【インタビュー】『となりの宇宙人』主演・宇野祥平さん― 役づくりは「わからないところから始める」

  • 2025年07月03日更新


アパートの庭に不時着した宇宙船の中から出てきたのは、“正体不明の全裸の男”だった――!? SF界の巨人・半村良の異色短編小説を、いまおかしんじの脚本で映画化した、ちょっぴり不思議で官能的な“SF人情喜劇”『となりの宇宙人』が東京の新宿武蔵野館ほかで絶賛公開中だ。監督は、ピンク映画を中心にキャリアを積み本作が一般商業作品デビューとなる小関裕次郎。そんな小関監督の熱いオファーを受け、主人公の宇宙人「宙さん」を演じたのは名優・宇野祥平。宙さんを故郷の星に帰すために奔走するアパートの住人たちに、前田旺志郎、吉村優花、猪塚健太、三上寛、和田光沙、安藤ヒロキオら個性と魅力あふれるキャストが集結した。愛おしくもユニークな宇宙人を独特の存在感で好演した宇野さんに、本作への思いを聞いた。

(取材:富田旻)


“役づくり”って、よくわかっていない

― 最初に脚本を読まれたときの印象を教えてください。

宇野祥平さん(以下、宇野):半村良さんの原作を忠実に描きながら、しっかり“いまおか脚本” になっていて、すごく面白いと思いました。

― 宇野さんが演じられた宇宙人の「宙さん」はどこか可愛らしくて、そのユニークで愛すべきキャラクターに魅了されました。宇野さんご自身は「宙さん」という役に対してはどういう印象を持たれましたか? 

宇野:宙さんは一言でいうと謎の人物です。謎という醍醐味を味わいながら演じたいと思いました。

― 本作に限らず、いつもどのような役づくりをされるのですか?

宇野: “役づくり”って、よくわかっていないんですよ。まずは脚本があって、監督、共演者、衣装、メイク、小道具、美術はじめさまざまな部署の方々からヒントをもらいながら、みんなでつくっていく楽しさがあります。

出会いと別れを描く“いまおか脚本” の魅力

― 原作小説の初版は、宇野さんのお生まれになった年と同じ1978年ですが、現代に舞台を移しながらもどこか懐かしい人情と、宇宙人という非日常の組み合わせがとても魅力的な作品だと思いました。宇野さんご自身も本作について「時代に取り残されたような、どうしようもない人たちを温かい視点で見守ってくれている作品」とコメントされていますが、“SF人情喜劇” という本作のジャンルの魅力は、どういった点で感じられましたか。

宇野:質問の答えにはなっていないかもしれないですが、僕が思ういまおかさんの脚本の魅力は、人生の出会いと別れをずっと描き続けていて、なお且つ、そこを明るく描かれているところだと思うんです。今作でも「さよならだけが人生だ」というセリフがありましたが、僕が出演させていただいた『銀平町シネマブルース』(23/城定秀夫監督)や『化け猫あんずちゃん』(24/山下敦弘監督/声の出演)でもそういう瞬間に立ちあえました。今作も自分とかけ離れた話のようでいて、人と出会って別れてという営みは、実人生に近いのかなと思います。素晴らしい脚本です。

― 個性的で魅力あふれるキャストが集結しているところも本作の大きな見どころですね。皆さんとの共演や現場の雰囲気などはいかがでしたか。

宇野:小関組の現場は短い撮影期間ではありましたが、ゆっくりほのぼのした時間が流れていて、それは小関監督はじめスタッフの皆さん、前田旺志郎くんはじめ共演者の皆さん一人ひとりの人柄がとても大きかったです。皆さんのお陰で『となりの宇宙人』の世界が形づくられていったように思います。誰が主役でもなく、みんなが主役の映画だと思っています。

―田所役の前田旺志郎さんとの初共演はいかがでしたか。劇中では田所と宙さんは家族のような絆を深めていきますが。

宇野:前田くんは随分年下ですが、純粋且つ真摯な姿勢に教えてもらうことが、とても多かったです。さり気ない気遣いに何度も助けられました。宙さんはずっと昔から地球を監視していた設定なので、前田くんを昔から映画やテレビで見ていたということが(演じる上で)すごく役立ちました。

