『nude』 小沼雄一監督 インタビュー

  • 2010年09月27日更新

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小沼雄一監督の新作『nude』は、2010年6月にAV女優を引退すると発表した女優・みひろさんの自伝的小説の映画化です。2010年9月18日(土)より、シネマート新宿ほかにて絶賛公開中。全国順次公開です。

渡辺奈緒子さんが演じる主人公の「ひろみ」が、AV業界にはいった経緯、その後の葛藤、そして決意を、緻密で繊細な人間描写を軸に描いた物語。AV業界が舞台というと、特に女性は躊躇するかもしれませんが、高校を卒業したばかりのひとりの女の子が、仕事、恋、友情に悩みながらも、自分を信じてひたむきに歩いていく姿を描いた、共感性にあふれる人間ドラマです。

公開を記念して、小沼監督に独占ロング・インタビューをしてきました。監督のお話に耳を傾ければ、『nude』が更に思い出深くて大切な作品になること、請け合いです。

― この映画を監督することになった経緯は?

小沼雄一監督(以下、小沼) 実は、僕の助監督が、みひろさんの所属事務所の社長の弟なんです。「みひろさんの原作小説を映画化する企画がある」と彼から話があって、僕が監督することになりました。

― 本作では、映像の中で、赤やピンクといった色を排除して撮影したということですが、その理由は?

「ピンクや赤を排除することで、男性の目線にはならずに、あくまでも女性側の目線になるのでは、と思ったんです」

小沼 僕が映画を作るときによくやる手法のひとつなのですが、色をなるべく限定することで、全体的なトーンを表現したいという考えがあるんです。

本作はAV業界が舞台なので、赤やピンクを使うと扇情的な印象になってしまうのでは、と思いました。今回は、いわゆる男性の視点ではなく、主人公であるひろみという女性の視点に立って描きたいと考えたので、ピンクや赤を排除することで、男性の目線にはならずに、あくまでも女性側の目線になるのでは、と思ったんです。

― では、逆に、本作で全体を統一するために使った色は?

小沼 ブルー、水色、ターコイズといった色を使いました。現場では「空色に近いかな」と話していました。加えて、みかん色のような淡いオレンジ色を使いました。

― 主人公のひろみ役に渡辺奈緒子さん、その親友・さやか役に佐津川愛美さん、ひろみの恋人・英介役に永山たかしさん、ひろみのマネージャー・榎本役に光石研さんが出演していますが、キャスティングの経緯は?

小沼 ひろみ役に関しては、いろいろな芸能事務所に脚本をお送りして、公募のような形をとったのですが、渡辺さんは第一候補で決まりました。

ほかのキャストに関しては、お名前を出して打診をさせていただいたのですが、第一希望のかたばかりにご出演していただけて、嬉しかったです。

― ひろみ役の渡辺さんにとっては、デリケートでナーバスなシーンも多かったかと思います。渡辺さんに、どのようなアドバイスをしましたか?

小沼 今回はリハーサルをじっくりとしたので、その際に、ひろみという役柄について、渡辺さんといろいろとディスカッションをしました。

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― 渡辺さんから、「私はこのように演じたい」というような意見はありましたか?

「渡辺さんご自身にたくさん考えて感じていただいて、『終わりがない』という感覚で演じてほしかったんです」

小沼 いろいろとお話はしましたが、今回は、渡辺さんが「ひろみという役は、これこれこうです」と簡単にまとめることができてはいけないと思いました。渡辺さんご自身にたくさん考えて感じていただいて、「終わりがない」という感覚で演じてほしかったんです。なので、むしろ、具体的な意見は持たないでほしい、というやりかたをしました。

― 本作を映画化するにあたって、原作者のみひろさんから、「ここはこうしてほしい」といったような提案はありましたか?

小沼 脚本が完成する直前にみひろさんに読んでいただいて、ディテールについてのご意見はいただきましたが、内容については特にありませんでした。原作に則って作った映画だからかと思います。

― 小沼監督が原作を読んだときに、「映画化するにあたって、ここは必ず伝えたい」と考えたのは、どういった部分ですか?

「『2種類の自分がいる』という部分は、映画として特に表現したいと考えました」

小沼 ひろみの恋人や親友とのやりとりや、彼女がAV女優をやるようになった経緯など、物語として段階を踏んでいく過程は、原作をできる限り損なわないようにしよう、と考えました。

その中でも、タレント・女優として「みひろ」という芸名を得た「夢をつかむために作りあげた自分」と、本名の「ひろみ」としての「自分自身」という、「2種類の自分がいる」という部分は、映画として特に表現したいと考えました。

― 劇中で、原作者のみひろさんが演じる先輩女優が、ひろみに芸名を命名するシーンがありますね。

小沼 実際のみひろさんは、事務所と相談して芸名を決められたのだと思います。ただ、みひろさんが同じ事務所の後輩に芸名をつけてあげたことがある、というエピソードを聞いたので、本作ではそれをちょっと流用しました。ある意味、「自分が自分に名前をつける」という、象徴的なシーンにしたかったんです。

― 共同脚本の石川美香穂さんは、小沼監督の奥様ですね。脚本の中で、石川さんの意図が強く反映された部分はどこですか?

