『+1(プラスワン) vol.3』 立石義隆プロデューサー×山川直人監督 インタビュー

  • 2010年07月03日更新

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毎月、日本映画界の第一線で活躍する監督たちが講師を務める「俳優ワークショップ」 ― 株式会社アプレが、2003年から主催しています。

監督の提示する物語のラフ・スケッチを元に、プロ・アマ問わずオープンに参加した俳優たちが、4日間かけて演技を練りあげていくという、このワークショップ。

ここから発展したのが、究極のインディーズ短編映画集『+1(プラスワン)』。2010年7月3日(土)からユーロスペース(東京)にて、『+1 vol.3』が上映されます。

第3弾となる今回のラインナップは、山川直人監督の『驚かさないでよ!』、冨樫森監督の『今夜のメニュー』、篠原哲雄監督の『下校するにはまだ早い』、熊切和嘉監督の『鶴園家のめまい』の4作品。出演者はいずれも、ワークショップに参加した俳優たちです。

『+1』はDVD化されません。映画館でしか観ることのできない、この贅沢な短編映画集の魅力を、『+1 vol.3』の立石義隆プロデューサーと、『驚かさないでよ!』の山川監督に、じっくりと伺ってまいりました! ↑の写真、左が山川監督、右が立石プロデューサーです。山川監督からの動画メッセージもありますよ!

― 俳優ワークショップと、この企画が『+1』に発展した経緯について、聴かせてください。

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立石義隆プロデューサー(以下、立石) 2002年くらいに山川監督が「俳優のワークショップを始めたい」とおっしゃったのがきっかけです。山川監督が作ったフォーマットをもとに、日本映画界のトップランナーとして活躍している監督たちを講師にお招きした俳優ワークショップを、2003年から主催することになり、現在も続いています。
1回のワークショップが全4日間で、監督にテキストや1シチュエーションをご用意いただき、参加する俳優たちが、それに基づいて1シーンを作っていきます。初めの3日間でこの作業をしてビデオ撮影をし、それを編集したものを1週間後に観てディスカッションをする、という形式です。
ワークショップでは、1シーンを監督と参加者全員が、情熱をかけて作りあげようとしているので、「せっかくだから、撮影して完結するだけではなく、外に出てロケをして、短編映画にしよう」ということで、『+1』へ発展していきました。

「『こういった機会を設ければ、俳優にとってよい勉強になるのでは』と考えたのが、ワークショップを始めたいと思ったきっかけです」(山川監督)

山川直人監督(以下、山川) アメリカで、ロバート・レッドフォードさんが主宰するサンダンス・インスティテュートという映画振興団体が、「映画監督が練習のために撮影実習をする」というカリキュラムを組んでいて、日本からの奨学生として、僕はこのカリキュラムに参加した経験があります。
全3日間のカリキュラムで、1日がリハーサル、1日が撮影、1日が編集、という形式でした。参加する監督は自分のやりたいシーンを数パターン用意していって、同じくカリキュラムに参加している俳優たちに演出をつける練習をするのです。
そのとき、一緒に参加したアメリカの俳優が、「舞台ならリハーサルの期間がひと月くらいあるが、映画では演技の練習をする機会がなかなかないから、このカリキュラムに参加して、とてもよかった」と言っていて、「日本でも、こういった機会を設ければ、俳優にとってよい勉強になるのでは」と考えたのが、ワークショップを始めたいと思った、そもそものきっかけです。
また、既にプロとして活動している監督にとっても、普段、演出の練習をする場所はありません。ですから、ワークショップでは、一応、教える立場ではありますが、あらゆるタイプの俳優を演出する練習になるので、監督にとっても有意義な機会になるんです。
ワークショップに参加する俳優は、芸能事務所に所属しているかたや、既に有名な俳優で演技の練習のために来られるかた、もちろん、初めて演技をするというかたもいらっしゃる。いろいろなタイプの俳優にお会いすることができます。

立石 参加者の中には、(映像業界とは関係のない)一般企業にお勤めのかたも多いです。また、年齢制限は設けていないので、上は50歳代の半ばから、下は10歳代の半ばまで、あらゆるかたが参加してくださっていますよ。

― 『+1』の監督は、どのように決めるのですか?

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立石 ワークショップで講師を務めてくださった監督の中から、お願いしています。
今回の『+1 vol.3』に関しては、山川監督と熊切監督に撮っていただくことは先に決めていたので、このお二方とまったく違う作品を撮りそうなかたを選ぼう、ということで、冨樫監督と篠原監督にお願いしました。4作品の印象がまったく異なったほうが、おもしろいので。
また、各作品の出演者は、ご自身が講師を務めたワークショップに参加した俳優の中から、監督がそれぞれに選抜します。
撮影にあたってのルールは特に決めていなくて、「原則として、20分くらいでまとまる作品で」ということだけ、各監督にお願いしています。あとは、撮影は基本1日で、予備日も1日ということと、予算は少ないですよ、と(笑)。

― 『+1』の撮影には、立石プロデューサーも立ち会うのですか?

