【インタビュー】『悪魔がはらわたでいけにえで私』― 恐怖が痛快で爆笑でハートウォーミング!? 宇賀那健一監督の “リーサルウェポン” がついに劇場公開!

  • 2024年02月19日更新

奇才・オブ・奇才、宇賀那健一監督が「僕のリーサルウエポン!」と語る、脳髄直撃の暴走ホラー活劇『悪魔がはらわたでいけにえで私』が2024年2月23日(金)についに日本での劇場公開を迎える。

スラムダンス映画祭、ポルト国際映画祭、プチョン国際ファンタスティック映画祭ほか多数の海外映画祭で観客の度肝を抜いた短編ホラーコメディ『往訪』に、新たなキャストと展開を加えて長編映画化した本作。昨年9月に開催された米国最大のジャンル映画祭「Fantastic Fest」のワールドプレミアでは販売開始と同時にチケットが完売し、そのほかの海外映画祭でも上映は満席が続出。北米配給も始まり、すでに海外のマニアの間では話題沸騰中の作品だ。“観る危険物”との呼び声も高い本作にかける思いを監督に聞いた。

(取材・インタビュー撮影:富田旻)


『往訪』に負けないおもしろいものを作ることを課題に、ノープラン&やりたい気持ちだけで長編化を決定

― まだ本編を拝見する前の話ですが、最初に宇賀那監督から映画のタイトルを伺ったときは、衝撃的すぎて……

宇賀那健一監督(以下、宇賀那監督):覚えています。「私はどうかと思う」って言われましたよね(笑)。

― すみません、言いました(笑)! でも、実際に作品を観たら「このタイトル、最高じゃん!!」って(笑)。

宇賀那監督:ははは! よかった(笑)。

― 『往訪』を長編化する構想は当初からあったのですか?

宇賀那監督:いや、長編にするつもりはまったくなかったのですが、『往訪』が完成したタイミングで、「何か映画を撮りませんか」というお話をいただいて。別作品のプロットも提示してくださったのですが、その時の自分にはハマらず「これはこれとして、とりあえず『往訪』の長編をやりたいです」って言って、そこからスタートしたんです。

― 意外にも見切り発車的にスタートしたんですね。個人的には、『往訪』を長編化すると聞いた時は、「え! こんなに完成された作品なのに!?」と驚いたというか、「なぜ?」と少々懐疑的でした

宇賀那監督:わかりますよ。僕自身も、短編を撮った時点で「やりきった! 気持ちよかった!」って終わっていました。なので、自分から長編化を申し出て、決まった時は嬉しかったですが……あとの構想が何もないわけですよ(笑)。決まってから「どうしよう」っていろいろ考えました。

― そうだったんですか!? 『異物』のように、まず短編として撮って、手応えがあればその企画を長編化していくっていうのが監督の中で一つのセオリーになっているのかな、と思っていました

宇賀那監督:いやぁ、『異物』も偶然というか、第一部を短編として撮って、第二部は、もともとMVを撮りたいと思っていて、その中に異物を登場させたかったのでMVのスピンオフドラマとして撮って、じゃあさらに二部分撮って長編化しよう……みたいな感じで出来上がっていったんです。
今作も、『往訪』の続編としてまずは第二部の『捻転』まで考えて、そこで一度撮って。おもしろくできたので続きもやりましょうか……と、そこは『異物』と同じパターンですね。だから第二部を撮った時点では、最後がどうなるのか僕を含めて誰も分かっていなかったんですよ(笑)。

― なかなかの衝撃発言(笑)!

宇賀那監督:ノープランで、やりたいという気持ちだけありました。ただ、短編と同じ流れを残りの上映時間45分でやるのは、予算的にも体力的にも観客の目線的にも無理で、どう違う方向に進めて『往訪』に負けないおもしろいものを作るか、というのが課題でした。

― 見事に課題を克服されましたね! さすがです!

作品が進むにつれてどんどんキャラクターを愛していくから、ますますコメディ化していく(笑)

― 短編を最初に観た時は恐怖感も凄まじかったんですけど、長編版ではその部分に免疫がついていたので、とにかく作品のディテールとコメディ要素とキャラクターの愛らしさに魅了されていきました

宇賀那監督:『異物』の時と同じで、作品が進むにつれて僕自身がどんどんそのキャラクターを愛していくから、ますますコメディ化していくっていう(笑)。

― なるほど(笑)。一見グロテスクだったり、はみ出し者だったりするキャラクターが、物語が進むにつれて愛おしい存在になっていく。そんな描き方も宇賀那監督作品の魅力ですよね。

ロイド・カウフマンが出演を快諾!
トロマ社内で初の「Rolling, Action!」

― 長編版には新キャストとして『悪魔の毒々モンスター』などの監督で、低予算ホラーコメディの名作を数々制作してきたトロマ・エンターテイメント代表のロイド・カウフマン氏が登場するのも嬉しい驚きでした。どのようにして、出演が叶ったのでしょうか。

宇賀那監督:トロマ・エンターテイメントが主催するトロマダンス映画祭で『往訪』が上映されることになり、その縁でロイドさんに「『往訪』の続編を撮っているので、出演してもらえませんか?」とお願いしたら、すぐにOKしてくれて。しかも「撮影にトロマも貸すよ」って。ロイドさんのシーンは実際にトロマ・エンターテイメントで撮影しているんです。

― あのシーンはトロマの社内だったんですね! ロイドさんとの撮影のエピソードで思い出深かったことはありますか。

宇賀那監督:そもそも初めての海外クルーとの撮影……というほどスタッフがいたわけではないけど、とにかく初めて「Rolling, Action(ローリング、アクション)!」とか言うわけですよ、「よーい、はい!」じゃなくて。それだけでもちょっと思い出深いですし。でも、ロイドさんがなんでもノリノリでやってくれる人なので円滑に進んだし、いつかトロマ制作で作品が撮れたらな……と思っています。

撮影以外では、トロマダンス映画祭での『往訪』の上映も印象深かったです。ドライブインシアターでの上映で、盛り上がるシーンでは観客が一斉にクラクションを鳴らすんです。ロイドさんも絶賛してくれて、すごく楽しかったですね。

☝︎ロイド・カウフマン氏と初めて会ったトロマダンス映画祭にて

☝︎昨年9月、アメリカ最大のジャンル映画祭「ファンタスティック・フェスト」でワールドプレミア上映。監督、プロデューサー、キャストで現地に。チケットは発売と同時に完売という大盛況ぶりだった
(写真提供:宇賀那健一監督)

テーマは、Don’t Think, Dance!
“メインストリームに立てない人への愛” を描く集大成といえる作品

― 本作はB級要素メガ盛りのