『かぞくのくに』―25年ぶりに北朝鮮から兄が帰国するということ

  • 2012年08月17日更新

「地上の楽園」と謳われた北朝鮮に16歳で移住したソンホ。25年間日本の土を踏むことのなかったソンホが病気療養のために三カ月の一時帰国が許可される。日本でソンホを待つ妹のリエと両親は喜びを隠しきれないが、ソンホの滞在中に家族を監視するヤン同志の存在が家族の空気を重くしていく。25年間の空白を家族、友人は埋めようとソンホと接するが北朝鮮での暮らしをするソンホとの間に大きな隔たりを感じていく。。。『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』といったドキュメンタリー映画で海外の映画祭で高い評価を得ているヤン・ヨンヒ監督が実体験を基に描く初のフィクション映画。ベルリン国際映画祭 フォーラム部門 国際アートシアター連盟賞受賞作品。テアトル新宿、109シネマズ川崎他にてロードショー

 

北朝鮮に渡った9万人が家族のいる日本に戻れないという事実。
帰国事業という言葉をご存じだろうか。1959年12月から1984年の間に行われた北朝鮮への集団移住のことで、日本社会で民族差別や貧困に苦しむ9万人以上の在日コリアンが北朝鮮に渡った。現在、日本と北朝鮮との間に国交がないため、移住した人々は日本への再入国をほとんど認められていない。ヤン・ヨンヒ監督の3人の兄はこの帰国事業で北朝鮮に移住しており、『かぞくのくに』はヤン監督が実際に体験した兄の一時帰国を元に描かれている。
 

北朝鮮から帰ってきた兄。誰よりも会いたかった兄との想像もつかない1週間
「地上の楽園」と謳われた北朝鮮に16歳で移住したソンホ。未だ、国交樹立がされていない北朝鮮に住む彼は25年間日本の地を踏むことはなかった。そのソンホが病気治療のために3ヶ月間の一時帰国を許可される。日本に住む家族は妹リエ、母、そして同胞協会本部の副委員長という重責にある父。25年という長い時間を経て再び会えた家族は喜びをかみしめるが、北朝鮮から同行した監視役のヤン同志の視線はソンホだけでなく家族全体を監視しているようだった。25年前、16歳のソンホが愛した母の味がずらりと並ぶ食卓。聞きたいこと、話したいことが山のようにあるはずなのに、出てくる言葉は途切れがち。やせ細ったソンホの写真を見て泣いた事。生きがいになった母の仕送り、病気を治すことが任務だと語る父。家族の中 に“あの国”は確実に入り込んできている。ソンホにとって25年間の北朝鮮での生活は家族に全て語れるものではなかった。北朝鮮での暮らしを明かさないソンホの姿に家族は北朝鮮での暮らしを心配し、見守ることしかできない。ソンホの脳の検査が始まる。結果は長期の治療が必要との診断がくだされるが、ソンホに北朝鮮から送られてきた知らせは…

家族が監視されるということ
注目は監視役のヤン同志。ヤン・ヨンヒ監督が北朝鮮アクセントにこだわったというこの役を演じるのは『息もできない』のヤン・イクチュンだ。どこまでも付きまとうヤン同志の存在に、北朝鮮という現実が重く家族の風景の中に入り込み、家族は素直な感情を通わせるのを阻まれる。もの言わぬソンホの中に、家族は“あの国”で起きていることを想像することでしか、ソンホと寄り添う事が出来ない。家族がヤン同志を通じてソンホの暮らす北朝鮮を見ようとする時に、一体なにが見えてくるのだろうか?無表情な人間性を感じられない姿に理解不能な不条理な国の体制だけなのだろうか?彼の見せる表情の中に日本で暮らす私達が共有できる人間性が見えてくるのか?ヤン同志=北朝鮮国家と言った政治的な側面だけではなく、一人の人間として北朝鮮に住む人々を捉えて欲しい。

 

▼『かぞくのくに』[2012年/日本/カラー/100分]
監督・脚本:ヤン・ヨンヒ
出演:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、大森立嗣、村上淳、省吾、諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種
製作:スターサンズ/スローラーナー
宣伝協力:ザジフィルムズ
配給:スターサンズ
※テアトル新宿、109シネマズ川崎他にてロードショー
『かぞくのくに』公式ホームページ
(C)2011『かぞくのくに』製作委員会

文:白玉

 

  • 2012年08月17日更新

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