立石 全作品のロケハンから撮影まで、すべてに立ち会います。
撮影現場では、車輌の運転、近隣住民のかたがたへの挨拶、時間の管理、スチールの撮影、お弁当の買い出しまで(苦笑)、なんでもやりますよ。

山川 『+1』は、自主制作映画なので(笑)、予算の都合上、一般の商業映画のようにはスタッフを配置できないんです。

― 山川監督の『驚かさないでよ!』は、東京工芸大学・映像学科に在学中で、現在2年生の、村瀬綾嶺さんの脚本ですね。

山川 僕は東京工芸大学でシナリオを中心に講師をしているので、学生の中から脚本を公募したんです。ジャンルを指定せずに、「20分くらいの尺で、好きなものを書きなさい」と言って。
約20本の応募がありました。「これは映画にしたい!」と気に入った作品の中で、今回の予算に合うかどうかを検討した結果、当時、大学1年生だった村瀬さんの脚本を採用しました。

― 『驚かさないでよ!』を撮ってみて、おもしろかったことは?

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「『自分がもともと、なにが楽しくて映画を作っていたのか』という気持ちが、蘇る思いがしました」(山川監督)

山川 全部です(笑)。もう、なにからなにまで、おもしろかったです。
僕はもともと、大学生のときに自主映画を制作をしていて、そこからスタートしたので、当時の楽しさを思い出しました。
作品を作ることの基本は、「やりたい、と思ったことを、あたりまえのようにできること」なんですよね。でも、映像制作が職業になって、特にテレビ・ドラマなどの仕事をしていると、自分でも気づかないうちに、「職業としての枠」が身についてしまう部分があるんです。
そんな中、『+1』のような機会があると、「やりたい、と思ったことができる幸せとありがたさ」を感じます。『驚かさないでよ!』の撮影を担当した榎本正使さんも、学生時代に自主映画制作をしていたかたなのですが、今回、彼と一緒に作業をしているときも、「久しぶりの自主映画で、とても楽しくて、おもしろかった。こういう機会があって、よかった」と、ふたりで感想を言い合いました。「自分がもともと、なにが楽しくて映画を作っていたのか」という気持ちが、蘇る思いがしたんです。
また、『+1』では、監督がいろいろと実験をすることができるんです。「こういう見せかたをすれば、おもしろいのではないか」という発明につながります。

― 『驚かさないでよ!』には、アニメーションも使われていますね。

山川 アニメも、僕が自分で作りました。

立石 事前に、パソコンで作ったサンプルの映像を山川監督に見せていただいたときに、アニメを使った手法がおもしろくて、とても惹かれたんです。でも、実は、完成した『驚かさないでよ!』をいざ見せていただいたら、アニメがまったく使われていなかったんですよ。

山川 立石さんに指摘されて、アニメを使っていなかったことに気づきました(苦笑)。
それから、改めてアニメをつける作業をしたのですが、やっているうちに、当初の予定よりも多くのシーンに使いたくなってしまって、結果的に、この作業には、かなりの時間を費やしたんですよ。

立石 最終的にはアニメも入って、当初以上に素晴らしい作品になったので、よかったです(笑)。

― アニメーションを使用するという構想は、脚本の段階で決まっていたのですか?

山川 脚本を読んで、ワークショップをしているうちに、「ここをアニメにしたらどうかな」という感じで決まっていきました。
僕はもともと、個人作業が大好きなんです。「なんでも自分でやりたい!」と思ってしまうので、監督体質ではないんですよ(苦笑)。制限がある中で、どのように見せたらおもしろいだろうか、と考えて工夫をするのが、得意であり、楽しくもあるんです。
ですから、今回、アニメのシーンを作るのも、とても楽しかったです。2009年の12月下旬に、東京工芸大学での講義が終わって大学が冬休みに突入してから正月明けまで、アニメ作りに没頭していました。起きたらパソコンをひらいてアニメを作り、眠くなったら寝るという、「ひとりクリエイティブ隠遁生活」(笑)。本当、楽しかったですね。

― 『+1』の出演者は、ワークショップに参加された俳優ということで、撮影現場にはキャリアの異なる俳優が混在しているということになりますね。そういった現場で演出をしたご感想は?

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「監督という立場は、『映画を観るお客さんの第1号』なんですよ。出演者たちの演技を見て、感動したいんです」(山川監督)

山川 好きです(笑)。(キャリアも個性も)ばらばらだからこそおもしろいし、そこから映画が成立するのだ、と見せることができるのも、またおもしろいです。
商業映画やテレビ・ドラマの仕事では、出演者のレベルも統一されていますが、そういう統制下に置かれている状況と違って統一感がない。そこがまた、おもしろくて僕の好みです(笑)。
監督という立場は、「映画を観るお客さんの第1号」なんですよ。出演者たちの演技を見て、感動したいんです。キャストの演技を最初に見て、感動して、では、その演技をどのように演出すれば更に生かせるか、おもしろくなるか、そう考えているときが、本当に楽しいんです。
テレビなどでよく見る有名な俳優が出演していれば、お客さまに興味を持っていただくキャッチにはなりますが、「その映画が、どれだけおもしろいかどうか」という点では、(俳優の知名度は)あまり関係ないんです。
また、大作映画だからおもしろいとは限りませんし、いわゆるテレビ的なパターン化されたおもしろさは、何本か観ていると飽きてくるものです。

― 映画館で映画を観ることについて、どのようにお考えですか?

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「映画館は、人間的な共有ができる場所であると思います」(山川監督)

山川 「映像の新しい体験手段」が、世の中には、どんどん出てきています。もちろん、新しい映像の手法や、それを体験するツールにも、僕はとても興味があって、惹かれています。たとえば、iPadは、僕もほしいです(笑)。
ただ、「映画館で映画を上映する」、「映画館で映画を観る」ということは、最も古くからある興業形態であり、映像体験の形なんですね。
手元のツールで映画を観たり、自宅のテレビなどで映像を観たりする個人的な体験と違って、映画館では、多くの知らない人々と同じ作品を共有することができます。ひとつの閉ざされた空間で、ひとつの映画によって、そこにいる多くの人たちの感情が動かされている空気を体験するということは、すごく人間的だなぁ、と僕は思うんですね。だから、せめて3ヶ月に一度でもいいから(笑)、映画館で映画をご覧になっていただきたいです。
僕が学生時代に自主制作映画を撮り始めたとき、名画座にかよって、たくさんの映画を観ました。大島渚監督特集や、鈴木清順監督特集などを観て、若いあの当時はよくわからなかった場合もありましたけど(笑)、「わからないもの攻め」に遭っても、そういう体験を繰り返しているうちに、「なにがよくて、なにがよくないのか」という、自分なりの基準が身についてくるのだ、と思っています。
若い頃に、純粋に観客として映画を観ていたときに自ずと身についたその基準が、のちのち映画を作る側になったときに、「このように作れば、お客さまはこのように感じてくださるだろう」という、自分なりのものさしになっている、と気づきました。
また、「映画館で映画を観る体験」だけが与えてくれる「作り手の気持ちの伝わりかた」があります。それは、テレビ・ドラマやほかの映像メディアにはないものです。
僕自身、映画が好きなので、このような言いかたになりますが、映画館は人間的な共有ができる場所であると思いますし、自分が作った映画に対しても、そのような作用を期待しているので、映画監督として、名画座やミニシアターは、映画というメディアにとって不可欠です。
加えて、映像の作り手としては、たとえばテレビ・ドラマを作っても、ご覧になったかたの反応がわからないわけです。映画館では、お客さまのリアクションを感じることができるので、ありがたいですね。そういう意味で、自分の撮った映画も、映画館で観たいと思っています。

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「感動や感情、心の動きを、みなさんで共有して初めて成り立つ映画であってほしいんです」(立石プロデューサー)

立石 暗闇の中で、ひとつのスクリーンを多くの人と共有して映画を観ると、ひとりで観ていては気づかないことや、感動、感情、心の動き、そういったものが周囲の人たちから伝わってきて、それによってまた、違ったものが見えてきます。映画は、映画館で観ることによってふくらんでいくのだと思います。
「『+1』をDVD化しないんですか?」と、よく訊ねられるんですけど、しません(笑)。映画館でご覧になっていただきたいからです。今ここでしか観られない映画を、多くの人たちと空間を共有していただきたい。感動や感情、心の動きを、みなさんで共有して初めて成り立つ作品であってほしいんです。

― 今後のご活動につきまして、告知をお願いします。

山川 現在、中国の上海で開催中の万博に日本館があって、日本各地の県や主要都市を紹介しているPRコーナーが設けられているのですが、そこで2010年10月に上映する岐阜県のPR映像を僕が撮りました。ストーリー性のある映像で、物語を追いながら、岐阜県の観光地や名所を紹介する映像です。
上映の際には、僕も上海へ駆けつける予定です。みなさまも、ぜひ上海万博へ足を運んでください(笑)。

