『パン屋再襲撃』 カルロス・キュアロン監督×ルーカス・アコスキンさん インタビュー

  • 2010年11月15日更新

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村上春樹さんの短編小説『パン屋再襲撃』。日本人になじみ深くてファンの多いこの小説を、メキシコ人のカルロス・キュアロン監督が短編映画化しました。主演にキルスティン・ダンストさんとブライアン・ジェラティさんを迎えて、ニューヨークを舞台に描かれています。

2010年10月31日(日)、ショートショート フィルムフェスティバル&アジアが主催する「フォーカス・オン・アジア」が、東京都写真美術館にて開催されました。ショートフィルムの特別上映会と、クリエイター向けのワークショップがおこなわれ、その講師として、『パン屋再襲撃』のキュアロン監督とプロデューサーのルーカス・アコスキンさんが来日。ショートフィルムと映像制作、そして、メキシコの映画界について、日本のクリエイターたちに徹底解説をしてくれました。

ワークショップが始まる前に、キュアロン監督とアコスキンさんにインタビューをおこないました。おふたりが『パン屋再襲撃』を映画化するに至った経緯を、じっくりと伺いましょう。

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― 映画の作り手として、ショートフィルムならではの長編映画とは違う魅力や特徴は?

「ショートフィルムの魅力は、多くの制作期間を必要としないこと」(キュアロン監督)

カルロス・キュアロン監督(以下、キュアロン) フィルム・メーカーとして、短編・長編いずれでも、映画を作ることができるだけで嬉しいです。
ショートフィルムの魅力は、多くの制作期間を必要としないこと。たとえば、アイディアさえあれば、準備に約2日間、撮影に約1週間、そのあとの編集時間をいれても、たいてい1ヶ月ほどあればひとつの作品を完成させることができます。逆に、マイナスの部分は、おおかたの場合、予算があまりないということです。

ルーカス・アコスキンさん(以下、アコスキン) ショートフィルムは予算が少ないことが多いので、なるべくお金をかけないように、親しい関係者や友人にお願いして、便宜をはかってもらうことも必要になってきます。とにかく作品を作りたいという気持ちのある仲間と一緒に制作に取り組むことが大切です。

― 村上春樹さんの『パン屋再襲撃』を知った経緯と、この小説をショートフィルム化したいと思った決め手は?

「キュアロン監督は村上作品の大ファンなのです」(アコスキンさん)

アコスキン この物語については、キュアロン監督からの要望を聞いたのが始まりでした。その頃、私は違うプロジェクトで、ラテン・アメリカのオムニバス映画を作ろうと考えていたので、その一部をキュアロン監督にメキシコを代表して作ってほしいと思っていました。ただ、ちょうどその頃、彼は『ルドandクルシ』を制作中で忙しく、ショートフィルム用の企画や脚本を持っていなかったのです。
キュアロン監督は村上作品の大ファンなので、「『パン屋再襲撃』なら映画化してもよい」と言って、私に話を持ちかけました。この小説を映画化する権利をとるのは絶対に不可能と思われていたのですが、私は見事に権利を獲得することができました(笑)。
その後はキルスティン・ダンスト、ブライアン・ジェラティのキャスティングが決まるという幸運も経たのですが、権利の期限が迫っていたので、キュアロン監督と私は、『パン屋再襲撃』の映画化に急いでとりかかりました。

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― メキシコの映画界の、素晴らしい点と改善を望む点を、それぞれ教えてください。

「メキシコには映画制作における税金が対象外になるという法律があります」(キュアロン監督)

キュアロン 素晴らしい点は、現在、メキシコでは非常に多くの映画が制作されていることです。年間に80~90本も作られているのですが、その理由として、メキシコには映画制作における税金が対象外になるという法律があることが挙げられます。
年間90本の作品が制作されるとしたら、私はその内の半分である45本が良質な作品であれば良いと考えています。また、このような法律があるのだからメキシコの監督たちはもっと自分の作品を見つめる眼を持つことができれば、より質の高い作品を生むことができるはずです。
改善を望むという意味では、予算を多く持っているテレビ会社やテレビ業界に、もっと映画制作に関わってほしい、という想いがあります。予算が潤沢にあるテレビ会社が制作したからといって、よい映画ができるとは限らないのが現状だからです。

アコスキン ヨーロッパの映画事情も、全体的にそのような状況になっています。テレビ業界が長編映画を手がけても、よい作品はなかなかできません。もちろん、テレビ会社が映画に関わることで必ずしも悪い結果が出ているというわけではなく、国によっては、映画業界にとってテレビ会社が非常によいサポートをしている場合もあります。

― これから映画業界で活躍したいと考えている若者や、ショートフィルムを撮りたいと思っている若手のフィルム・メーカーへ、「これだけは忘れないでほしい」というメッセージをお願いします。

「”Just do it!”が大切です」(キュアロン監督)

キュアロン 2点あります。ひとつは、「映画作りにはルールがない」ということです。もしもルールがあって、そこにぶつかったとしても、壊すべきです。
もうひとつは、「とにかく、やりなさい。映画を作りなさい」ということです。”Just do it!”が大切です。

アコスキン 長編映画なら、キャラクター作りにかける時間的余裕がありますが、ショートフィルムは、文字通り作品の尺が短いので、登場人物の個性を表現したり、物語の展開を際立たせるためには初めから脚本をしっかりと作っておくことが大切です。

▼『パン屋再襲撃』作品情報
メキシコ・アメリカ/2010年/10分
監督:カルロス・キュアロン
プロデューサー:ルーカス・アコスキン
原作:村上春樹
出演:キルスティン・ダンスト ブライアン・ジェラティ 他

会場:ブリリア ショートショートシアター
Shortshorts 16
11月1日(月)~11月29日(月)

カルロス・キュアロン監督

▼カルロス・キュアロン監督
プロフィール

メキシコ生まれ。兄のアルフォンソ・キュアロン監督の『最も危険な愛し方』(1991)で初めて長編脚本を手がけ、メキシコ・アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。脚本を担当した『天国の口、終わりの楽園。』(2001)は、ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀脚本賞)を受賞し、米国と英国のアカデミー賞最優秀脚本賞にノミネートされ、国内外のヒット作となった。これまでに8作品のショートフィルムの脚本・監督も手がけた熟練のショートフィルム作家でもある。2009年に、ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナ主演の『ルドandクルシ』で長編監督デビュー。

Lucas Akoskin

▼ルーカス・アコスキンさん プロフィール
長年にわたりプロデューサーとして、長編、ショートフィルム、ミュージックビデオ、ライヴ、大規模なイベントなど、さまざまなプロジェクトを手がけてきた。
アルゼンチンのテレビ番組で、俳優としても活動をスタート。2001年にニューヨークに渡り、制作会社Gigantic Picturesと共に、モキュメンタリー作品『The Doorman』をプロデュース。同作品の脚本、出演で脚光を浴びる。 同作品はアメリカ国内での劇場公開に先駆け、数々の海外映画祭でも上映された。
2008年にプロデュースした『The Disappeared』は、ラテンアメリカで劇場公開され、アメリカのヒストリーチャンネルで放映されている。また、脚本家ギジェルモ・アリアガをはじめとするラテンアメリカの高名な映画人のショートフィルム シリーズをプロデュースした。このシリーズは各国の映画祭で上映され、ラテンアメリカで劇場公開された。

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村上春樹のユーモアを堪能する短編映画-『パン屋再襲撃』

取材・編集・文:香ん乃
改行

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