小沼 初稿は僕がひとりで書いたのですが、どうしても男性目線になってしまうのと、僕のほうが年上というのもあって、ひろみの視点になりきれない部分がありました。本作は、絶対に女性の視点で書かなくてはいけない、と思ったので、そういう意味で、妻にはだいぶ手を入れてもらいました。全体の構成は、初稿の時点とあまり変わっていないのですが、ディテールはいろいろと変化したと思います。

― 光石さんが演じた榎本というキャラクターは、ひろみの理解者であると伝わってきますが、ともすれば狡猾という意味でやり手な男性にも映ります。「彼を信頼したいけれど、果たして、本当に信頼してもよいのだろうか」という雰囲気が絶妙でした。

「百戦錬磨で複雑な存在である榎本という役を、光石さんは本当にうまくつかんで演じてくださいました」

小沼 榎本は、「腹の中ではなにを考えているのか、本当の意味ではわからない」という雰囲気がありますね。そういった点を光石さんと話しあっていく中で、実に的確にそこをつかんでくださったと思います。

榎本はAV業界でキャリアを積んできた男という設定です。自分が担当しているAV女優がなにかを言いだしたら、どう対応すればよいのか、マネージャーの彼にはすぐわかるんですね。女優は人間ですから、単なる商品として扱ってはいけないわけです。そういう百戦錬磨で複雑な存在である榎本という役を、光石さんは本当にうまくつかんで演じてくださいました。さすがだと思いました。

実際の光石さんは、とても素敵なかたなんですよ。衣装合わせのときにスーツを着てらしたところを、「格好よいなぁ」と思って見ていたのですが、そのとき、衣装さんが彼に「コートを着てみますか?」と手渡したんです。そうしたら、光石さんは颯爽とコートに袖を通したんですけど、その仕草があまりに格好よくて、くらっときてしまいました(笑)。

― 永山さんの演じた英介は、ひろみとは学生時代からの恋人という設定ですね。英介は、ひろみが嘘をついたらそれを見抜く聡さを備えていますが、彼女の収入に甘えている部分もあります。そういった情けない面は、英介が本当にお金を稼ぐ能力がないのか、実はちゃっかり者なのか、どちらなのでしょうか?

小沼 両面を持っていると思います。あの年代の男性は、基本的に、将来をあまり考えていませんから(笑)。その場その場で生きているというような部分が、リアルではないかと思うんですよね。

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― ひろみと、佐津川さんの演じたさやかの友達関係が、とても印象的に描かれていました。ひろみにとって、さやかは大きな存在ですが、彼女を描くにあたって意識した点は?

「さやかは『一般常識の、一番の代弁者』という存在なんです」

小沼 さやかは「一般常識の、一番の代弁者」という存在なんです。彼女はひろみに対して、「AV女優をするなんて、なにを考えているの!?」と思うわけですが、それが普通で一般的な感じかただと思います。ひろみとさやかは新潟県の出身という設定ですが、特に地方だと、そういった意識が強いと思うんですね。さやかには、その世間的な感じを出してもらいたい、と思いました。

― 原作者のみひろさんには、男性のファンのかたがたくさんいらっしゃいますが、彼女の素の部分が表れている物語に接するということは、ファンのみなさまにとって、どういう感覚だと思いますか?

小沼 ファンのかたがたにとっては、みひろさんという人は、パッケージと画面の中だけにいる、完全に虚構の存在なんです。その彼女自身が作った物語には、人間としての「ひろみ」がいるので、ファンからすると、知らなくてもよい面かもしれません。そういう意味では、複雑な思いはあるでしょうね。

ただ、みひろさんは普通に生きている人間なので、彼女の素の部分を、ひとりの女性の青春の1ページとして、映画でご覧になっていただきたいと思っています。

― 本作の舞台はAV業界と、ある意味、特殊ですが、人間ドラマという印象が強いので、ご覧になるかたの性別や年齢は制限されないと思います。小沼監督は、どういったかたに本作を観ていただきたいですか?

