『サヴァイヴィング ライフ -夢は第二の人生-』―世界中のクリエイターが熱狂するヤン・シュヴァンクマイエル監督最新作。夢と現が交錯する、脅威のシュルレアリスム・アニメーション。

  • 2011年08月26日更新

チェコスロヴァキアのプラハに生まれ、共産党政権下でブラックリストに載りながらも創作活動を続けて来たシュルレアリスト、ヤン・シュヴァンクマイエル。アートアニメーションの巨匠とも呼ばれる彼の最新作は、写真と実写をミックスさせた“切り絵アニメーション”で、見る者を幻想世界に誘い込む。

主人公、エフジェンは冴えない中年サラリーマン。家では老いた妻エミラの愚痴を聞き、嫌な上司のいる会社を往復する毎日。ある日、エフジェンはイヴという名の美しい女性と出会う夢を見る。その後も、彼は夢の中で逢瀬を重ね、関係が深まっていくが、女性は会う度に名を変え、幼い息子や元夫らしき男の存在も明らかになる。夢の内容がどうしても気にかかるエフジェンは、精神分析医のホルボヴァー医師のもとカウンセリングを受けるが、どうやら彼が幼い頃に両親を亡くした経緯が関係しているらしいことが分かってくる。違和感を感じつつも夢の世界に引き込まれていくエフジェン。妻も行動を怪しみ始めるが……。夢の登場人物は一体誰なのか? 夢は何を意味するのか ― ?

第67回ヴェネチア国際映画祭正式出品作品。8月27日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにてロードショー。順次全国公開。

― 「夢=シュルレアリスム?」圧倒的な表現力で描く脅威のアートアニメーションの世界。

シュルレアリスム ― 日本語で“超現実主義”とも言われる芸術形態のひとつだが、“超現実”って何? と、ピンとこない人も多いだろう。サルバドール・ダリや、ルネ・マグリットに代表される奇妙な世界を描いた作品がイメージされるが、ヤン・シュヴァンクマイエル監督は、その分野で美術館と映画館の境界を取り払ったとされる作家である。彼が『サヴァイヴィング ライフ -夢は第二の人生-』で見せるのは、夢の中にさまよう男の物語。その映像は、ひとつひとつのシーンがまさにギャラリーで見るようなシュルレアリスムの作品そのもので、グロテスク、エロティックな表現が混ざりながらも、なんとも美しく幻想的な世界観に引き込まれる。「変な夢」というのは誰しも見た経験があるだろう。そういえば、夢の世界はいつもシュールだ。人に伝えたくても言葉では伝え難い不条理や不可解に満ちている。本作も、ヤン監督自身が見た夢から発想を得たとされているが、本当に人間の思考とは奥深いものだなと、その不思議に感じ入ってしまう。またその不思議な世界を、写真のコラージュによって見事に作品化したヤン監督の表現力には、クリエイターならずとも圧倒されることだろう。それだけ視覚的に印象の強い映画なのである。

― 夢が暗示する人間の欲。精神分析医の夢分析に注目。

また、本作の見所はホルボヴァー医師の「夢分析」にもある。スイカやリンゴ、ハンドバッグやワニなど、エフジェンの夢に出てくる数々のモチーフや、登場人物が指し示す意味を、フロイトやユングの言葉を借り、ホルボヴァー医師は冷静に説明してゆくのだ。分析により、夢とエフジェンの関係性が徐々に明らかになってゆくストーリーはスリリングでもある。「夢は無意識の産物」とは、ホルボヴァー医師が口にするフロイトの言葉だが、食欲や性欲など、人間のプリミティブな欲求がストレートに表現されている彼の夢の世界を見ると、制約のない「夢」というものが少々恐ろしくもあり、それでいて興味が押さえられない存在にも思えてくる。だからこそエフジェン、そしてヤン監督自身も、夢の世界に引きつけられていったのではないだろうか。

まずは、本作の不思議な世界にどっぷり浸かっていただきたい。そして帰宅後、今度は自分の夢で精神世界の旅をするのも面白い。

▼『サヴァイヴィング ライフ -夢は第二の人生-』作品・公開情報
チェコ/2010年/108分/R18+
原題:”PREZIT SVUJ ZIVOT (TEORIE A PRAXE)”
英語題:”SURVIVING LIFE (THEORY AND PRACTICE)”
監督・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル
出演:ヴァーツラフ・ヘルシュス クラーク・イソヴァー ズザナ・クロネロヴァー エミーリア・ドシェコヴァー ダニエラ・バケロヴァー ほか
後援:駐日チェコ共和国大使館 CZECH CENTRE TOKYO
製作:Athanor,C-GA Film
提供:レン コーポレーション ディーライツ アウラ ユーリアンドデザイン
コピーライト:(C)ATHANOR
『サヴァイヴィング ライフ -夢は第二の人生-』公式サイト
※8月27日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにてロードショー。順次全国公開。

文:しのぶ

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  • 2011年08月26日更新

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