『トイレット』 荻上直子監督 インタビュー

  • 2010年08月29日更新

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『かもめ食堂』、『めがね』などで根強い人気を持つ、荻上直子監督待望の新作『トイレット』。

バラバラで生きてきた3人の孫と英語が話せない“ばーちゃん”が、言葉を超えて心を通わせていく優しく温かいお話です。

2010年8月28日(土)の公開に先駆けて、荻上監督にお話を伺いました。

― 本作のタイトルにもなっている『トイレット』を題材に選んだ理由は何でしょうか。

荻上直子監督(以下、荻上) 『かもめ食堂』のフィンランド人スタッフが日本に遊びに来た時にトイレにかなり感動している姿を見て、「外国の人から見た日本のトイレってすごいものなんだ!」と思ったことから今回の発想が浮かびました。そのスタッフはいろいろな場所でトイレに入っては写真を撮影していたのですが、システムが少しずつ違うことにも興味があったようです。

― ばーちゃん、3人の孫からなる家族の関係は、ウエットすぎずドライすぎず、近すぎず遠すぎず、とても心地よい距離感を保っています。

荻上 私自身、あまり人とべたべたする関係が得意ではないんです。ひとりの時はひとり、みんなでいる時はみんなと一緒にいる、友人にも家族に対してもそういう距離感を大切にしています。『かもめ食堂』と『めがね』の前2作でもそうですが、多分自分が心地良いと思う距離感が映画に反映されているのかもしれません。

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― 監督の作品の常連ともいえるもたいまさこさんが、今回も“ばーちゃん”役で出演されています。もたいさんの魅力とキャスティングの理由について教えてください。

荻上 「英語が全く話せないおばあさんが、外国で日本語の通じない家族と一緒に住む」という話を考えた時点で、もたいさんに出演して頂きたいと考えていて、脚本も彼女を想定して書きました。『めがね』の中で私が一番好きなのは、主人公タエコ役の小林聡美さんが道に迷った時、サクラを演じるもたいさんが自転車で駆けつけて2人で去るというシーン。ここはセリフがないのにとても面白く成立している場面だと思っています。だから今回、セリフが少なくても、もたいさんの持つオーラや存在感できっと映画を“魅せて”くださるだろうと確信してお願いしました。

― もたいさんに絶大な信頼を寄せていますね。

荻上 そうですね。普段もたいさんはそれほどおしゃべりなほうではなく、一緒にご飯を食べにいっても静かにしていらっしゃる方なのですが、たまにぼそっという一言がおかしかったり面白かったり、ものすごく的を射ていたりするんです。これが怖いというか面白いというか。今作のばーちゃんの役柄には、私が普段からイメージするもたいさん像が少し入っているような気がします。

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― 外国人キャスティングについてはいかがでしょうか。

荻上 謎の女性役のサチ・パーカーさんは映画『西の魔女が死んだ』を見て、自分からお電話したのですが、他の孫役の3人やレイのインド人の同僚役は全員オーディションで選びました。

― ばーちゃんの衣装は一見地味に見えますが、さりげなくおしゃれでフェミニンな雰囲気があります。

荻上 ファッションは完全にスタイリストの堀越絹衣さんにお任せしています。何作か一緒に仕事をしていますが、私があれこれ言うより彼女が脚本を読んで感じたままの衣装を持ってきてくださるほうが面白いものになるんです。アイデアもたくさんあって細部まで考えてくださるので、本当に信頼できる方ですね。財布ひとつにもこだわりがあり、「これがいいと思うのよ」とすごく大きな蛇柄の財布を持ってきてくれました。

― 長男のモーリーが履くスカートも、色や柄がとても華やかでしたが。

荻上 すでに花柄のスカートというのは自分の脚本に書いてあったものですが、女装癖とかゲイとかそういう意味合いではない、きちんとしたおしゃれとして、この男の子にはスカートが似合ってほしかった。映画が進行するにつれてスカートがどんどん似合っていき、最後には履いていて当たり前という感じになっています。この違和感がなくなっていくという過程は、堀越さんのセンスのおかげです。基本的に次男のレイ以外、モーリーと妹のリサ、ばーちゃんの3人はおしゃれさんという設定にしています。

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― 今作でもフードスタイリストの飯島奈美さんの作る家庭料理が本当においしそうです。監督の作品には魅力的な料理がよく出てきますね。

荻上 多くの方が私の映画の中の料理を「いつもおいしそう」と言ってくださいますが、わざわざ料理を出しているわけではないんです。『かもめ食堂』は舞台が食堂なので当然出てくるし、『めがね』も何もない宿で楽しみといえばご飯しかない。今回も家族の距離がちょっと縮まる時には、家族と一緒にご飯を食べるだろうし、食べるだけではなく一緒に作ってもらいたいなと考えたからです。料理はストーリーの一部として必然的に出てくるだけなのですが、やはり飯島さんの力で本当に魅力的に見えるのでしょうね。実際にとてもおいしい料理なので、だからこそ“おいしい顔”を撮ることができるんです。

― ばーちゃんは孫たちを静かに見守りながら、彼らが自分の人生の扉を開くきっかけを作ってあげたような気がします。ご自身はこの孫たちのような経験はありますか。

荻上 ちょっと意味合いが違ってしまうのですが、この作品のチラシにある“みんな、ホントウの自分でおやんなさい”というコピーを見た時、「自分はこの言葉をばーちゃんか誰かに言ってほしくてこの映画を作ってきたのか」と思うぐらいに自分の心理を突かれた気がしました。『かもめ食堂』と『めがね』で区切りがついたと感じていて、「そこから新しい一歩を踏み出さないといけない」と考えていたんです。それでこの映画を作ったのですが、「これを作らないと本当の自分でいられない」ぐらいに思っていたので、このコピーには本当に驚きました。

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― 本作では、監督とおばあさまの関係、また、ご家族との関係でヒントにしたエピソードはありますか。

荻上 祖母とは離れて暮らしていたので自分のエピソードはあまりないのですが、以前留学先のロスで暮らしていた時、日系人の友人のところに日本からおばあさんがいらしたことがあったんです。日本語が話せない友人は、「ばーちゃん、ばーちゃん」とその時だけ日本語で呼んでいて。この部分は本作でも使っています。それから、私が小さい時に母が足踏みミシンを持っていました。子供にとって足踏みミシンはフォルムなどが面白いので、その下に隠れて遊んだりしていましたね。その経験が、今回ミシンを作品で使ったことに少し反映されているような気がします。

― 今まで、伊豆、フィンランド、与論島と国内外でロケをされています。今回カナダ・トロントでロケをした理由と、今後作品で舞台にしてみたい場所を教えてください。

荻上 西海岸の乾いた気候より、もうちょっと湿気があり、緑の木々や古い家が並んでいる東海岸のような場所で撮影したいという気持ちがありました。この作品のロケ地を探していた時に、ここ最近トロントがアメリカ映画でも使われていること、映画を作る環境が整っており良いスタッフもたくさんいること、またお天気があまり崩れないということなどを知り、この街を選びました。今後はまたヨーロッパでも撮ってみたいし、メキシコのようなお酒を飲んでだらーっとしている空気感のある場所でも撮影してみたいです(笑)。

荻上監督の役者やスタッフの方々への確固たる信頼が、この素敵な荻上ワールドに重要な役割を果たしていることを知り、改めて細部まで心の行き届いた作品であると認識しました。優しく穏やかな気持ちになりたい方はぜひ劇場へ。
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モリオ 荻上直子監督初の小説集。『トイレット』原案となった「モリオ」他1編を収録。荻上監督の世界観をたっぷり堪能できます。

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▼荻上直子監督 プロフィール
1972年、千葉県出身。千葉大学工学部卒業。1994年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で学ぶ。2000年帰国。デビュー作『バーバー吉野』(2003)でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。『かもめ食堂』(2006)の大ヒットにより、日本映画の新しいジャンルを築く。『めがね』(2007)は、海外の映画祭でも注目を集め、ベルリン国際映画祭ではザルツゲーバー賞を受賞した。本作『トイレット』は監督の脚本によるオリジナル企画である。

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▼『トイレット』作品・公開情報
日本・カナダ/2010年/109分
脚本・監督:荻上直子
出演:アレックス・ハウス
タチアナ・マズラニー デイヴィッド・レンドル
サチ・パーカー
もたいまさこ
配給:ショウゲート/スールキートス
フードスタイリスト:飯島奈美
衣装:堀越絹衣
コピーライト:(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ
『トイレット』公式サイト(注:音が出ます)
※2010年8月28日(土)より、新宿ピカデリー、銀座テアトルシネマ、シネクイントほか全国ロードショー。

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『トイレット』 作品紹介

取材・編集・文・スチール撮影:吉永くま
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