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【イベントレポート】片岡礼子の名演の裏側、宇野祥平のアドリブ連発秘話……名シーンの裏話が続々!『一月の声に歓びを刻め』トークショー
- 2024年03月05日更新
テアトル新宿ほか全国公開中の『一月の声に歓びを刻め』トークショー付き上映が、2024年2月28日(水)に東京のユーロスペースで行われ、本作の第一章「洞爺湖 中島」で夫婦役を演じた片岡礼子さん、宇野祥平さん、三島有紀子監督、プロデューサーの山嵜晋平さんが登壇した。温かな拍手と笑顔に迎えられた四人は、作品への愛と歓び、そして観客への感謝を高らかに声に刻みながら撮影の舞台裏を語った。
(取材・トークショーMC:富田旻)
映画の余韻が冷めやらぬなか、上映後のトークショーに登場した四人。数日前から座席の予約状況をネットで確認していたという片岡さんは、「たくさんの方に来ていただけて嬉しいです! 前列に座席を移動しても構わないので、今日は皆さんでざっくばらんに語りましょう!」と歓びを爆発させ、宇野さんも「お忙しいなか、ありがとうございます」と感激を滲ませた。
三島監督は「プロデューサーの山嵜さんと二人で始めた自主映画を、皆さんが観てくださって本当に嬉しいです」と笑顔で語り、山嵜プロデューサーも「普段はあまり壇上には立たないですが、三島さんが言ったように二人で始めた作品なので、せっかくだからちょっと出ておけばと言われ、いま立っております」と感慨深げに挨拶した。
撮影前の本読みと、現場に立って初めて生まれた感情
性暴力事件の被害者となり、幼くして命を絶ったれいこの姉・美砂子を演じた片岡さん。父親のマキ(カルーセル麻紀)へ向けた複雑な思いや、夫や娘との微妙な関係性、そして劇中では描かれない時間の蓄積までも感じさせる演技はどのように生まれたのか?
役づくりと撮影現場の様子を聞かれた片岡さんは、「撮影前に、洞爺湖編の出演者が集まって本読みをする時間を監督が作ってくださいました。大切なテーマを扱う作品なので、現場に行って『はい、どうぞ』でできるものではないのを全員が理解していたんですね。鳥肌が立つほどの怒りや、置いていかれて目の前が真っ暗になった瞬間の感情など、本読みを通して感じることができました。でも、現場に立って初めて生まれる感情もたくさんあって。マキさんに対して『あ、私の年齢はカウントしてないんだ』と思ったり、れいこが亡くなってからの年数を『いま、即答したよね』って思ったり、言葉を投げかけられて返せなくなったり……。うまく噛み合わないような時も、監督が気づいて止めてくださって、スタッフも全員待ってくれました」と振り返った。
食事のシーンから始まったという撮影について宇野さんは、「おせちがすごくキレイでおいしそうで、早く食べたくて……」と述懐すると、三島監督は「映画『タンポポ』(伊丹十三監督/85)も担当された、フードスタイリストの石森いづみさんにお願いしました。撮影場所も石森さんのお宅です。マキさんのキャラクターを表す食事として、丁寧におせちを作ってくださいました」と石森さんへの感謝も込め、撮影の裏側を語った。
初めての夫婦役。宇野さんの“映画愛” と“片岡礼子愛” があらわに
この日、久しぶりに客席から本作を観たという片岡さんと宇野さん。片岡さんが「試写の時は楽しみすぎるのと緊張で、なかなか全ての情報が入ってこないけど、今日は、美砂子の言葉やちょっとしたことに、自分が今まで生きてきた時間を重ねながら観ました」と語ると、宇野さんも「何かを失くした人たちが出てくる映画。歳をとっていくと、増えるものより失くすものが多くなるなとか、自分のこともいろいろ考えたり思い出したりしながら観ました」と共感。そしてここから、トークは宇野さんの “映画愛” と“片岡礼子愛” の話へ……。
宇野「今日は幼い美砂子さんがピアノの前に座っている写真が出てくるシーンを観ながら、片岡さんとピアノって『鬼火』(望月六郎監督/1997)だ! と思って」