小関監督が “特別” なのは、人間のダメな部分をちゃんと愛せる人だから

― 劇中さながらの温かい雰囲気が現場に流れていたんですね。

宇野:はい。そこは監督の存在が大きかったと思います。子どものように楽しそうで、終わる頃にはとても寂しそうで、今にも泣きそうに、いや、泣いていたと思います(笑)。監督は答えに向かうのではなく、むしろそこに向かわないように、答えがないということを大切にされている方で、演出を受けていてとても面白かったです。小関監督が特別なのは人間のダメな部分をちゃんと愛せる人だからだと思います。

― 小関監督は、これまでピンク映画を中心にキャリアを重ねてこられ、本作が記念すべき一般商業作品デビューとなりますね。本作は、制作プロダクション“レオーネ”が設立20 周年を記念して、助監督として頑張ってきた方を監督デビューさせる企画レーベル「LEONE for DREAMS」の1本として制作されましたが、この企画についてはどう思われますか。

宇野:プロデューサーの久保和明さん、秋山智則さんの素晴らしい挑戦だと思いました。

― 先ほど宇野さんは「役づくりというものがわからない」とおっしゃっていましたが、これから演じてみたい役などはありますか。

宇野:自分では思いつかないのですが、いただいた役で、自分にはこういったイメージがあるのかと。全然自分とは違うのに、なぜか、自分自身が忘れていた気持ちや感情に、出会うことがあります。

俳優は答えがない仕事。わからないから面白い

― 宙さんを演じられて、ご自身の中にある何かに気づいたり、思い出したりはされましたか。

宇野:いろいろな出会いと別れを思い出しました。ひとつは、大阪に住んでいたのに、なぜか5歳の時に何ヶ月間、京都で母と暮らしていたことがあります。同じ家に間借りしていたドイツ人の女性としばらく暮らしていたのですが、保育園に迎えに来てくれたことや鴨川沿いの公園で一緒に逆上がりの練習をしたこと、椎の実を拾ってきてフライパンで焼いて食べたこと、保育園を卒園して大阪に戻る時に東福寺の駅でお別れしたことなど、断片的ですが思い出すことができました。彼女が何者なのかはいまだにわかりませんが(笑)。

― 最後に、宇野さんが俳優というお仕事のどんなところに魅力を感じているのかを教えてください。

宇野:答えがない仕事だからですかね。毎回どんな役でも難しいです。わからないというところから始めるしかありませんし、わからないから面白いんだと思います。

― これからもスクリーンでいろいろな顔の宇野さんにお会いできることを楽しみにしております!


【プロフィール】宇野祥平(うの・しょうへい)
1978年生まれ、大阪府出身。2000年に俳優デビューし、映画やドラマを中心に数多くの作品に出演。『罪の声』(土井裕泰監督)、『本気のしるし 劇場版』(深田晃司監督)などの演技で第94回キネマ旬報ベスト・テンをはじめ、複数の助演男優賞を受賞するなどその存在感と演技は高い評価を受けている。近年の主な映画出演作に、『正欲』(23/岸善幸監督)、『市子』(23/戸田彬弘監督)、『ラストマイル』(24/塚原あゆ子監督)、『正体』(24/藤井道人監督)、『雪の花 -ともに在りて-』(25/小泉堯史監督)、『Broken Rage』(25/北野武監督)など。公開待機作に、『THE オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ MOVIE』)(25/オダギリジョー監督)、『平場の月』(25/土井裕泰監督)等がある。またドラマ「こんばんは、朝山家です。」(7/6より、テレビ朝日系)にも出演。

作 品 概 要


▼『となりの宇宙人』
【STORY】夜ごと隣の愛の囁きが響き渡る下町のとあるボロアパートの庭に、ある夜突然正体不明の物体が現れた。中から出てきたのは⾃ら“宇宙⼈”を名乗る全裸の男。宇宙船の故障で不時着したのだという。アパートに暮らす⽥所ら住⼈は、⾏くあてもなく傷ついたその男を“宙さん”と名付け、⽥所の部屋に居候させることに。「星に帰りたい」という宙さんの願いを何とか叶えようと奔⾛する住⼈たち。果たして宙さんは無事“故郷”へ帰ることができるのか……。

出演:宇野祥平、前田旺志郎、吉村優花、猪塚健太
三上寛、和田光沙、安藤ヒロキオ、ほたる、山本宗介、麻木貴仁
北村優衣、森羅万象、いまおかしんじ
原作:半村良「となりの宇宙人」 (『となりの宇宙人』所収/河出文庫刊)
脚本:いまおかしんじ
監督:小関裕次郎
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
©クロックワークス・レオーネ

⚫︎公式サイト

※新宿武蔵野館ほかで絶賛公開中! 以降、全国順次公開

 

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