『ラスト・デイズ・オン・マーズ』-火星ミッション最終日に起こる戦慄の出来事

  • 2014年11月22日更新

地球以外の生命体の発見は、人類のロマンであり夢である。一方、それは脅威でもあり、これまで多くの映画で宇宙生命体との戦いが描かれてきた。今回の舞台は、砂漠のような大地が広がる火星。地球に近く、生物の存在の可能性を指摘されている星だ。監督は実写版『AKIRA』の候補にも挙がったルアイリ・ロビンソン。人間の体に入り込み、凶暴な異生命体に変異させる恐怖のバクテリアの恐怖を描く。


バクテリア感染で狂暴な変異体に
西暦2036年。8人のクルーを送り込んだ火星探査計画“オーロラ・プロジェクト”の最終日。恋人同士でもあるビンセントとレーンは地球への帰還を心待ちにし、野心家のキムはミッションの成果がなかったことに苛立っていた。そんななか、クルーメンバーのマルコのPCデータから、微小生命体(バクテリア)が確認される。手柄を独り占めにしようと船外に出た彼は、そのバクテリアに体を侵食され、凶暴化した変異体となってしまう。そして、次々とほかのメンバーを襲い始める。


複雑な感情を押し殺して戦う生存者たち
過酷なサバイバルの中、生き残った者を率いるリーダーの存在は不可欠だ。だが、その役を担うはずのチームの隊長ブルネルは、早々にバクテリアに感染。帰還船の迎えにもまだ時間がかかり、八方塞がりの状況は緊迫感をさらに増幅させる。そのためか、普通なら不安を煽るはずの火星の幻想的な光景に、なぜか安らぎを覚えてしまう。

敵はバクテリア本体ではなく、入り込んだ同僚の姿をしたものだ。生存者は、ほんの少し前まで一緒に働いていた仲間を抹殺しなくてはならない。恐怖と悲しみが入り混じった表情から、どんなに科学が進歩しても、人間の感情は繊細で変わることはないことを知る。


“ミラノ座”最後の上映作品
さまざまな訓練を積み、精神的な強さと冷静さを求められる宇宙飛行士。だが、外界と隔絶された状況下で襲ってくる恐怖は、彼らの生存本能をむき出しにし、人間臭さを露呈させる。不安、疑い、絶望。原作のシドニー・J・バーンズやロビンソン監督は、敵はバクテリアに感染した変異体だけでなく、人間の心の中にある感情であることも示したかったのではないだろうか。
ところで、『ラストデイズ・オン・マーズ』は新宿ミラノのクロージング作品となる(12月31日閉館)。“ミラノ座”として開館し、60年近くもの間歌舞伎町で親しまれてきた映画館は、火星での最後の1日とともに幕を閉じる。


▼『ラスト・デイズ・オン・マーズ』作品・公開情報
2013年/イギリス・アイルランド/英語/カラー/シネマスコープ/98分/PG-12
原題:THE LAST DAYS ON MARS
監督:ルアイリ・ロビンソン(『Fifty Percent Grey』アカデミー短編アニメーション賞ノミネート)
出演:リーヴ・シュレイバー(『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』)/ロモーラ・ガライ(『ワン・デイ 23年のラブストーリー』)/イライアス・コティーズ(『シャッター アイランド』『ゾディアック』)/オリヴィア・ウィリアムズ(『サボタージュ』『ゴーストライター』)
提供:カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ブロードメディア・スタジオ
●『ラスト・デイズ・オン・マーズ』公式HP
A UK – Irish Co-Production © 2013 Qwerty Mars Movie Limited and The British Film Institute
11/22(土)新宿ミラノほか全国順次ロードショー

文:吉永くま

  • 2014年11月22日更新

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