『ホテルチェルシー』 ヒロ・マスダさん インタビュー

  • 2010年05月08日更新

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新婚旅行でニューヨークを訪れた、日本人の若い夫婦を襲う惨劇 ― 海外クルーによる全編ニューヨーク・ロケで撮影された心理サスペンス『ホテルチェルシー』が、2010年5月8日より、渋谷シアターTSUTAYA(東京)にて公開されます。

逸話の多い、有名なチェルシーホテルを舞台にしたこの作品は、2009年のマートルビーチ国際映画祭で最優秀外国語映画賞を受賞し、更に、主演の長澤奈央さんは主演女優賞に輝きました。

本作の日本での公開を記念して、企画・プロデューサー・脚本・出演を務めたヒロ・マスダさんに、たっぷりとお話を伺ってまいりました!

― 2008年の9月に本作の構想を始めたそうですが、本作を撮ったきっかけと、チェルシーホテルを舞台にした理由は?

ヒロ・マスダさん(以下、マスダ) もともとこの脚本があったというわけではなかったんです。予算や、限られた撮影期間等の状況を考慮した上で、観てくださるお客さまに喜んでいただける作品はなにか、と考えたときに、移動をあまりしないでロケがおこなえて、ニューヨークの魅力が出る映画にしたい、と思って、脚本を書き始めました。
と言いますのも、予算の関係があって、ニューヨークでの実質的な撮影期間は8日間だったんです。たとえば、この日数で起承転結のある長編の感動作を撮ろうとしたら、非常に浅い作品になってしまいます。また、予算や撮影日数が少ないのは作り手の問題ですから、お金を払って観てくださるお客さまに、そういった都合をあからさまに出すわけにはいきません。(状況的な問題は)努力で解決して、質で還元しなくてはならないと思います。では、8日間でなにが撮れるのか、と考えたときに、密室殺人のサスペンスなら、主に室内にとどまって移動も少なく撮影ができますし、話の展開もうまく作れるだろう、ということになりました。
密室での殺人劇なら、日本のスタジオで撮っても変わらないのですが、「ニューヨークで撮ることの意味」を考えたときに、有名なチェルシーホテルで撮影した作品なら、日本と海外、両方のマーケットで魅力的に映るだろう、と考えたんです。

― 企画・プロデューサー・脚本・出演を務めていますが、ご自身でメガフォンを執らなかった理由は?

マスダ 出演したのは、おまけのようなものなんですよ(笑)。もちろん、自分で監督をしたいという気持ちもありましたが、プロデューサーにかかる仕事の割合が多かったのと、マーケティングを考えて、監督は海外のかたにお願いしました。
本作を海外で売るにしろ、日本に持ってくるにしろ、「外国人の監督が手がけた、外国の作品」としたほうが売りやすくなります。また、日本人の出演者の立場から売るにしても、同じことが言えます。
プロデューサーとして、限られた予算と撮影日数でできる範囲内で、なにが一番お客さまにご提供できるかを考えて、本作を売るために外国人の監督を使うのも、ひとつの選択肢でした。

― チェルシーホテルで撮影をするにあたって、先方との交渉で苦労したことは?

マスダ ハリウッド映画の舞台になるような世界的に有名なホテルなので、撮影料も結構とるんですよ(苦笑)。最初に交渉したときの支配人は、「日本のインディーズ映画に使ってもらわなくてもよい」というような勢いでした。「映画のタイトルが『ホテルチェルシー』に決まっていて、日本でもいろいろと宣伝をするから」と言ったんですけど、胡散臭く思われてしまったようです(苦笑)。
撮影の2ヶ月前にニューヨークへ行って、交渉を続けようとしたら、支配人が別のかたに変わっていたので、ふりだしに戻りました。この支配人からは、初め、「撮影料は、1日で100万円」と言われました。
もちろん、そんな金額は出せないので、最悪の場合、チェルシーホテルの外観だけ撮影させてもらって、室内のシーンはスタジオで撮ろうかとも考えたんですけど、そうなると、ニューヨークでロケをする意味がなくなってしまいます。「チェルシーホテルの内部で撮影をする」という点は、どうしても譲れないところだったんです。
でも、この新しい支配人は、とても理解のあるかただったので、まず脚本を渡して読んでいただき、「ここで撮影ができなかったら、この映画が成り立たないので、お願いします」と、何回も出向いて頼みました。
私は日本のホテルやアメリカのレストランで働いていた経験があるので、宿泊産業や外食産業の、いわゆる「暇な時期」がわかるんです。撮影は2009年の1月におこなったのですが、新年の忙しい時期があけたばかりのホテルは暇なので、たとえば、宿泊客だけで100万円を稼ぐのは時期的に大変なんです。ですから、本来は5日間で500万円の撮影料が発生するところを、「どうか、このくらいで」というような交渉のしかたをしました。最終的には、交渉が成立して、支配人は全面的に協力してくれました。撮影期間8日間のうち、始めの3日は屋外でロケをして、後半の5日はチェルシーホテルの中で撮りました。
その支配人とは信頼関係が築けて、今も交流があります。ニューヨークに寄ったときには、部屋をとってくれたりしてくださるんですよ。

― チェルシーホテル以外の場所でのロケで、印象に残っているエピソードはありますか?

マスダ ニューヨークは映画の撮影に協力的で、市役所に映画局があって、そこが市内の撮影許可を出すんです。事前に登録をすれば、市が無料で警察官を手配して道をふさいでくれる、ということもしてくれるくらいで。
なので、とても映画が撮りやすい街なんですけど、中には、いいかげんな点もあって(苦笑)。今回、撮影許可をとった場所のひとつが、半分は私有地の公道だったんですね。いざそこで撮影を始めたら、私有地の警備員に、撮影を中止するように言われてしまいました。「許可はとってあるし、すぐに終わるから」と言ったんですけど、頑なに断られてしまって。結局、その撮影は一旦、中断して、近所で別の撮影をしてから、警備員がいないあいだに戻ってきて再開しました(苦笑)。

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― 主人公の田中エミ役を演じた長澤奈央さんについて、聴かせてください。

マスダ 撮影に入って最初に撮ったのが、屋外でのあるシーンだったのですが、1月のニューヨークはとても寒くて、その日の気温はマイナス15度でした。おまけに海沿いでの撮影だったので、長澤さんを始め、出演者は本当にかわいそうで。クルーは全員、雪山に行くような格好をしていたくらいの寒さだったんです。
特に長澤さんは、(ニューヨークに到着したばかりで)時差があって昼夜が逆になっているわけですから、本来なら体が機能しなくて普通なのに、「生きるか死ぬか」くらいに寒い中、胸元が露わになるような衣装で、屋外での撮影に臨んでくれました。でも、彼女は弱音を吐かないで、「寒い」とすら言いませんでした。人間的にも、作品に取りくむ姿勢も、素晴らしい女優さんです。「セットに来たら、いつでも準備ができている」というかたなので、プロデューサーとしては本当に助かりました。
また、どの映画の撮影現場もそうですが、監督とプロデューサーが対立して喧嘩のような状態になり、戦々恐々としているものです。でも、長澤さんが来ることで、場が和んでアットホームになり、撮影がスムーズに進みました。スタッフの誰とも友達になれるお人柄で、長澤さんを悪く言う人はいないと思います。

― 主演の長澤さんも、画家の高木トモ子役を演じた鈴木砂羽さんも、とても流暢な英語で台詞を言っていましたね。

マスダ おふたりとも、もともと英語がご堪能な役者さんというわけではなかったんです。
長澤さんは、本作への出演が決まったときから英会話を習って、練習をされたそうです。撮影の後半には、通訳を介さずにスタッフと意志の疎通ができるようになっていて、監督の指示も理解して受け答えができるようになっていたので、とても驚きました。
鈴木さんは、ちょうど日本の連続ドラマへの出演でお忙しいときに、2日間だけニューヨークへ撮影に来られました。そのドラマで方言を学んでいる最中だったということで、そこに本作の英語の台詞も憶えなくてはならなかったわけですから、とても大変だったと思うのですが、現場で台詞をちょっと変えても、すぐに対応してくださって、本当に素晴らしい女優さんでした。
長澤さんも鈴木さんも、とても気さくなかたで、また、作品に取りくむ姿勢が真面目でしっかりなさっています。日本のこのような女優さんや俳優さんの認知を、もっと海外に広めたい、と思いました。

― マスダさんご自身のお話になりますが、東京都のご出身で、2001年にニューヨークへ行かれて、演技の勉強をされました。もともとアメリカで俳優活動をしたい、と考えていたのですか?

マスダ 自分の作品をプロデュースしたい、という思いが初めにありました。ただ、日本の製作会社に入って、10~20年かかって、やっと自分の作品ができるかというと、その保証もありません。
人と違うことをしないと、世間には興味を持っていただけないと思います。なので、私自身が表に立って宣伝材料になることができれば、映画の制作と資金作りへの近道になるのでは、と考えました。そのためには、役者として表に出たほうが都合がよいので、「じゃあ、海外へ行こう」と思ったんです。海外で役者として成り立たなくても、たとえば英語ができる等のスキルが身につくので、日本に帰国してからの自分の人生のバックアップができるのではないか、とも考えていました。
ニューヨークへ行った当初は、ビジネスの学校に入って、マーケティングの勉強をしました。その後、「今しかできないことに挑戦してみよう」と思って、ニューヨーク市立大学マンハッタンコミュニティカレッジの舞台演劇科に編入しました。
ニューヨークには8年間いましたが、昨年2009年に引き払って、日本に帰ってきました。多くのかたがたに出会って、今回、『ホテルチェルシー』の企画もいただいて作ることができたので、ラッキーでした。今後も、海外で仕事の話があれば、もちろん行きたいとは思っていますが、基本的には、これからは日本を拠点にしたいと考えています。

― 今後、手がけてみたい作品は?

