『フォスター卿の建築術』― ノーマン・フォスターの建築を巡る、美しい旅に出掛けよう

  • 2014年01月03日更新

「モダニズムのモーツァルト」―ノーマン・フォスター
近年、世界中に衝撃を与えた建築デザインの一つは、2015年にアメリカ・カリフォルニア州クパチーノに完成予定のアップル社の新社屋、通称「マザーシップ」だろう。宇宙船をイメージさせる、その流麗で未来的なデザインを手掛けた人物こそ、イギリスを代表する世界的建築家にして「モダニズムのモーツァルト」と呼ばれるノーマン・フォスター卿だ。故スティーブ・ジョブズが直々に設計を依頼したというフォスター卿は、現在78歳。今なお、意欲的に仕事を続ける創作の原点と核心とは何だろうか。ドキュメンタリー映画『フォスター卿の建築術』は、彼の手掛けた数多くの建築作品を巡りながら仕事上のパートナーであったリチャード・ロジャースや芸術家のリチャード・ロング、蔡國強(ツァイ・グオチャン)、U2のボノへのインタビューや、エコロジストで建築家のバックミンスター・フラーとの会話映像などを通して、さまざまな角度からそのデザイン哲学に迫る。



ゼロから切り開いた成功への道と、今なお瑞々しい創作への意欲
ノーマン・フォスターは、1935年にイギリスのマンチェスターに生まれる。貧しい環境に育ち、両親のために市役所勤務という堅実な道に進むが、次第に建築の世界に心惹かれていく。兵役で空軍に従事した後、契約係の補佐として建築事務所へ就職したフォスターは、そこで設計士への夢を大きく膨らませ、同時に影でコツコツとスキルを磨き、やがてボスに直談判して設計士としてのポストを手に入れる――それが世界的な建築家、ノーマン・フォスター誕生のきっかけだ。その後、モダニズム全盛のアメリカで建築学を学び、ロンドンで設計事務所を設立すると、鉄とガラスを多用し構造体を外部に露出させたハイテク建築で独自のスタイルを確立する。 挫折や失敗を幾度と重ねながらも、革新性、社会性、洗練を兼ね備えたその建築で世界中から依頼を受けるようになったフォスターは、その功績によりエリザベス女王から貴族爵位を与えられる。まさに、ゼロから切り開いた成功。そうした人生ドラマが味わい深いのはもちろんだが、それ以上に印象的なのは、創作への探究心や好奇心を常に瑞々しく持ち続けている姿だ。



建築が創りだす美しいランドスケープに陶酔する
大英博物館グレート・コート、ミレニアム・ブリッジ、スイス・リ本社(通称ガーキン=小さいピクルス)、ロンドン市庁舎……ノーマン・フォスターの名前を知らなくても、ロンドンを訪れた人ならば必ずその建築物を目にしていることだろう。ロンドンだけではない。香港上海銀行本店ビルやベルリンのドイツ国会議事堂など、世界中で多くのプロジェクトを手がけたフォスター卿の作品は20世紀を象徴する建築として、国際的な評価を受けている。 本作では、そんなフォスター卿の作品を巡りながら、ときにはバードアイで街のランドスケープを俯瞰し、ときには建物内を歩く目線でガラス越しに差し込む光を感じ、そして、ときには万華鏡を覗くように、鉄筋の織りなす幾何学模様を切り取る。音楽と共に映し出されるその映像を眺めているだけでも、美しい時間旅行に出掛けたかのような心地よさを覚えるだろう。子どもの頃、パイロットになることを夢み、実際に操縦免許を取得したフォスター卿は「私は建築家として働きながら、空を飛ぶ感覚を味わっている。見事な自然を空から見つめ、長距離フライトの気分をエンジンなしで楽しむ。上昇気流に乗って宙に浮く感覚を建築で味わうんだ」と語る。建築はフォスター卿にとって、自由に世界を旅するためのパスポートであり、きっと、その旅は命有る限り続いていくのだろう。



▼『 フォスター卿の建築術』作品・公開情報
2010年/イギリス/ 76分
原題:HOW MUCH DOES YOUR BUILDING WEIGH, MR. FOSTER?
監督: ノルベルト・ロペス・アマド&カルロス・カルカス
出演:ノーマン・フォスター、バックミンスター・フラー、リチャード・ロジャース、リチャード・ロング、ボノ、蔡國強 ほか
配給:アップリンク
コピーライト:©Valentin Alvarez

●『 フォスター卿の建築術』公式サイト

※2014年1月3日(金)から渋谷アップリンクほか全国で順次公開

文:min

  • 2014年01月03日更新

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