「自分たちと等身大の女性を描いた物語として受け入れていただけると、僕としては一番ありがたいです」

小沼 もちろん、年齢や性別を問わず、みなさまに観ていただきたいですが、主人公のひろみを始めとした登場人物と同じ年代の女性に、特にご覧になっていただきたいですね。さやかのように反発する印象を持つかたもいらっしゃると思いますが、ひろみに共感なさるかたもいらっしゃると思います。いずれにしても、自分たちと等身大の女性を描いた物語として受け入れていただけると、僕としては一番ありがたいですね。

― ひろみの出身地が新潟ということで、新潟でのロケもおこなわれていますね。

小沼 実は、新潟のシーンを新潟で撮影したわけではないんですよ。ひろみが上京してから空港で働くシーンがあって、設定では羽田空港となっているんですけど、あれは新潟の空港で撮影しているんです。撮影許可がおりた唯一の空港が、新潟だったもので(笑)。ロケに行ったついでに、新潟の町の実景も撮ってきましたけれど。

また、新潟の海でひろみとさやかが会話をするシーンがありますが、あれは三浦半島で撮影したんです(笑)。

― 本作が完成して、最も感慨深い点は?

「主演の渡辺さんの頑張りが、ちゃんと映画に表れた点がよかったと思っています」

小沼 主演の渡辺さんの頑張りが、ちゃんと映画に表れた点がよかったと思っています。AV女優のひろみという役を、渡辺さんが彼女なりにどのように自分のものとしていくか、その過程がありのままに映画になっていると思います。そこが、本作の一番の胆だと思っていますので。

― 本作を既にご覧になったかたがたのご感想で、印象に残った点は?

「ひろみが今後どうなるのかは、本人次第ですから、成功なのか失敗なのかという問題は、大事な部分ではないと思っています」

小沼 AV業界ではなくても、グラビアやタレントを目指しているかた、あるいは実際に活動しているかた、そういった若い女性に多く観ていただいたのですが、同じ芸能界で生きているということもあってか、他人ごとではない、と共感なさるかたが多いようでした。「自分がこれからどういう道に進むのかを考えて、リアルに頑張らなくては」といったようなご感想が多かったですね。

男性の観方は十人十色でした。この映画がサクセス・ストーリーなのかどうなのか、その印象が、観るかたによってまったく違うんです。

僕としては、「ひろみは、苦難の道・険しい道を歩んでいる」と描いたつもりなので、彼女の生きかたは、成功や失敗でもなければ、楽観や悲観でもないと思っています。でも、本作を観てくださった男性の中には、「ひろみがタレントとして成功していくように描かれている」と感じたかたもいらっしゃれば、「ひろみの人生があまりにも悲惨で、この先、道が閉ざされて転落していく」と感じたかたもいらっしゃいました。

作った僕としては、「ここが、ひろみの出発点だ」として描きました。ひろみはまだ一歩を踏みだしただけで、彼女が今後どうなるのかは、本人次第ですから、成功なのか失敗なのかという問題は、大事な部分ではないと思っています。

たとえば、AV女優の中には、1、2本出演してすぐに引退するかたもいれば、本当に女優になりたいと考えているかたもいますし、また、客観的に見て「自分に傷がついて終わった」と思うかたもいらっしゃいます。でも、僕はそれを単なる失敗だと断罪したくはありません。あくまでも、彼女の人生の中の、ある過程のひとつだと考えています。

― 最後に、本作をご覧になるかたがたへ、メッセージをお願い致します。

小沼 みひろさんという、実際にAV女優として活動していたかたが、人生のある時期に悩んだり、一生懸命考えて決断をしたりという、その等身大の思いを、みなさまにも感じていただけたらよいな、と思っています。

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▼小沼雄一監督 プロフィール
1965年12月3日生まれ。茨城県出身。大学卒業後、今村昌平監督が創設した日本映画学校に入学。1995年、同校の卒業制作として監督した『チャンス・コール』が今村昌平賞を受賞。日本映画学校卒業後、助監督として経験を積んだのち、『自殺マニュアル2 中級編』で商業映画監督デビュー。主な監督作品は、『AKIBA』、『夏の思い出』、『童貞放浪記』、『都市霊伝説 心霊工場』、『結び目』、『nude』等。パソコンのプログラミングが得意で、オンラインソフトの製作者という顔も持つ。
●公式サイト:O’s Page

▼小沼雄一監督 これまでのインタビュー
『結び目』 小沼雄一監督×赤澤ムックさん インタビュー
『都市霊伝説 心霊工場』 小沼雄一監督×大塚麻恵さん インタビュー
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▼『nude』作品・公開情報
日本/2010年/106分
監督:小沼雄一
原作:みひろ(『nude』講談社刊)
出演:渡辺奈緒子
佐津川愛美 永山たかし
みひろ 山本浩司 光石研 他
配給:アルシネテラン ハピネット
コピーライト:(c) 2010「nude」製作委員会
『nude』公式サイト(注:音が出ます)
※2010年9月18日(土)より、シネマート新宿ほか全国公開中。
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取材・編集・文:香ん乃
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《原作小説》
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