『不機嫌なママにメルシィ!』〜ジェンダーをめぐる世界の旅「僕は女の子じゃないの?」〜

  • 2014年09月27日更新

フランス国立劇団の演技派俳優が、自伝的舞台を映像化し監督デビュー。初監督作品にして、フランス最大の映画賞、セザール賞で5部門受賞。さらにリュミエール賞、カンヌ国際映画祭でも、それぞれ受賞を果たした話題作。ギヨーム・ガリエンヌが本人役のみならず、一人二役、女装して、敬愛するママ役まで演じる。しかも本人のセクシュアリティがテーマの、ウソのようなホントのストーリー。名門出身のおっとりしたギヨームが、傷つき迷いながらもあくまで明るく、本当の自分を見つけようと奮闘する。そんな愛すべき彼の青春時代を描いた、じんわり心があたたまる母親讃歌だ。
2014年9月27日(土)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON’T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM



「みんながボクをゲイだと言うけれど…」愛と笑いを振りまきながら、世界に飛び出すギヨーム。
楽屋からステージに向かう、俳優のギヨーム・ガリエンヌ。これから演じるのは、波乱に満ちた自身の青年期の物語だ。ブルジョワの家庭に生まれ、体が弱く過保護に育てられたギヨーム。いつも不機嫌そうだけど、クールでエレガントなママに憧れ、思春期には、女の子のような優しさと、優雅な身のこなしを身につけていた。短期留学先の言葉が通じないスペインで、初めて習うフラメンコに興じれば、女性の振付けを教えられているという女の子っぽさ。しかしギヨームを2人の兄同様、男らしく育てたいパパは、強引に全寮制の男子校に入学させる。そこで「オカマ」と呼ばれイジメにあったギヨームは、自ら望んでイギリスの共学に転校。新たな環境で楽しい日々を過ごす中、男子生徒に恋をするも、失恋。そのころには「自分は女の子」と信じていたギヨームだったが、家族やまわりの人たちは、ギヨームをゲイだと言う。ギャップに悩んだギヨームは、自分のセクシュアリティを探るべく、さらなる冒険に旅立つ…。



「人生は笑った者勝ち!」明るくめげない、優雅なギヨームに、じわじわこみ上げる。
フランスを代表する国立劇団コメディ・フランセーズの個性派俳優、ギヨーム・ガブリエンヌが、映画監督デビューした本作。自伝的な物語の主人公を演じるだけでなく、一人二役でママ役も演じる。ママに憧れ、本人が彼女の身のこなしを真似ながら成長しただけあってだろうか、ママの役づくりにも無理がなく、中年らしいアンニュイ雰囲気も醸し出していて、説得力がある。自分のセクシュアリティに混乱するという大きな問題をかかえて思春期を過ごしたギヨーム。現実的にはヘヴィそうなエピソードもあるが、明るく前向きなコメディとして昇華されている。幸いにもブルジョワ家庭で育った彼は、外国へと旅立つことができた。スペイン、イギリス、ドイツ、モロッコ…様々な国でのギヨームの経験、そしてそれを彩るキャッチーな楽曲も楽しい。旅の先々にママの幻影が現れてはギヨームに語りかけたりと、シュールな演劇的演出もあり、フランス喜劇で磨かれてきたであろうギヨーム・ガリエンヌの持ち味が楽しめる。



単純なパーソナルストーリーではない、大ドンデン返し。ラストに明かされる衝撃の事実。
実はこの作品を観賞している途中で、多少戸惑いを感じた。ハイスピードで次々とエピソードが溢れ、さまざまなシーンが展開していて楽しい。だけど、果敢に奮闘するも、ギヨームはなかなか確実なものを手にできない。自分のセクシュアリティを見極めたシーンですら、突き抜けていない感じ…。ところが最後の最後で、そのモヤモヤが覆される。ようやく自分のセクシュアリティを理解し、納得したギヨームが、ママに向かっていくつかの報告&宣言をする。このとき、ママの態度からギヨームはママの「真実」を知ることになるのだ。恐らくギヨームは、自身のセクシュアリティを理解した瞬間以上に、衝撃を受けただろう。ここで、今までみてきた本作のあらゆるシーンが、にわかに走馬灯のように頭を巡った。それぞれのシーンの意味と味わいがガラリと変わって見え、クールなママが一瞬、打ち解けた友人のようにぐっと近づいてきた。これは単なる自伝映画でなく、豊かな母親讃歌! 胸の奥にすとんと、何かが心地よく着地した。



▼『不機嫌なママにメルシィ!』作品・公開情報
2013年/フランス、ベルギー/87分/フランス語、英語
監督・脚本・出演:ギヨーム・ガリエンヌ(『イヴ・サンローラン』)
出演:アンドレ・マルコン、フランソワーズ・ファビアン、ダイアン・クルーガー、レダ・カテブほか
原題:『Les garçons et Guillaume, à table!』
第39回セザール賞5部門受賞(作品賞/主演男優賞/脚色賞/編集賞/第1回作品賞)
第19回リュミエール賞 男優賞/第1回作品賞受賞
第66回カンヌ国際映画祭 監督週間 アートシネマ賞/SACD賞受賞
協力:アンスティチュ・フランセ日本、ユニフランス・フィルムズ
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
●『不機嫌なママにメルシィ!』公式サイト
2014年9月27日(土)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON’T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM
文:市川はるひ

  • 2014年09月27日更新

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