『Miss ZOMBIE』―グロテスクを美しく転化させるモノクロ映像。SABU監督の新たな野心作―

  • 2013年09月14日更新

『弾丸ランナー』から始まり、常に斬新な作品作りで世界の注目を浴び続ける鬼才・SABU監督の新作は、監督本人による完全オリジナルストーリー。モノクロの映像美に、女の業と人の心の闇が炸裂する。ひたすら“男”を撮り続けてきたSABU監督が、初めて女優を主演に迎え、“美しいゾンビ”と彼女を取り巻く人間たちの異世界を描く。「ミニシアターの醍醐味」を存分に味わえる、奔放で野心的な作品だ。
(c)2013 Miss ZOMBIE Film Committee all rights reserved.
9月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー


美しきゾンビ・沙羅が、人々の心の闇ををかき乱す
医師の寺本(手塚とおる)と美しい妻・志津子(冨樫真)、幼いひとり息子・健一(大西利空)が住む寺本家。裕福そうなこの屋敷に「しばらく預かってほしい」と、檻に入ったゾンビ・沙羅(小松彩夏)が届けられた。美しさの影を残す沙羅は、人を襲わない類いのゾンビだというが、決して肉を与えてはいけないという。さらに「万一の場合には…」と拳銃が添えられていた。寺本は、異形の沙羅を歓迎こそしないものの、寺本家の使用人として働かせることに。沙羅は、近隣の子どもからは差別を受け、ゴロツキからあからさまな悪意を向けられ、手ひどい攻撃にさらされる。だが、沙羅は痛みを感じない。ひそやかに、ただ与えられた作業を日々繰り返すだけだった。そんな中で唯一、志津子だけは沙羅に衣類や食物を与え、笑顔と挨拶を投げかける。息子の健一も沙羅を虐待することなく、興味の対象としてポラロイドカメラで沙羅を撮り続けていた。しかし、他の者からの沙羅への攻撃はエスカレートしていく一方だった。そんな中、健一が突然事故で溺れ、呼吸を止めてしまう。取り乱した志津子は、沙羅に健一を蘇らせるよう促す。沙羅が健一の首筋に噛みつくと、健一は目を開け甘えるように沙羅にしがみついた。あわてて二人を引き離す志津子。しかし、ゾンビとして再生した健一は、日を追うごとに沙羅になついていく。沙羅も人間であったころのおぼろげな記憶と輝きを取り戻しながら、健一への母性に目覚め、ついには危険な行動を繰り返すようになる。一方、このままでは沙羅に健一を奪われるのでは、と怯えていた志津子は、寺本と沙羅の情事を目撃してしまう。思いつめた志津子は、鬼女さながらの形相に変貌し、我を忘れて暴走を始めるのだった……。

SABU監督の挑戦的な作品づくり
本作はSABU監督による完全オリジナルストーリー。人気番組のスピンアウトや、受賞小説の映画化が多い昨今の邦画界に一石を投じた。キャストには女優・冨樫真と俳優・手塚とおるという、長きにわたり舞台で力をつけてきた二人を起用し、作品のキャラクターをより色濃く膨らませている。冨樫は、主演映画も、映画賞の受賞経験もあるが、蜷川幸雄の秘蔵っ子として演劇界で注目を浴び、故・緒形拳との共演や野田英樹演出の作品など、豊富な演技経験を積んできた。本作でも、全身からエネルギーを発するような力強い表現力を発揮している 。手塚とおるも、演劇界において、ひっぱりだこの人気俳優で、ナイロン100℃、大人計画、劇団☆新感線など、人気劇団に次々と出演してきた。これは演劇ファンにとっても心惹かれるキャスティングである。

新たなゾンビ像があぶり出すもの
ゾンビ映画といえば、大量のゾンビvs.少数の抵抗する人間、という構図が多い。しかし本作では「たった一人のゾンビ」を、歪んだ目で見つめる「たくさんの人間たち」が取り囲む。その孤独なゾンビ役に、グラビアを彩ってきた美しい容姿をもつ小松をキャスティング。特殊メイクを施し、哀切漂わせる美形の「女性ゾンビ」を誕生させた。人間とは何なのか? 沙羅と人間、醜いのはどちらなのか、恐ろしいのはどちらなのか? 沙羅という新たなゾンビ像を通し、観客に様々な疑問を突きつけてくる。しかし沙羅は無表情であり空虚、その正体はなかなかつかめず、容易に肩入れさせない存在だ。そんな状況で、心優しく笑顔を絶やさない志津子だけが、指針となり救いとなる前半。ところが、息子の死をきっかけに、志津子こそが追いつめられ、壊れ、ついには般若のような恐ろしい表情に変わる。志津子の変貌もまた、異形となった女の姿ともいえる。また、ゾンビである沙羅を恐るるに足りないバケモノとしてさげすみながら、何のためらいもなくその肉体を傷つけるゴロツキや、沙羅を性の対象として弄ぶ男たちは、あからさまに残酷な存在だ 。沙羅というゾンビ像を通し、人間の生々しい愚かさや哀しい女の業をあぶり出す。さらにモノクロという選択したことにより、その生々しさをダークファンタジーのような世界に転じさせている。

▼『Miss ZOMBIE』作品・公開情報
2013年/日本/B&W/約85分/シネスコサイズ /PG-12
監督・脚本・原案:SABU
出演:小松彩夏 冨樫真 手塚とおる 大西利空 駿河太郎 芹澤興人 山内圭哉 ほか
配給: ライブ・ビューイング・ジャパン
『Miss ZOMBIE』公式サイト

(c)2013 Miss ZOMBIE Film Committee all rights reserved.
9月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー

文:市川はるひ

  • 2013年09月14日更新

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