『クロッシング』公開初日に、横田滋さん・早紀江さんご夫妻が来場しました。

  • 2010年04月23日更新

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北朝鮮に暮らすひと組の親子が、命と未来を賭けて脱北を試みるドラマ映画『クロッシング』が、2010年4月17日に公開初日を迎え、横田滋さん・早紀江さんご夫妻、朝日放送プロデューサーの石高健次さんが、ユーロスペース(東京)に来場してトーク・ショーをおこないました。

↑の写真は、左から、滋さん、早紀江さんです。

既に『クロッシング』をご覧になった横田さんご夫妻は、北朝鮮に拉致されたお嬢さま・めぐみさんへの思いをまじえて、北朝鮮の人権問題について語りました。

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 ドキュメンタリー番組の制作をしている石高さんは、1995年に、メディアとして初めて、北朝鮮による拉致があると実証しました。それから2年後、横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されて平壌で生きているとつきとめたのも石高さんで、その報道をする10日ほど前に、石高さん自ら、横田さんご夫妻の家を訪ねて、事実を告げたそうです。横田さんと石高さんは、それ以来のおつきあいで、あれから、約13年が経ちました。

「『クロッシング』の公開前に、本作のDVDを横田さんご夫妻にお送りして、おふたりに観ていただきました」(石高さん)

石高健次(以下、石高) 私は脱北してきた北朝鮮帰国者の日本人妻のかたを取材して、北朝鮮での暮らしについて訊ねました。この女性のご主人は、薬がないために結核で亡くなりました。次女は生きるために密売をして(逮捕されて)刑務所で亡くなり、三女は嫁ぎ先の窓にもたれたまま椅子の上で餓死したそうです。
つい先日、横田さんご夫妻に、この女性に会っていただきました。北朝鮮という国について、別のサイドからも横田さんご夫妻に知っていただきたいと思ったんです。また、『クロッシング』の公開前に、本作のDVDを横田さんご夫妻にお送りして、観ていただきました。

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石高さんが取材した、脱北した日本人妻の女性が話した経験は、『クロッシング』で描かれた内容と通じる部分がたくさんあります。また、滋さんは、『クロッシング』のチラシにメッセージを寄稿してもいます。本作をご覧になって、滋さんと早紀江さんは、どのようなご感想をいだかれたのでしょうか。

「国際的に支援することで、脱北したかたがたを救わなければ、根本的には解決しません」(滋さん)

横田滋(以下、滋) (本作で描かれている内容は)「かわいそう」というだけでは済まない問題だと感じました。
アメリカの国務省等が発表した人権問題の報告によりますと、北朝鮮から脱北したかたがたは、中国に数万人から数十万人いらっしゃって、韓国、モンゴル、タイ、ラオスなど、アジアにも多くいらっしゃいます。
しかし、実際には、(北朝鮮に発見されたら)連れ戻されてしまうことにもなりかねないので、(脱北したかたがたは)きちんとした職業にもつけないまま、苦労して、ひっそりと暮らしています。
こういったことは、個人の力で解決するのは難しいので、(たとえば)国連の力で保護するなど、費用はかかるかとは思いますが、国際的に支援することで、脱北したかたがたを救わなければ、根本的には解決しません。
また、日本にも多くの脱北者のかたがいらっしゃると聴いております。そういったかたがたの中で、日本人妻のかたや、元々日本国籍をお持ちのかた、その子孫のかたがたは、入国を受け入れられていますが、それ以外のかたがたは、原則として、受け入れられていません。
(脱北して)日本で暮らしたいというかたがいらっしゃるのなら、日本での受け入れ枠も広がらないだろうか、と(『クロッシング』を観て、チラシに寄稿するメッセージを)書いたときに思いました。

『クロッシング』公開初日のこの日、中井洽さん(国家公安委員会委員長 内閣府特命担当大臣 拉致問題担当)も、ユーロスペースに来場していました。

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「周囲のかたに、『クロッシング』をぜひ薦めていただいて、世論を高めていただければありがたいです」(滋さん)

 中井大臣と拉致問題担当省が、今年の2月に国会でひらかれた拉致問題関係改善政策会議で、脱北したかたがたの日本への受け入れ枠を検討したいと話されました。これは正論ですが、だからといって、日本の世論は、「では、(脱北者を)受け入れましょう」とは、とても、できないと思います。
なので、中井大臣が話されたことを世論であと押しすることによって、脱北者を無制限に受け入れるとまではいかないにしろ、(受け入れ枠を)拡大することで、そういったかたがたを少しでも助けることができるようになればよい、と思います。私たち国民の意見が強くなれば、充分可能だと考えますので、みなさま、どうぞ(この問題と支援について)あと押しをしてくださるよう、お願い致します。
(立ち見が出るほど満員の会場を見渡して)『クロッシング』公開初日にいらしてくださったということは、今、ここにいらっしゃるみなさまは、北朝鮮の人権問題に非常に関心の高いかたがただと思います。こうして自主的に駆けつけてくださったみなさまには、「『クロッシング』を観てよかった」、「『クロッシング』を観にいってみませんか」など、(周囲のかたがたに)ぜひ薦めていただいて、世論を高めていただければありがたい、と思っています。

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「(人権を侵害されているかたがたが)少しでも自由を得て人生を終えることができるように、と思っております」(早紀江さん)