片岡「そこから繋がるの(笑)?」
宇野「映画を観ながら、自分の記憶を磨いているというか、不思議な感じ。僕は大阪出身で、昔カルーセルさんが関西の番組によく出ていたなとか、堂島のシーンでは『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』(三島有紀子監督/22)の佐藤浩市さんを思い出したり……」
意外にも初めての夫婦役を演じたという二人。その感想について片岡さんは「いろんな映画で名前を連ねることはあったし、素敵な役者さんだとずっと思っていたけど、同じシーンの共演はなかったんです。だから『来た!』という感じでした。しかも難アリな関係(笑)。だけど、どういう夫婦なのか、宇野さんとたくさん会話できたので、スッと役に入れました」とリスペクトを込めてコメント。
それを受けた宇野さんは、「僕は大阪に住んでいる10代の頃から片岡さんの作品を観ていて、片岡さんの年月を知っているんですよ。『鬼火』もだし、『二十才の微熱』(橋口亮輔監督/93)、高橋伴明監督の『愛の新世界』(94)、『チンピラ』(青山真治監督/96)。『ハッシュ! 』(橋口亮輔監督/01) の前にもたくさん。なので、片岡さんと夫婦というのは、なんかすごく……」と言葉を詰まらせ、感激をあらわにした。
電話のシーンは、宇野さんのアドリブが炸裂!
美砂子の夫が外で愛人と思しき女性と電話するシーンのセリフは、実は宇野さんのアドリブであることが三島監督から明かされると、客席からも「おおー」っというどよめきが起こった。
三島監督「脚本にもあんないっぱいセリフは書いていないんです。中学生の娘としたカヌーの話を、そのまま使って(電話相手の)萌ちゃんに話すんですよね。若い女子が喜ぶことをわざわざ言うところに、宇野さんすごいなって」
片岡「リアルでしたよね。娘が『お父さん、カヌー行こう』って言った時は返事もしてないくせに(笑)!」
山嵜P「マキさんに女性と電話しているのが見つかって『猿の親子が……』とごまかすシーンのセリフ、“鹿パターン”もありましたよね」
宇野「“北の国からパターン”も……」
三島監督「パンが長いカットでタイミングが難しくて何回かやらせていただいたら、毎回違うアドリブでやってくださって。全部、特典映像で観せたいくらいです(笑)!」
和気藹々の裏話トークに客席からも笑い声が溢れ、会場がさらに和やかな雰囲気に包まれた。
みんなが大好きになった、カルーセル麻紀さんの魅力
本作で渾身の演技をみせたカルーセル麻紀さんの印象に話題が移ると、宇野さんが「本当に優しい方。すごく元気で、一緒にお酒も飲みました」と明かし、片岡さんからは「映画が決まる半年前に、所属事務所の社長に『この業界にいて会いたい人はいますか?』と聞いたら、『カルーセル麻紀さん』って答えられて。作家の桜木紫乃さんがカルーセルさんモデルに書いた『緋の河』という小説を薦めらたので読んだんです。それで感激して、社長に『カルーセル麻紀さんを社長に会わせられるように頑張ります!』と言っていたら、この作品のお話をいただいて」と不思議な縁を感じるエピソードを披露。さらに、「すごく仲良くなりました。魅力的な方で大好きです!」とその人柄を絶賛。三島監督も「私も大好きです」とそれぞれがカルーセルさんへの熱い思いを語った。
するどい質問が寄せられた、観客からの質問コーナー
トークショーもいよいよ終盤。ここからは観客からのご質問に答えることに。
三島監督「映画の核になるものを見ていくために、自分の中を掘り下げる作業をしました。私自身が三島有紀子にインタビューしながら、『この時どう思いましたか』『一番嫌だったことは何ですか』『その時どんな匂いがしましたか』などと冷静に聞いて、それを書き留めるという時間の中で、感覚的になかなか乗り越えられないことがありまして……それは“音” でした。あの時に聞こえていた“音” を思い出すと、どうしても恐怖がよみがえり、それ以上いけないということがありました。だから音を作るダビング作業が一番辛かったですが、監督としては当然、街で聞こえている音をそのまま使いたいんですね。でも、個人の三島有紀子としてはそれを聞くのが苦しい。そんなせめぎ合いがありましたが、やはり、その街で鳴っている音を丁寧に積み上げていってほしいと音チームにお願いしました」