立石 株式会社アプレでは、「俳優ワークショップ」を毎月開催しています。俳優活動をしていないかたでも参加は可能ですので、ぜひ、多くのかたにご参加いただけると嬉しいです。

― 最後に、『+1 vol.3』をご覧になるお客さまへ、メッセージをお願いします。

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立石 『+1』に出演しているのは、いわゆる無名の俳優です。映画をご覧になる一般のお客さまの多くは、「無名の俳優が出演している短編映画を敢えて観よう」とは、なかなか考えないと思うんです。
でも、『+1』に携わってくださる監督のみなさまは、とても楽しんでやってくださっています。もちろん、俳優にとっては大きなチャンスなので、出演者のモチベーションは高いです。また、上映してくれる映画館も、『+1』のためにスケジュールをあけて待っていてくださいます。こうして、とてもおもしろい作品ができあがりました。
お客さまは余暇の時間を割いて、映画館へ足を運んでくださるわけで、どの作品を観るか決定するのは、本当に貴重な選択です。そうして『+1』を観てくださったかたの中から、「こういう、おもしろい作品があるのだ」と思ってくださるかたが増えて、この作品の魅力がじわじわと広がっていけばよいな、と願っています。そうすれば、(ワークショップと『+1』を)今後も続けていくことのできる可能性につながると思っています。

★株式会社アプレ主催「俳優ワークショップ」★
株式会社アプレでは、毎月、日本映画界のトップランナーとして活躍する映画監督をお招きしての、「俳優ワークショップ」が開催されています。
詳細・申込方法は、下記、株式会社アプレの公式サイト内の「ワークショップ」をご参照ください。
株式会社アプレ

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▼山川直人(やまかわ なおと)監督
プロフィール

1957年4月10日生まれ。愛知県出身。早稲田大学入学と同時に、自主映画制作をスタート。自主映画として作られた16ミリ長編『アナザ・サイド』(1980)、村上春樹の原作をもとにした16ミリ短編『パン屋襲撃』(1982)、『100%の女の子』(1983)は、海外の映画祭などでも上映され、高い評価を受けた。『ビリィ・ザ・キッドの新しい夜明け』(1986)で劇場用映画デビュー。代表作は、『SO WHAT』(1988)、『バカヤロー!3 ヘンな奴ら』(1990)、『時の香り ~リメンバー・ミー~』(2000)など。2010年7月3日から公開の監督たちのワークショップ『+1 vol.3』に、『驚かさないでよ!』にて参加。近年は、大学での講師なども務めている。
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★『+1 vol.3』/『驚かさないでよ!』の山川直人監督よりメッセージ★

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『驚かさないでよ!』
山川直人監督
▼『+1(プラスワン) vol.3』作品・公開情報
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2010年/日本/100分
プロデューサー:立石義隆
宣伝美術:ル・グラン・オーガズモ
製作・配給・宣伝:株式会社アプレ
コピーライト:(C)2010 plus1.
『+1 vol.3』公式サイト
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『驚かさないでよ!』
監督:山川直人
脚本:村瀬綾嶺
出演:長野賢 佐伯恵 津川苑葉 沼倉正幸 他
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『今夜のメニュー』
監督:冨樫森
脚本:窪田信介
出演:中澤聖子 笹木重人 伊藤久美子
竹内智大 和田光沙
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『下校するにはまだ早い』
監督:篠原哲雄
脚本:日比野ひとし
出演:安藤聡海 藤本浩二
齋藤嵩瑠 高森ゆり子 他
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『鶴園家のめまい』
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
出演:北山ひろし 山田ゆり
北風寿則 山下ケイジ 他
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※2010年7月3日(土)より、ユーロスペース(東京)にてレイトショー。
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★舞台挨拶決定!★
●7月3日(土) 山川直人監督 冨樫森監督 他
●7月4日(日) 熊切和嘉監督 他
●7月5日(月) 篠原哲雄監督 他
※いずれも上映後の舞台挨拶です。
出演者のみなさまも多数登壇予定。
詳細は公式サイトをご参照ください。
※当サイトでは、3日間すべての舞台挨拶を
取材します!
近日、リポートを掲載致しますので、お楽しみに!
+1yamakawa
『今夜のメニュー』
冨樫森監督
+1togashi
『下校するにはまだ早い』
篠原哲雄監督
+1shinohara
『鶴園家のめまい』
熊切和嘉監督
+1kumakiri

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『+1 vol.3』の3日連続で開催された舞台挨拶を一挙リポート!

取材・編集・文:香ん乃 取材:南野こずえ
スチール撮影:細見里香 動画撮影:道川昭如
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  • 2010年07月03日更新

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