『ゴダール・ソシアリスム』

  • 2010年12月19日更新

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とにもかくにも、いの一番にご覧いただきたいのは、『ゴダール・ソシアリスム』の公式サイトで観ることのできる、本作の予告編である。

ジャン=リュック・ゴダール監督が自ら編集したこの予告編は、102分の本編すべてを超高速で約2分にまとめた、画期的で斬新な映像。もう、目がまわりにまわるったら。

しかし、超早まわしのこの予告編を観終えた直後、目にしたばかりの膨大な数の「画」が、自身の網膜に厳然と灼(や)きついていると気づくはず。気づくと同時に、「今すぐ、『通常の速度』で、すべてをこの目にしたい!」と欲するはず。「画」の数々から洪水のごとく襲ってきた美とイマジネーションが、いったいどのようなストーリーを展開しているのか、確認したくてたまらなくなるに違いないからだ。

第63回 カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でワールド・プレミアがおこなわれた本作は、ゴダール監督によるファン待望の新作長編。3部ならぬ「3楽章」の、シンフォニー構成となっている。

第1楽章「こんな事ども」 ― 地中海を行く豪華客船「ゴールデン・ウェブ号」で、年齢も国籍もさまざまな人々が、ヴァカンスを楽しんでいる。しかし、休暇気分に浸ってはいられない面々もいた。フランスの諜報機関に属する男、ある出来事の鍵を握るとされる老人、ロシアから来た捜査官の女らは、半世紀も前に起こった黄金の紛失事件をめぐる謎の渦中にいるのである。

第2楽章「どこへ行く、ヨーロッパ」 ― フランスの片田舎でガソリン・スタンドを営むマルタン一家。あるとき、父親か母親のいずれかが地方選挙に立候補すると表明した。長女とその弟は、「子供が選挙に出馬してもよいはずだ」と主張。そんな子供たちの誕生日は8月4日。1789年、フランス革命で「ある決定的出来事」が起こった日である。

第3楽章「われら人類」 ― エジプト、オデッサ、パレスティナ、ギリシア、ナポリ、そして、バルセロナ。人類の歴史が築かれたこれらの場所は、第1楽章で描かれた「ゴールデン・ウェブ号」の航路でもある。バルセロナに到着したこの豪華客船に待っていた、驚愕の運命とは?

個性際立つキャストの競演も、本作の見どころのひとつ。経歴不詳の美女、オルガ・リャザノヴァ。第二次世界大戦中にスパイとして活躍した、「フランスのジェームズ・ボンド」ことロベール・マルビエ。ミュージシャンのパティ・スミス。ロサンゼルス夏季五輪で銅メダルに輝いた元テニス・プレイヤーで、現在は作家のカトリーヌ・タンヴィエなどなど。一見、意外なキャスティングだが、ゴダール監督の世界に鮮やかに染まっている。

ゴダール監督の十八番といえば、「引用」。本作の台詞のほとんどは引用で作られており、クレジットでは出典がすべて明記されている。「映画館でクレジットを見ても、全部を憶えるなんて不可能!」という心配はご無用。本作の公式サイトにある”WHO’S WHO”のコーナーで、引用の一覧を見ることができるので、映画館で本編をご堪能になる際の予習に、観終えてからの復習に、ぜひご参照いただきたい。

▼『ゴダール・ソシアリスム』作品・公開情報
スイス・フランス/2010年/102分
原題:”FILM SOCIALISME”
監督:ジャン=リュック・ゴダール
製作:VEGA FILM
配給:フランス映画社
コピーライト:(C)フランス映画社
『ゴダール・ソシアリスム』公式サイト
※2010年12月18日(土)、TOHOシネマズシャンテにてロードショー!

文:香ん乃
改行

  • 2010年12月19日更新

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