横田早紀江(以下、早紀江) 私共家族も、(娘が北朝鮮に拉致されたことで)悲しくて無残な、考えられないような人生になってしまいました。
北朝鮮の国民のみなさまが、悲惨な日々を送っておられることを思いますと、私共はまだ、食べる物も着る物もあり、自由にものが言える国に住んでいます。自ら健康を管理すれば、自分なりの意見を言って、はっきりと人生を送っていくことができます。
でも、北朝鮮では、(一部の人々がおこなっている)弾圧のせいで、なんの罪もないかたがたが、ものすごく人間以下の生活をさせられていらっしゃる、と学ばせていただいておりますし、現実でもあると思います。
私共夫婦は、普通に子供を産んで、元気で健康に、「小さなことでもよいから、世間のお役に立つような人間になってくれればよい」と、一生懸命育ててきたのですが、本当、考えられないような力で、北朝鮮に(めぐみさんが)連れていかれて、一部の冷酷な人々の指導のもと、まったく違った生きかたをさせられることになりました。
それが拉致被害者でありますし、また、生まれたときから北朝鮮にいて、もがき苦しんでいるかたがたも、たくさんいらっしゃいます。人間というものの尊厳を、なんとかして、「普通の」人間らしい、「普通の」生活に、なっていただかなければなりません。それが、人間の当然の姿なんです。

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早紀江 私共はいつも、そのように思っていますので、元気で自由を得ている者が結集して、団結して、心から本気になって、命の大切さを考えて世間に訴えていくことで、(人権を侵害されて苦しんでいる)たくさんのかたがたを自由にしてあげなくてはならないのだ、というところに、いきついてまいりました。
(日本の)外務省も、警察も、政治家も、私共も、ひとつになって、「これだけは世界に訴えて頑張ろう」と、みんなで助けあっていきたい。(人権を侵害されているかたがたが)少しでも自由を得て人生を終えることができるように、という思いでおります。みなさまにも、お力をいただきたく思います。

滋さんと早紀江さんのお話に、会場は拍手で包まれました。舞台でのトーク・ショー後、質疑応答形式による、横田さんご夫妻の囲み取材がおこなわれました。

― 脱北者で日本国籍がないかたがたの受け入れを検討する(日本での)問題がありますが、滋さんは、これらは拉致問題解決の上でも大切だとお考えですか?

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 拉致問題と直接は結びつかないかとは思いますが、北朝鮮にはさまざまな人権問題がありますので、そういったことを少しでも助けるためにも、人道的な問題として、(日本でも脱北者を受け入れる)枠を拡大することによって、(脱北者のかたがたを)少しでも苦しみから救えればよい、と思います。
『クロッシング』は、(北朝鮮の人権問題に)もともと関心をお持ちのかたにご覧いただくのも大切ですが、(それだけではなく、日本での公開を機に)たくさんのかたに本作をご覧になっていただいて、北朝鮮での人権問題を考えるきっかけにしていただれば、ありがたいです。

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― 早紀江さんは、北朝鮮に暮らす一般のかたがたを、いつもとても思いやっていらっしゃいますが、本作を観て心に残った部分は?

早紀江 一番悲しかったのは、主人公のひとりの(シン・ヨンチョルが演じたキム・ジュニという)少年が……、(劇中では)拉致された当時のめぐみの年齢より、もっと小さな子供が、せっかくこの世に生まれてきたのに、たった独りで寂しくつらい思いを抱えている姿が……。
(この劇中の少年のような普通の)人間に、このような悪い状況を作っている人がいる、ということが問題です。そういった人間が、拉致や、悲惨な強制収容所や、離散されざるをえない家族の状況を引き起こしています。
すべてが、ひとつの「悪」の力が加わったことでおこなわれています。(『クロッシング』のジュニという)少年を見たときに思って、悲しくなり、「(こういった事実の)全部を見なくてはいけない」と思いました。
『クロッシング』は、子供を思う親の心なども、非常に純粋に、単純に表れている、素晴らしい作品だと思います。また、北朝鮮の悲惨な状態も、わかりやすく描かれています。
ぜひ、いろいろな学校などで上映して、(たくさんのかたがたに)観ていただきたい、と思っています。

― 滋さんは、本作を観て、どのようなシーンが印象に残りましたか?

 本作の親子は、家族の愛がありました。家族の一員それぞれが、家族のことを思って、最もよい方法をとろうと思って行動していました。
そういった(努力と)悲劇は、実際にたくさんある中の、一例だと思いました。それが最も、気の毒に思いました。

『クロッシング』を観て、フィクションのドラマ映画として、構成的・技術的、そして、物語的に、瞠目できる素晴らしい作品だと筆者は感じました。本作を観て感銘を受けた人間が(筆者自身を含めて)、人権についても改めて認識を深めて考えるきっかけになれるのなら、『クロッシング』が創られた意味は、また別の形で意義のあるものとなるだろう、と横田さんご夫妻と石高さんのお話を拝読して、筆者は痛感致しました。

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▼『クロッシング』作品・公開情報
2008年/韓国/107分
監督:キム・テギュン
脚本:イ・ユジン
出演:チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ、チュ・ダヨン
提供:「クロッシング」パートナーズ
配給:太秦
コピーライト:(C)2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.
『クロッシング』公式サイト (注:音が出ます)
※2010年4月17日より、ユーロスペース(東京)、シネマスコーレ(愛知)にて、5月1日より、銀座シネパトス(東京)、千葉劇場(千葉)、シネマート心斎橋(大阪)他にて、全国順次ロードショー。

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取材・文:香ん乃 スチール撮影:南野こずえ
改行

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