フランス映画祭トークショー『黒いスーツを着た男』カトリーヌ・コルシニ監督、ラファエル・ペルソナさん-アラン・ドロンの再来と言われたフレンチ正統イケメンが『シブヤデマタミテネ』と日本語で挨拶。

  • 2013年07月04日更新

6月23日フランス映画祭2013で『黒いスーツを着た男』が上映され、カトリーヌ・コルシニ監督と主演俳優のラファエル・ペルソナさんがトークショーに登壇した。アラン・ドロンの再来と呼び声の高い、フレンチ正統イケメン、ラファエル・ペルソナさんが片言の日本語で挨拶すると観客からは暖かい拍手がわき上がり、和やかにトークショーがスタート。人間のもろさと、犯した罪を赦し導こうとする寛容の魂を浮き彫りにさせる作品に対しカトリーヌ・コルシニ監督に多くの質問が寄せられた。深夜にも関わらず、熱心なファンが集うトークショーの模様をレポートします。


13歳の時にひき逃げをされた経験が出発点(コルシニ監督)

まずは舞台上のラファエル・ペルソナさんから『キテクダサッテアリガトウ』と照れながらの挨拶でトークショーが始まります。
-『黒いスーツを着た男』は原題が『Trois mondes(三つの世界)』のこの作品はアリ、ジュリエット、ヴェラの3人のそれぞれの世界を一つの物語にしていますが、監督はこの物語はどのように発想を得ていったのでしょうか。
カトリーヌ・コルシニ監督(以下コルシニ監督):私自身が13歳の時にひき逃げをされ、瀕死の経験をしました。その経験を出発点としてこの物語を考えました。事故にからめて、違った世界に生きる三人の出会いを描こうとしました。一人は不法移民、もう一人は肉体労働者、もう一人は知的なインテリの三人の出会いを描きました。このストーリーを軸に30歳前後の若い人間を出合わせ、自分の置かれた立場が困難であったらどんな生き方になったのかを考えたかったのです。

-ペルソナさんは脚本を読まれた時にどのように思われましたか。
ラファエル・ペルソナさん(以下ペルソナ):事故を起こした人間を頭から決めつけてはいけないと思いました。読み終わった時に、自分なりの答えが見えてきましたが、コルシニ監督はシーンを撮影しながら、今自分がなにをやったのかを俳優達に考えさせるように撮影を進めていきました。




今回のテーマは贖罪です。多くの場合、赦すのは女性です。(コルシニ監督)
-コルシニ監督の作品を観てきて、今回、意外だったのは、主人公が男性だったということです。それまでは女性を主人公にした作品を観てきていたので「女性を描く」監督だと思っていました。今回の作品でも女性は重要な役割を演じていますが、構想の段階から(女性を重要な役に置く)ということは考えられていましたか?
コルシニ監督:過去の作品も観てくださってありがとうございます。女性を描きつつけているのは確かです。今回は男性の主人公を描きましたし、今後は男性も描いていきたいと思っています。今回のテーマは贖罪です。多くの場合、赦すのは女性です。この作品でも女性が赦しへの道を拓いていきます。


ひき逃げをするアルのまなざしの中にもろさを出そうとしています。(コルシニ監督)
- ひき逃げをする主人公に共感ができなかったのですが、物語が進むにつれ、主人公に共感できるようになりました。演技の上で気をつけたことを教えてください。
コルシニ監督:アルは冒頭、共感できない人間として登場しますが、物語の中で変わっていきます。こういう役柄を演じるというのは本当に難しいことです。ひき逃げをするアルのまなざしの中にもろさを出そうとしています。(ひき逃げのシーンは)車を止めて撮影撮しなければならず、技術的にも心理的にも難しかったと思いますが、ラファエルは短い時間でこの役を理解し、素晴らしい演技をしてくれました。

-服装や車など黒が際立っていました。それは死がテーマに関わっているからでしょうか?
コルシニ監督:私は日本に来て自分の作品を紹介するのが大好きです。フランスとは違う質問が出てくるからです。(黒を際立たせた理由の)一つには白黒映画の雰囲気を出したかったというのがあります。全体的に暗い色調で、ラファエルの衣装も黒が主体です。心、顔立ちが黒をベースにすると際立ってきます。また、黒を基調にすることで緊張感と不安感が出てきます。夜のシーンや車のシーンにも危険と死の匂いが漂います。悪夢にとりつかれた感じも醸し出しています。私自身も若い時にひき逃げ事件に遭っていますので、その延長として、黒を基調とした美しいストーリーが紡げたと思っております。


ラストは各人が想像できるよう観客に向かって開かれています。(ペルソナさん)
-主人公は冒頭のシーンとラストシーンでは全く違う人間になっていますが、主人公はどこに向かっているのでしょうか。
ペルソナ:このラストは各人が想像できるよう観客に向かって開かれています。どこに行くのか?どのような未来が待っているのかは観客それぞれの想像にまかされています。




(日本滞在中には)官能的な経験がたくさんありました。(ペルソナさん)
-最後にご挨拶をお願いします。
コルシニ監督:日本に来て、皆さんに作品を観ていただけてうれしく思っています。出来たら日本で撮影もしてみたいと思っています。そうすれば(日本の)メンタリティや、独特の世界-現代性と日本独特のものが混ざり合っている-そういうものが発見できるのではないかと思っているからです。
ペルソナ:私にとっては初めての来日になります。たくさんのことを発見することができました。二日間という短い間ではありましたが、官能的な経験がたくさんありました。観客の皆さんの視線と日本の方々のものの受けとめ方に感銘をうけました。コルシニ監督には濃密な撮影を経験させていただいて感謝しております。

最後にお二人は“シブヤデマタミテネ”と観客に向けて日本語を披露してトークショーは終了しました。




黒いスーツを着た男
監督:カトリーヌ・コルシニ
出演:ラファエル・ペルソナ、クロチルド・エム、アルタ・ドブロシ、レダ・カテブ
2012年/フランス=モルドヴァ/101分
配給:セテラ・インターナショナル

アランは自動車ディーラーの社長令嬢との結婚を10日後に控え人生の成功を手にする直前だったが、友人たちと騒いだ帰り道、深夜のパリの街角で男を轢いてしまう。友人たちに促され、茫然自失のまま男を置き去りにして逃走したアラン。その一部始終を、向かいのアパルトマンからジュリエットは偶然目撃する。翌日、被害者の容態が気になり病院を訪れたジュリエットは、そこで男の妻ヴェラに会う。ヴェラと夫はフランスの滞在許可証を持たないモルドヴァ人だった。そして、ジュリエットは病院の廊下で若い男の後ろ姿に目を留める。その男こそ、罪の意識に駆られて様子を確かめに来たアランだった。ジュリエットはアランを追いかけるが…。

※2013年8月31日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国順次公開
© 2012 – Pyramide Productions – France 3 Cinéma

文・編集:白玉 撮影:鈴木友里

  • 2013年07月04日更新

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