『嗤う分身(わらうぶんしん)』〜“イギリス新世代”の鬼才による新感覚エンタテイメント〜

  • 2014年11月08日更新

「もしも、自分とまるっきり同じ外見の他人が現れたら?」古今東西、世界中の人々がめぐらす想像だ。いったい自分という存在は何なのだろう。誰もが唯一無二の存在として生まれて来たはずなのに、いつの間にか多数の中に埋もれ、希薄な存在となってしまう……。誰にも認識されないことで肥大する孤独と不安。奇妙な異世界の不条理劇でありながら、無意識の共感と静かなリアリティが見え隠れする、イギリス新世代による新感覚エンタテイメントだ。ジェシー・アイゼンバーグとミア・ワシコウスカの初共演にもご注目。
© Channel Four Television Corporation, The British Film Institute, Alcove Double Limited 2013
11月8日(土)より、シネマライズほか全国公開。


サエない「僕」の前に現れたイケてる「僕」。仕事も恋愛も、存在すらも乗っ取られる恐怖。
気は優しいけれど、要領が悪い男サイモン・ジェームズ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、“大佐”と呼ばれる人物(ジェームズ・フォックス)が君臨する不穏な雰囲気の会社で働いている。勤続7年にも関わらず、警備係には名前も覚えてもらえず、上司(ウォーレス・ショーン)や、教育係を命じられた小娘メラニー(ヤスミン・ペイジ)にもバカにされる毎日。ひとすじの光となる存在、コピー係のハナ(ミア・ワシコウスカ)にも想いを告げる勇気はなく、自室の真向かいにある彼女の部屋をこっそりと望遠鏡で覗き見るしかない。ある夜、サイモンが望遠鏡をのぞいていると、上層階に立つ怪しい男が視界に入る。男はサイモンに手を振ると静かに飛び降り、死んでしまう。この目撃が何かを暗示するかのように、この夜を境にサイモンの人生は大きく変化し始める。サイモンの勤務先に期待の新人として、ジェームズ・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ/二役)が入社してくる。自分と瓜二つの外見をもつジェームズに、サイモンは失神するほどのショックを受けるが周囲はなぜか誰一人動じない。そしてジェームズは中身も行動もサイモンとは正反対、自信家でずる賢かった。調子が良くエレガントなジェームズは上司の信頼を獲得し、複数の女性を虜にし、こともあろうにハナまでジェームズに惹かれてしまった。サイモンの心は引き裂かれんばかり。さらにジェームズに「お互いの特性を生かして助け合おう」ともちかけられ、渋々受け入れてしまう。ジェームズの要求はエスカレートしていき、サイモンは自分のすべてを奪われる恐怖を抱き始める……。


旬の俳優、そして昭和歌謡が流れる驚くべき世界観。
クールでダーク、コミカルな不条理というイギリス映画の旨味あふれる作品。そのうえ斬新さも併せもつ。監督・脚本は、現役コメディアンでもあるリチャード・アイオアディ。奇妙な登場人物たちの行動、クラシカルなのか近未来的なのか判別のつかない生活空間、現実感を伴わない社内の描写など、すべてが異質で不自然な世界。唐突に「ブルー・シャトー」など、日本の古き良き昭和歌謡が流れ(「エド・サリヴァン・ショー」再放送を見て触発されたリチャード監督が選曲)日本人としては戸惑いもひとしおだ。観ている者は突き放されつつも圧倒的されてしまう。オリジナリティあふれる見事な映像と演出は、多くのミニシアターファンを魅了するだろう。また、若手メインキャストは旬でクレバーな印象の2人。サイモンとジェームズの二役にジェシー・アイゼンバーグ。『ソーシャル・ネットワーク』で早口でアクの強い主人公を『ゾンビランド』では親しみやすいキャラクターを演じたジェシー・アイゼンバーグが、本作では「陰」「陽」二つのキャラクターを見事に、かつ魅力的に演じ分けている。そしてサイモンの意中の女性・ハナ役は『アリス・イン・ワンダーランド』で世界の注目を集め『TRACKS』(日本公開未定)で高評価を受けるミア・ワシコウスカ。孤独を抱えた可憐な存在感で、作品に華を添えている。脇のキャストにも実力派がそろい、不穏でダークなストーリーに、いずれも個性的な登場人物たちがほんのりとおかしみを与えるバランスが素晴らしい。


自己の存在感に揺れるリアルなテーマ。今も昔も変わらぬ恐怖。
原作は、ロシアの文豪ドストエフスキーの小説『分身(二重人格)』。1840年代に書かれたこの小説の原題は『ドッペルゲンガー』。他人の目を気にしている小役人が己の作り出した成功者の幻影に脅かされ、精神の均衡を失っていく物語である。本作は斬新なオリジナリティによりスタイリッシュに生まれ変わったものの、原作の本質はしっかりと息づいている。自分とは何か? もし自分そっくりの人間が現れたら? 人は一面だけで生きている訳ではなく、裏がある。さらには自分の知らない自分が隠れているもの。抑圧され続けた末、心の底の自尊心が目覚め分離し、やがて自分が自分に脅かされる恐怖。現実にはあり得ない出来事ではあるけれど、本作を観ているうちに、なにかしら落ち着かない想い感情が芽生えるかもしれない。観る者にとって、大変エキセントリックな体験になることだろう。




▼『嗤う分身(わらうぶんしん)』作品・公開情報
2013年/イギリス/ビスタサイズ/DCP/93分/カラー/英語/
レイティングG
原題:『THE DOUBLE』
原作:フョードル・ドストエフスキー『分身(二重人格)』
監督・脚本:リチャード・アイオアディ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ヤスミン・ペイジ、ノア・テイラー ほか

●『嗤う分身(わらうぶんしん)』公式サイト
© Channel Four Television Corporation, The British Film Institute, Alcove Double Limited 2013
111月8日(土)より、シネマライズほか全国公開。

文:市川はるひ

  • 2014年11月08日更新

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