【実践映画塾 シネマ☆インパクト】授業開始直前インタビュー 松江哲明監督(6/26~7/9)

  • 2012年06月13日更新
俳優志望の人も制作志望の人もドキュメンタリーを作ったほうがいいし、
出たほうがいいと思います

待ちに待った、松江哲明監督、初めてのワークショップ。
松江監督のドキュメンタリーの撮り方が実地に学べるチャンスがついにやってきました。
ドキュメンタリー経験は自分と向き合う貴重なレッスンの場。
フィクション志向の方にとってもヒントがたくさん得られるはず。
松江監督のドキュメンタリーは、被写体が魅力的に映っているし、
起こっている出来事にドキドキしていく。
どうしたら、そんなふうに撮れるのか? そんなふうにカメラの前に存在できるのか? そのノウハウがわかるかもしれない。
松江監督との2週間は、劇的な変革が起きる、忘れられない日々にしてみてはいかがでしょうか。

※2012年6月26日(火)に開講する松江哲明監督コースの詳細・受講申し込み方法等は、「シネマ☆インパクト」公式サイトをご参照ください。

― まず、監督がプロになる前はどうやって映画の勉強していたのですか?

松江哲明監督(以下、松江) 10代の時は年間300本見ていました。映画が好きで観てないと死んじゃう、みたいな感じでしたから。
 作品の良し悪しの判断力や自分の好みを明確にするためには1本でも多く観ておきたいと思います。寝ないでも観る。睡眠不足で疲れて途中で寝ちゃってもいいと思うんです。僕も寝ますから(笑)。本当に面白い映画はどんなに寝てなくてもドーパンミンが出て目が覚めるし、それでも寝ちゃったら、後悔してもう1回観ようと思うし。

― ワークショップで教えたことがありますか?

松江 ワークショップははじめてです。大学で講義はやっていますけど。今は京都造形大学で月1でやっています。

― はじめてのワークショップとは貴重ですね。なぜ、やろうと思われたのですか?

松江 山本政志監督に誘われて、監督が好きだから(笑)。それに、お話聞くと面白そうだなと思ったし。
 山本監督は、以前僕が監督の映画『スリー☆ポイント』のレビューを書いた時に電話をくださったんです。直接言ってくれる人、好きなんです。人づてに僕の話を聞くのがイヤで。連絡先知ってるのにツイッターとかに間接的に書くのがイヤなんですよ。いいなと思ったものは僕は直接伝えたいと思っていて。
 話が逸れましたが、シネマ☆インパクトは言い訳の効かなそうな場だなと思って。同じ期の監督が作った映画が同時に公開されるんでしょう。つまらないもの作ったら恥ずかしいなと思うから、インパクトのあるものを作りたいですよね。
 自分の力だけはできないので、今回応募してくださる方たちに助けてほしいと思います。僕と一緒に考え、あなたたちがさらけ出してくださいと。
 僕の作る映画は、まず人ありきで、その人がどういう人なのか、そのキャラクターで映画を作ってきたので、今回もそうなります。あらかじめコンセプトは決めてありますけれど、来てくださった方によって変わる可能性は大いにあります。

― シネマ☆インパクトでは唯一のドキュメンタリーの講座になりますね。

松江 お芝居をこうしたほうがいいとか、感情表現の話をする気はないです。ただ、俳優志望の人も制作志望の人もドキュメンタリーを作ったほうがいいし、出たほうがいいと思います。少なくとも一度は経験したほうがいいと思う。    
 なぜかというと、ドキュメンタリーをやることによって現実と向き合えるからですかね。ドキュメンタリーは現実を捉えないといけないものです。そして、現実は必ず予想を裏切るんですよ。それを経験したほうがいいと思いますね。

― 俳優になりたい人の多くは、現実がイヤだったり、違う自分になりたかったりするものかと思いましたが、どんなものでも現実と向き合わないといけないと。

松江 だからかなあ、僕、俳優さんのお友達いないんですよ(笑)。なんていうんだろ、大変そうじゃないですか、そんな生き方。自分じゃないものになろうとするって。僕が好きなのは、生き方が映画の人。この人、これしか生き方ないんだなって思える人。俳優だと、村上淳さんって、ああ、全身映画だなって思う。
 そんなふうに思うようになったのは、たぶんAV撮っていたからだと思うんですよね。ふだん別の仕事している人が現場に来てすぐ女優になっちゃうんですよね。男優もそうだけど、カメラまわった時に俳優になっちゃうんですよ。そういうのを見るとね。一生懸命に役者の勉強しているという人に会うたび、ああ未だ裏切りにあったことないんだなって思う。
 今、この僕の話を聞いて、ピンと来た人に来て頂ければ。
 あれ、これじゃ、宣伝にならないな(笑)。でも、どんな人でも役者になれますよ、一緒にがんばりましょう、とは言えないんですよねえ(笑)。

― 中には自分がわからない人がいると思うので、授業を受けたら、自分を知ることができるかもしれませんね。

松江 そうですね。不安な人や、自分に自信がないし、自分のキャラがわからない人に来てほしいですね。一方で、自信があって「僕を撮ってください!」という人はそういう人でおもしろい。

― そういう揺るぎない自信のある人も意外な自分に出会えるかも。

松江 丸裸にしてやる、みたいな。ハハハハハ。
 君が思ってるほど全然服を脱いでないよって。ただ別に脱ぐことが大事なのではなく、それも着てることと同じくらいじゃないとダメだと思うんですね、僕は。
 なんて言うんですかね。別にあなたの素が見たいわけじゃなくて、素を出せる状態じゃないとダメですよねって。いつでもパンツを脱げる覚悟を持つ。
 というか、いざという時、そういう覚悟ができないと、衣裳着て飾っている自分も見せられないと思うんです。AVの現場ってそういうことばかりでした。AV女優の方は、覚悟が違いますよね。

