ブエノスアイレス恋愛事情―都会のひとごみで意中の人とどう出会う? リアル版『ウォーリーを探せ』

  • 2013年11月17日更新

恋人と別れて何週間か過ぎた頃、ふと、こんな不安が頭をかすめる―また誰かと出会うことができるのだろうか? 目的地までの距離がわからない時、その道のりがひどく遠く感じるように、誰かとの出会いを待つ時間というのは永く果てしない気がするものだ。 『ブエノスアイレス恋愛事情』は、人であふれかえる都市のなかで、交差し、接近し、けれど互いの存在に気がつかない男女を追った物語。観客は、彼らの共通の友人であるかのごとく、「この2人を引き合わせたらひょっとして……」なんて恋のキューピッド役を買って出たい気持ちになるかもしれない。果たして、2人は出会うことができるのだろうか? 彼らが歩くブエノスアイレスの街のすばらしき建築群とアートの数々もどうかお見逃しなく!© Rizoma Films 2011



次に出会う人は、今日、交差点ですれ違う人かもしれない
ブエノスアイレスに住むマリアナ(ピラール・ロペス・デ・アヤラ)とマルティン(ハビエル・ドロラス)は、共に30代のシングル。共通点は、恋人と別れたばかりであること、ちょっとした恐怖症を抱えていること。近所に住んでいるが、他人同士の彼らは、交差点ですれ違っても店先で顔を合わせても互いの存在を認識しない。
建築家ながら本業につけずショーウィンドウのディスプレイばかり手がけるマリアナは、日々ウィンドウ越しに、バーチャルな世界を見るように道ゆく人びとを眺める。一方、ウェブデザイナーのマルティンは、日用品から犬の散歩係まですべてネットで手配するひきこもりの日々を送っている。「ウォーリーさえ見つからないのに見知らぬ相手と街でどう出会うのか」。壁に囲まれた安全な部屋にいながら、時どき不安と寂しさに押しつぶされそうになる2人の物語は、部屋の壁に(違法な)窓をあけることで大きく動き出す。その窓から都市を俯瞰して眺めてみたとき、マリアナの目に映るものとは……。



知的で繊細そうな表情がゆるむ瞬間、ピラールにくぎづけ!
本作の前身となる短編『Medianeras』は、クレルモン=フェラン国際短編映画祭グランプリなど国際映画祭で40余りの賞を受賞した。長編化の話が持ちあがった際、主演女優(モロ・アンギレリ)が妊娠し参加できなくなったため、グスタボ・タレット監督はマリアナを1から作り直したという。「静謐で傷つきやすい、でも、内側の神秘さ、複雑さを目で表現できる女性」を探していた時に目に止まったのが、『シルビアのいる街で』(2007)に出演していたピラール・ロペス・デ・アヤラだ。 きりっとした眉毛が知的な印象を与えるピラールは、本作で、仕事も恋愛もうまくいっているとは言いがたい宙ぶらりんな30代の女性を見事に演じている。細く長い腕でマネキンを抱えるしぐさは、なんともいえずセクシー。かと思えば、クールな目元をゆるめて子どものように好奇心たっぷりな表情を見せる。そのギャップには、男性だけでなく女性もくぎづけになってしまうだろう。



画面に映る日本を探せ
マリアナとマルティンのモノローグで語られる序章、「街に住んでも旅人気分」というセリフが登場する。これは、東京やその他の都市に住む多くの人びとが感じていることではないだろうか。街だけでなく、日本という国に対してもそのような感情を抱くことがあるかもしれない。愛着はあるけれど、自分とのつながりは極めて薄い。 しかし、長年見慣れた国の文化は、自分の中にしっかり根を張っているものだ。本作を観る日本の観客は、マルティンのデスクトップの壁紙や、マリアナの部屋の置物に目をひかれるだろう。そして、他国の映画に平然と登場するそれらにクスリと笑ってしまうに違いない。何が映っているかは、ぜひ劇場で確かめてほしい。




▼『ブエノスアイレス恋愛事情』作品・公開情報
監督:グスタボ・タレット
出演:ピラール・ロペス・デ・アヤラ、ハビエル・ドロラス、イネス・エフロンほか
2011年/アルゼンチン=スペイン=ドイツ/95分/配給:Action Inc
『ブエノスアイレス恋愛事情』公式サイト
2013年11月16日(金)より、新宿K’s cinemaほか全国順次公開
© Rizoma Films 2011

公式ブログ:ラテン!ラテン!ラテン!

文:南天

  • 2013年11月17日更新

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