「もうひとりの息子」-パレスチナ、イスラエル。18年前に湾岸戦争の最中、取り違えられた子どもと家族の物語。

  • 2013年11月03日更新

イスラエル軍の兵役検査を受けたヨセフ。検査の結果、血液型が両親と一致しないことを母オリットは知らされる。ヨセフが産まれた病院での調査の結果、ヨセフの本当の両親はパレスチナ人であることが判明した。湾岸戦争の混乱の最中、子どもの取り違えが起こっていたのだった。イスラエル人の両親に育てられたパレスチナ人ヨセフ、パレスチナ人の両親のもとで成長したイスラエル人ヤシン。今日まで愛を注ぎ続けた子どもが敵対する壁の向こうの民族であることが分かった二つの家族を描く。昨年の東京国際映画祭のグランプリと監督賞をダブル受賞したヒューマンドラマ。シネスイッチ銀座にて絶賛公開中、ほか全国順次公開

息子は敵?それとも、今でも最愛の息子のままなのか?
イスラエル軍の兵役検査を受けたヨセフ。検査の結果、血液型が両親と一致しないことを母オリットは知らされる。調査の結果、18年前の1991年、ユダヤ人とアラブ人が共存する街、イスラエルのハイファの病院は湾岸戦争のミサイル攻撃を恐れ、保育器に入っている新生児を避難させていた。その際に子どもは取り違えられていたのだった。イスラエル人として育てられたパレスチナ人ヨセフ、パレスチナ夫妻のもとで成長したイスラエル人ヤシン。敵対する民族の血を引き継ぐという過酷な事実を二人の青年はつきつけられる。ヨゼフはユダヤ教の指導者、ラビに「自分は今でもユダヤ人か」と問う。ラビは「ユダヤ教は単なる信仰ではない“状態”なのだ、生れに基づく精神的なあり方だ。実母がユダヤ人でないのなら、改宗が必要だ」と答える。今の状態ではヨセフはユダヤ人ではない、かといってアラブ人でもない。自分がなにものなのか分からない混乱の中、ヨゼフはパレスチナ人の血のつながった家族、そしてヤシンと会うことになる。

社会的問題と個人の問題。
パレスチナとイスラエルが抱える問題の歴史は長く、深い。壁を隔てた向う側には敵がいると考えることはあっても、自分がもし反対の壁の人間だったらと想像することはない。「もうひとりの息子」は想像する物語だ。今まで話すことも、触れることもなく憎んでいた人が実は家族だとしたら。国家の枠組みでパレスチナとイスラエルを捉えるのではなく、家族というごく個人的な問題だとしたら、壁の向こうからやってくる人々に対して今漠然と抱いている憎しみの感情が同じように湧きあがるだろうか?ヨゼフとヤシンの二人が鏡を覗きこむシーンがある、「イサクとイシュマエル。アブラハムの2人の息子だ」とヤシンはいう。イサクはキリスト教、ユダヤ教のモーゼ、イエスにつながる人物とされ、イシュマルはイスラムの預言者ムハンマドにつながる人物とされる。その二人は同じ父、アブラハムから生まれた兄弟だ。違う宗教に発展する兄弟が同じ父を持つこと、二つの宗教にはつながりがあることをこの映画は想像させてくれる。

「血」と「過ごした時間」の問題
カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した是枝裕和監督作品「そして父になる」も子どもの取り違えをテーマにした物語だった。国が全く違うが語られるのは取り違えによって起きた「血」の問題と「過ごした時間」の問題。親が子どもに注ぐ愛情は「血」から来るのか「過ごした時間」から来るのか。子どもの人間性を形作るのは「血」なのか「過ごした時間による」経験なのか?この問いかけは万国共通なのかもしれない。「ふたりの息子」でもこの問題は大きく描かれる。「過ごした時間」は「血」を凌駕するのか?ヨゼフとヤシンどちらにとっても「血」の問題は深刻で「過ごした時間」は濃密だ。二人はどちらかを選ぶのか。それともそれを超える選択が見つかるのか。ロレーヌ・レヴィ監督の描くエンディングに注目して頂きたい。



▼『もうひとりの息子』作品上映情報
2012年 フランス映画101分 フランス語、ヘブライ語、アラビア語、英語
原題:Le fils de l’Autre
英語題:The Other Son
監督・脚本:ロレーヌ・レヴィ
製作:ヴィルジニー・ラコンブ、ラファエル・ベルドゥゴ
原案:ノアム・フィトゥッシ
キャスト:エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリュク、マハディ・ザハビ、アリーン・ウマリ
協力:ユニフランス・フィルムズ  配給:ムヴィオラ
●『もうひとりの息子』公式サイト
© Rapsodie Production/ Cité Films/ France 3 Cinéma/ Madeleine Films/ SoLo Films
シネスイッチ銀座にて絶賛公開中ほか全国順次公開!

文:白玉

  • 2013年11月03日更新

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