― あのう……そういう話になると、私も脱がされちゃうかも……と心配になっちゃうのではと。

松江 いや、別に、そういうことはないと思います。いや、ないですよ、ないですよ。それに、そこでビビっちゃダメですよ。そういう人は俳優向いてないんじゃないですか。
 例えば『愛のコリーダ』(1976年・大島渚監督)の藤竜也さんはちゃんと男性器で芝居してるじゃないですか。あれは大好きな映画なんでね。
 でも、女の子のほうが度胸ありますよ。男のほうが躊躇しますよ。

― 宣伝的には敷居を低くしたほうが……。

松江 いや敷居を低くしたらダメだと思います。そんなことしたら後半来なくなると思いますよ。

― 監督の撮影はこわいのでしょうか?

松江 こわくないですよ。ほんとこわくないですよ。自分で言うのもなんですが。

― こうしてお話していると紳士的な方ですが。

松江 ただ、カメラ回ったらこわくなりますよ。みんなで楽しかったねえ、なんてことでは映画は作れないですよ。そんなサービス業じゃないですから。

― 今のところの授業のコンセプトを教えてください。

松江 ある人の一日をひとりが撮って、それをジクソーパズルのように組み合わせて編集します。まあ、朝からスタートして夜が来て、また朝がくれば終われると思うので、なんかそういうのをやってみようかなと。

― 制作コースの方がカメラを回すのですか?

松江 そういうことになるかなあ。もしかしたら逆をやらせるかもしれない。もしくは、現場行かなくてもいいんじゃないかな。遠隔演出とか。撮影の時に仕掛けして事件を起こすのもいいかもしれない。『童貞。をプロデュース』の時はそういうことをやっていたので。

― これまでの監督は、エチュードやリハーサルを通して演技指導されていましたが、松江クラスはいきなり撮り始めてしまうことに?

松江 ドキュメンタリーなんだから演技レッスンなんてしたらダメじゃないですか(笑)。
 一番いい勉強になるのは撮られることじゃないですか。撮られている自分を見るとショックだと思いますよ。だって僕撮られたくないですものね。こわいですよ。カメラってシュートとかショットって言いますからね、撃つですからね。拳銃のメタファーですからね。教えるとしたら、カメラはこわいってことを教えたいですねえ。

― 制作志望はカメラは持参したほうがいいのですか?

松江 なくても貸せると思いますよ。どんなカメラでもいいですし。iPhoneでもいいんじゃないかな。

― 第1期は全員出演できましたが、第2期は出演できない人もいました。松江クラスは?

松江 僕は全員出しますよ。出ますけど……カットするかもしれない。ただ全員絶対出ますし、撮らせます。

― 先ほど、仕掛けるかもとおっしゃいましたけど、ドキュメンタリーって、起こっていることに関与しないで見つめているか、池に石を投げてさざ波を起こしてみるか、って方法がありますが、ただ見つめているだけではない方法を採りますか?

松江 今の話でいうと、池をただ撮るのが好きな人と、石を投げてさざ波を撮る人が好きな人がいて、僕の場合は、投げるんじゃなくて、自分が飛び込んでさざ波がぐちゃぐちゃ動いているのを内側から撮る。『トーキョードリフター』は石を投げてるほうだけど、『童貞。をプロデュース』と『あんにょん由美香』は自分が飛びこんで映像を撮っている映画です。池を撮るだけのことはないですね。でも、来た人によってはわからない。そこは本当にわからないです。ただ、池だけを撮らなきゃいけないっていう考えには思いきり反対だし、僕はそういう作り方ができないですね。それを否定しているのではなくて、本来そういうものだっていうことには反対します。
 あ、でも新作『フラッシュバックメモリーズ』は、池を撮ってるだけかもしれない。あれは新しい挑戦だったかもしれない。

― とにかく、今回は、松江監督の気持ちをどう動かせるかにかかってるってことですかね。

松江 僕は今まで、私なんて面白くないし……という人も撮ってるし、全然知らない人にいきなり会って撮ることもしています。面白い面白くないってことはなくて、ただちゃんと向き合って撮るだけです。

▼プロフィール
松江哲明 TETSUAKI MATSUE

1977年東京都出身。1999年、日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。日本映画学校の卒業制作として撮られた『あんにょんキムチ』が韓日青少年映画祭監督賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞などを受賞。カンパニー松尾のAV作品などから強く影響を受けており、自身も幾つかのAV作品を撮影している。そのひとつとして撮られた『アイデンティティ』は、在日のAV女優やAV男優についてのドキュメンタリーともなっている。この作品は再編集されて山形国際ドキュメンタリー映画祭などで上映された後、『セキ☆ララ』と改題されて一般劇場で公開された。ガンダーラ映画祭の第1回(2006年)と第2回(2007年)でそれぞれ上映された『童貞。をプロデュース』と『童貞。をプロデュース2』を併せて1本にした『童貞。をプロデュース』が2007年公開。1シーン/1カットのみで撮影したライブドキュメンタリー映画『ライブテープ』(主演:前野健太)が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞(2009年)、第10回ニッポン・コネクション(ドイツ・フランクフルト・アム・マイン、2010年)「ニッポンデジタルアワード」を受賞。最新作は前野健太主演『トーキョードリフター』。

※このワークショップの詳細・受講申し込み方法等は、「シネマ☆インパクト」公式サイトをご参照ください。

取材・編集・文:木俣冬

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