マスダ 現在、2本の脚本を書き終えているのですが、軽い予算で作りたくない映画なので、自分に自信がついて、周囲のかたがたに認めていただくことができたら、形にしたいと思っています。もちろん、今回の『ホテルチェルシー』のように、企画の依頼をいただいて脚本を書いてプロデュースをしたい、という気持ちもあります。
海外のかたがたと組んで仕事をするということも、続けたいと思っています。日本人が単に海外へ行って映画を作るのではなく、本当に海外風の映画を作りたい、という意味で。
と言いますのも、日本映画は海外に売りづらい部分があるからです。特にアメリカでの事情なのですが、あの国には、字幕を読みながら外国映画を観る、という文化が希薄です。字幕のつく外国映画をアメリカに持っていっても、インテリ傾向の強い映画マニアのかたにしか観ていただけない、ということになってしまいかねません。
また、日本人の作った海外風の映画なら、日本のお客さまにとっても新しい作品に映ると思うので、そういう意味でも、海外のかたがたとの仕事は、今後もやっていきたいと思っています。

― アメリカと日本の、映画業界やミニシアターのありかたの違いについて聴かせてください。

マスダ アメリカの映画産業は、インディーズとミニシアターがしっかりしているので、(映画制作を志す)若いかたが伸びていきます。映画を作っても、利益にならなくては意味がありませんが、マーケットもしっかりしているので、若いかたが挑戦できる場がありますし、成功してハリウッドに行かれるかたもいます。
(日本に限ったことではありませんが)そういった規模や場がどんどん縮小されていくと、よい映画が出てきません。それこそ、スタジオに入って10年待たなくては自分の映画が作れないのか、ということになってしまいます。インディーズとミニシアターが商業的に成り立つ環境でなければ、若い監督が夢を持って映画を作ることができなくなってしまいます。
(映画を商業的に成り立たせるために)多くのかたがたに映画館へ足を運んでいただきたい、と思っています。DVDではなく、映画館で映画をご覧になっていただきたい。「みなさまが映画館に来てくださるから、作り手は映画が作れるのです」ということを、映画を作る側が訴えて、お願いしていかなくてはなりません。
同時に、映画を作る側も、「予算が限られていて、製作者の都合があるから、この程度の作品でよいのだ」というスタンスでいるのではなくて、お客さまにとってなにが一番よいのかを考えて、それに見合う作品を提供する努力をしなくてはいけないと思います。
アメリカ人は、気軽にショップへ立ち寄るような感覚で映画を観るので、週末はどこの映画館も満員になるんです。一方、日本では、映画館へ行くということは一種のイベントなので、もっと気楽に映画館へ行ける環境になればよい、と思います。そのためには、日本の今の映画料金は、ちょっと高いかもしれませんね。

― 最後に、『ホテルチェルシー』の公開を待っているみなさまに、メッセージをお願い致します。

マスダ 単に海外で撮影をしたというだけではなくて、日本から発信していく海外映画であり、あたかも外国映画であるという、新しいことに挑戦した作品です。日本人キャストと海外キャストの共演、ニューヨークとチェルシーホテルの魅力、それらをぜひご覧になっていただきたいのと、脚本家としては、心理サスペンスを楽しんでいただきたいです。74分の本作を観終えたときに、「観てよかったな」と思っていただけたら、本当に嬉しいです。

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▼ヒロ・マスダさん プロフィール
東京都出身。2001年にニューヨークへ移り、ニューヨーク市立大学マンハッタンコミュニティーカレッジ舞台演劇科を卒業。アメリカ俳優組合(Screen Actors Guild)会員。
俳優活動と並行して、脚本の執筆も手がける。ニューヨークから帰国後、映画制作会社 Ichigo Ichie Films LLC を創設し、俳優・脚本家としての活動のほか、プロデューサーとしても活躍。
総合プロデュースした『ホテルチェルシー』は、2009年のマートルビーチ国際映画祭で最優秀外国語映画賞と主演女優賞を受賞。本作は、アカデミー賞公認ロードアイランド国際映画祭への正式出品が決定している。
Ichigo Ichie Films LLC: Hiro Masudaのブログ
Ichigo Ichie Films LLC 公式サイト
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↓DVD予約受付中!↓ ▼『ホテルチェルシー』作品情報
日本/2009年/74分
原題(英語):”HOTEL CHELSEA”
監督:ホルヘ・バルデス・イガ
脚本:ヒロ・マスダ
出演:長澤奈央 鈴木砂羽 アンソニー・ローレン ダニエル・ウィルキンソン ジャスティン・モーク
ヒロ・マスダ 他
音楽:the GazettE 「HEADACHE MAN」
製作:エースデュース Ichigo Ichie Films LLC テンダープロ
コピーライト:(C)Hotel Chelsea Film Partners 2009
『ホテルチェルシー』公式サイト(注:音が出ます)
※2010年7月10日、DVD販売及びレンタル開始。
ホテルチェルシー [DVD]

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『ホテルチェルシー』のヒロ・マスダさんと長澤奈央さんが、トーク・ショーで撮影秘話を!

取材・編集・文:香ん乃 スチール撮影:南野こずえ
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