三島監督「自分の事件としては、いろんな複雑な感情が生まれますけれども、映画監督として見た時には『人間ってこういう感情が生まれよね。こういう時に人を憎んでしまうよね。こういう時に傷が疼くよね』みたいにとても客観的に考えていたので、私が個人的に誰を憎むとか、そういうこととは完全に切り離して考えていました」
山嵜P「親子の間でそういった会話がなかったのか、ということですよね。これは、親子の距離感を表現するために、物語としてそういう設定にしました」
三島監督「10年前に、海の一言から母親の延命治療をやめることが決まり、それがこの父と娘がギクシャクしはじめたきっかけだったんですね。それで、5年前に海が東京出て行って、そこからはほぼ連絡を取っていないんです。そんな娘が突然に帰ってきたという設定を、どう観てくださる方に理解してもらおうとなった時に、妊娠しているっていうことすら父親に話していない、という設定になったんです」
「なんかよくわからない使命感を、みんなが持っていた」
盛り上がったトークショーも残念ながら終わりの時間に。最後に一人づつ感謝の言葉が述べられた。
三島監督「今日は楽しい時間を、ありがとうございます。今作は自主映画で、脚本の1ページ目に、なぜこの映画を作りたいかを書かせていただきましたが、何も決まってない、お金も集まってない状態で、皆さんが映画への参加を引き受けてくださいました。これは、片岡さんの言葉なんですけど『なんかよくわからない使命感を、みんなが持っていたよね』って。私はもがいてのたうち回っていただけですが、キャストもスタッフもこの映画のために何ができるのかを考えてくれ、皆さんが映画にしてくれました。観客の皆さんの心にも、何かが届いていたら嬉しいです」
片岡「皆さんからいろんなお話を聞きたかったんです。もし何か言い足りない方は、事務所に手紙でもください! それぐらい聞きたかったんです。映画がスタートする前は、どんなふうに公開するか、どんな人たちが観に来てくれるか、監督は不安だったと思います。でも、いま映画の公式サイトに掲載されているたくさんのコメントを読むと、いろんな角度から、いろんな方の心のひだが見えてきて、一つの読み物として私はとても感動しています。皆さんも、ぜひ読んでみてください! 今日は本当にありがとうございました!」
宇野「皆さん、花粉も飛んでいるなか、今日はありがとうございました。あの、もう、本当に……ありがとうございました!!」
それぞれが感謝を言葉にし、山嵜プロデューサーも客席に向かって一礼し、名残惜しさと幸福な空気を残しながらトークショーは終了した。
本作『一月の声に歓びを刻め』は全国で絶賛公開中だ。
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予告編・作品概要
美しく、凄惨な、罪の歌
▼『一月の声に歓びを刻め』
(2023年/日本/カラー・モノクロ/シネマスコープ/118分)
出演:前田敦子、カルーセル麻紀、哀川翔
坂東龍汰、片岡礼子、宇野祥平、原田龍二、松本妃代、とよた真帆 ほか
脚本・監督:三島有紀子
プロデューサー:山嵜晋平、三島有紀子
製作:ブーケガルニフィルム
配給:東京テアトル
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やがてそれぞれの声なき声が呼応し交錯していく。
※テアトル新宿ほか全国公開中
- 2024年03月05日更新
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