『バスキアのすべて』

  • 2010年12月17日更新

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1980年代のNYアートシーンを疾走した天才画家バスキアの輝ける日々とは ―

本作は、バスキア本人の貴重な未公開インタビュー映像を軸に、彼を支えた友人たちの言葉で綴られる、初の「バスキア」ドキュメンタリーである。

みなさんは「バスキア」をご存じだろうか。アートとは縁遠い私は、彼自身についての知識はゼロに等しかった。恥ずかしながら、友人が着ていたTシャツのデザインでしか彼の作品を知らなかったのである。そんな私がこの映画について語るのは大変おこがましく、ファンの方々には失礼極まりないのだが、たった93分で、バスキアという存在、そして彼の作品にすっかり魅了されてしまったのでお許しいただきたい。

この映画には、文字通り「バスキアのすべて」が凝縮されているのである。

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スプレーペインティングされた地下鉄や壁。NY・ダウンタウンのイメージそのものの映像に音楽が組み合わさったスタイリッシュなオープニング。そしてバスキアのインタビューが始まる。

インタビュー当時25歳。すでに才能を認められ、成功を収めていたバスキア。友人がインタビュアーを務めていることもあり、リラックスした表情が垣間見える。斜にかまえ、酸いも甘いも見据えたような顔をしたかと思えば、時折見せる笑顔は別人のように無邪気で愛らしく、心惹かれる。

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友人と始めたグラフィッティ(落書き)からスタートし、偶然レストランで見かけたアンディ・ウォーホルに自分で描いたポストカードを売り、アーティストとして認められる。そして、瞬く間にスターの座にのぼりつめ、絶大な人気と不滅の栄誉を確実なものとする。

一晩の個展で2万ドルを稼ぎ、毎日パーティを開き、華やかな世界でもてはやされていたバスキア。マドンナと付き合ったことがあるというのも頷ける。しかし、その裏には、アーティストの宿命とでもいうのだろうか、ドラッグがつきまとう。心の支えであったアンディ・ウォーホルの死後、ドラッグの量が増え、27歳の若さでこの世を去る。

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本作には、彼が絵を描く姿も収められているのだが、その描き方に目を見張った。それは、美術の授業に飽きた小学生が絵筆をもてあまして落書きをしている感じだった。しかし、そこから出来上がる作品は、唯一無二の秀逸なアート以外の何ものでもない。誰にでも描けそうでありながら、決して真似することのできない独特のタッチと色彩感覚、そして比類なき表現力。バスキアの類い稀なる才能に気付き、彼を支え続けたアンディ・ウォーホルに感謝したい。

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監督はバスキアの友人であったタムラ・デイビス。彼女はバスキアが亡くなって2年も経たない頃、彼を撮影した映像すべてを引き出しにしまい込んでいたという。なぜなら、バスキアが最もがっかりすること、それは友人に捧げた自分の作品を売られることだったから。しかし、バスキアの肉声を聞いてもらうことが重要と、20年以上も公開されることのなかった映像を映画として作りあげた。その決意と、関係者の映像を集めて作品として世に送り出した努力に敬服する。本作は、貴重なドキュメンタリーであると同時に、バスキアへの愛が詰まった感動的な物語なのである。

バスキア、生誕50周年。1980年代のアート界に新風を吹き込んだアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキア。時代がやっと彼に追いついてきたように感じる。

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▼『バスキアのすべて』
作品・公開情報

アメリカ/2010年/93分
原題:”JEAN-MICHEL BASQUIAT:THE RADIANT CHILD”
監督・製作:タムラ・デイビス
出演:ジャン=ミシェル・バスキア
配給:CJ Entertainment Japan
コピーライト:All Jean-Michel Basquiat works (C) Estate of Jean-Michel Basquiat. Used by Permission. Licensed by Artester, New York
『バスキアのすべて』公式サイト
※2010年12月18日(土)よりシネマライズにて生誕50周年記念ロードショー!全国順次公開。

文:那須ちづこ
改行

  • 2010年12月17日更新

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