籍風の雰囲気に変わり、作品の魅力のひとつとなっている。


▼『イマジン』作品・公開情報
2012年/ポーランド・ポルトガル・フランス・イギリス/105分/カラー
脚本・監督:アンジェイ・ヤキモフスキ
撮影監督:アダム・バイェルスキ
出演:エドワード・ホッグ、アレクサンドラ・マリア・ララ、メルキオール・ドルエ、フランシス・フラパ
●『イマジン』公式サイト
Ⓒ ZAiR
配給:マーメイドフィルム
4月25日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開後、全国順次公開

文:吉永くま

  • 2015年04月24日更新

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