【「ほぼ」ノーカット!】フランス映画祭トークショー、『In the House (英題)』フランソワ・オゾン監督、エルンスト・ウンハウアーさん-オゾン監督の映画の恩師は誰?

  • 2013年07月01日更新

フランス映画祭のオープニングセレモニーに引き続き、オープニング作品『In the House (英題)』が上映され、上映後にフランソワ・オゾン監督と主演のエルンスト・ウンハウアーさんによるトークショーが行われた。日本でも人気の高いオゾン監督とセザール賞男優賞にノミネートされたフランス期待の小悪魔系若手イケメン俳優、エルンストさんに会場からは途切れることなく質問が飛びかい熱気あふれるイベントとなった。会場の模様をほぼノーカットでレポートします。



原作は文学がどのように作られているかというプロセスを、遊び心をもって描いていて、私のクリエーションを語るには絶好の作品でした。(オゾン監督)
『In the House』上映後に司会を務めた矢田部吉彦・東京国際映画祭プログラミング・ディレクターからオゾン監督、エルンストさんへの質問でトークショーははじまります。
- まずなによりも、物語が面白くて引き込まれる作品でした。監督はこの物語のどの部分に魅力を感じて映画化しようと思いましたか?
フランソワ・オゾン監督(以下オゾン監督):原作はスペインの戯曲家、フアン・マヨルガの作品です。文学がどのように作られているかというプロセスを、遊び心をもって描いていて、私のクリエーションを語るには絶好の作品でした。観客の皆さんと映画作りへの思いを遊び心をもって共有することができると思いました。
- エルンストさんは大きな役は初めてだと思いますが、素晴らしい存在感、演技でした。この役をどのように得たのでしょうか。
エルンスト・ウンハウアー(以下ウンハウアー):最初は普通のオーディションがあり、早い段階で電話がありました。今度はオゾン監督同席のもとでテストをして欲しいと言うことで、テストの相手役はラファの子どものほう、バスティアン・ウゲットとのやりとりでした。そこで錬金術のように二人がマッチするところがあったので、監督が選んでくれたのではないかと思っています。


キスシーンでは、愛に年齢はないということを確認しました。(ウンハウアーさん)
ここからは観客の方からの質問が寄せられました。
-女優のクリスティン・スコット・トーマスさんを今回初めて起用された経緯をお聞かせ下さい。
オゾン監督:フランス人は伝統的にフランス語を話している時にアクセント、なまりのあるイギリスの女優さんというのを好むものです。また、ファブリス・ルキーニさんと会話する時のリズムというのが大切ですので、演劇の経験がある方でないといけませんでした。そういう面でクリスティン・スコット・トーマスさんは演劇の経験もありますし、ファブリス・ルキーニさんとのやりとりの中にもイギリスなまりをきちんと出してくれる女優さんだと思いました。クリスティン・スコット・トーマスさんが英語なまりのフランス語で、かつ現代アートの訳のわからないような話をするところに英国人のスノッブなところが強調されて、コメディの部分を強調してくれたのではないでしょうか。

-クリスティン・スコット・トーマスさんとエマニュエル・セニエさん、どちらもベテランの女優さんですがお二人が相手役であることについて、エルンストさんは大変だったことなど、なにか感想はありますか?
ウンハウアー:とてもうれしかったです。僕のような経験のない人間が、素晴らしい役柄をいただけて、運がいいと思いました。しかもキスするシーンまであり、愛に年齢はないということを確認しました。


『8人の女たち』にナタリー・バイさんを起用する?フランスにはたくさんのすばらしい女優さんがいますから8人では足りません。20人の女たちにしておけば良かったですね。(オゾン監督)
-『8人の女たち』に今年のフランス映画祭のナタリー・バイさんが出演するとしたら、どのキャラクターとして起用されますか?
オゾン監督:『8人の女たち』にナタリー・バイさんを起用するというのは考えてなかったですね。考えてみたら、ファニー・アルダンの役でも良かったかなと思いますが、ファニー・アルダンが素晴らしく演じてくれています。フランスにはたくさんのすばらしい女優さんがいますから8人では足りません。20人の女たちにしておけば良かったですね。

-オゾン監督の作品のエンディングはいい意味で裏切られたり、もやもやしながらも考えさせられるところが好きです。監督はラストシーンを考える時に特に気をつけていることはなにかありますか?
オゾン監督:この映画のラストシーンですが、高校生、クロードに対して教師が「物語のラストは意外性のあるものでなければならない」と何度もいうので、プレッシャーを感じながらこの作品を作りました。私自身もクロードとジェルマンに近いところがあります。ですから、今回のラストシーンはクラッシクな終わり方ではなく、(自分を重ねた)隠喩的な表現になっています。


今回の作品はウッディ・アレンにオマージュを捧げているという部分がある。(オゾン監督)
-ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)とジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)が観に行く映画がウッディ・アレンの映画です。それから、クロードの物語の中にジェルマンが入り込むところなど、アレン作品を彷彿させるものがあります。これまでオゾン監督とウッディ・アレン監督は結びつかなかったのですが、作品中にアレン作品を使用した経緯をお聞かせ下さい。
オゾン監督:今回の作品はウッディ・アレンにオマージュを捧げているという部分があるかもしれません。ウッディ・アレンとダイアン・キートンのようにけんかもしながら、知的な会話もするといったコメディタッチのリズムをジェルマンとジャンヌの間にも作り出そうと思ったのです。また、ラファの家にジェルマンが侵入しているというシーンですが、あの方法を生み出したのはおそらく、ベルイマン監督が「野いちご」の中で編み出した手法です。あの手法を使った第一人者としてはベルイマン監督が初めてだと思います。


日本語のタイトルが変わっているということを聞かされると、ひょっとしたらタイトルだけじゃなくてストーリーも変えられているのではないか、シーンや俳優を付け加えて違うバージョンになっているのではないかということも?(オゾン監督)
- タイトルのことでお聞きしたいのですが監督の作品で邦題が『幸せの雨傘』と言う作品がありますが、原題の『POTICHE』を直訳すると壷とか花瓶という意味になるかと思います。主演のカトリーヌ・ドヌーヴさんの『シェルブールの雨傘』にオマージュを捧げてつけられたタイトルだと思いますが、原題と違うタイトルをつけられることに対してはどのように思われていますか。
オゾン監督:確かに日本語のタイトルが変わっているということを聞かされると、「ちょっと変だな」というところは感じますし、ひょっとしたらタイトルだけじゃなくてストーリーも変えられているのではないか、シーンや俳優を付け加えて違うバージョンになっているんではないかということも考えたりしますが、配給会社の方々を信頼しています。日本の観客に分かってもらわなければと思っていますので、そういう意味では(配給会社の方を)信頼をしています。『まぼろし』の時も、原題は『Sous le sable (砂の下)』というタイトルを変えていますが、その点を問題にはしていません。『POTICHE』は非常にフランス的な表現で、訳することが難しいと思います。一つの意味は花をいける花瓶ですが、もう一つの意味は夫の隣にいつもいる、きれいでニコニコしているお飾りものという、ちょっと意地悪なニュアンスがこめられています。


ファブリス・ルキーニさんは本の中から暗記している長い一節を僕の前で朗々と読んでくれました(ウンハウアーさん)
-エルンスト・ウンハウアーさんにお聞きしたいのですが、監督の志向、傾向について気がついたことがありましたら、教えてください。
ウンハウアー:オゾン監督の作品を観ているとスパイシーで皮肉っぽいところがあるかと思うのですが、ご本人もピリッとするようなところがあります。撮影現場でその中に自分も溶け込んでいるということが役者として、とても誇らしく思いました。

- ファブリス・ルキーニさんから演技指導をされたことがありますか。
ウンハウアー:テイクとテイクの間に待ち時間があります。作品中にジェルマンから本を渡されるシーンがあるのですが、ファブリス・ルキーニさんはその本の中から暗記している長い一節を僕の前で朗々と読んでくれたので「この本は読まなくていいや」と思いました。


どのような映画の作り方をすればいいのかを導いてくれたのはエリック・ロメールとライナー・ヴェルナー・ファスビンダーです。(オゾン監督)
-この作品は生徒と先生の関係を描いていますが、お二人にとっての恩師の思い出をお聞かせ下さい。
オゾン監督:僕の両親は引退していますが、教師でした。教師を間近で見ていると教師と言う職業は割が合わない、人から尊敬されない、給料も悪いと思っていました。ジェルマンを描くにあたり、とても大きな助けになっています。ジェルマンのような教師が私にはいませんでした。その代り、映画を通して色々なことを学んだと思います。映画監督がどのような映画の作り方をすればいいのかを導いてくれたのはエリック・ロメールとライナー・ヴェルナー・ファスビンダーです。

ウンハウアー:オゾン監督と同じように優等生ではなくいつも、最後列に座っているような生徒でした。クロードと違い、友達を笑わせるのは好きでした。15歳くらいの時に書くことが好きだったので、国語の先生からもっと書けばと言われたのですが、僕はクロードと違って想像力があるので、他人の家に侵入するという事もありませんでしたね。


 

In the House(英題)
2012年/フランス/105分
監督:フランソワ・オゾン
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、ドゥニ・メノーシェ、エルンスト・ウンハウワー、バスティアン・ウゲット
配給:キノフィルムズ

かつて作家を志していたジェルマンは、今は高校で国語の教師をしていた。凡庸な生徒たちの作文の採点に辟易していたとき、才気あふれるクロードの文章に心をつかまれる。ジェルマンは危険を感じ取りながらも文章の才能に魅せられ、クロードに小説の書き方を手ほどきしていく。やがて才能を開花させたクロードの書く文章は、次第にエスカレートして行き・・・。若き作家と教師の個人授業は、いつしか息詰まる心理戦に変わっていく。第60回サン・セバスチャン国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀脚本賞をダブル受賞、第37回トロント国際映画祭では国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、ますます国際的に評価が高まっているフランソワ・オゾンのスリリングな最新作。
© 2012 Mandarin Cinéma – Mars Films – France 2 Cinéma – Foz
今秋、日本でも劇場公開予定



文・編集:白玉 撮影:仲野薫

  • 2013年07月01日更新

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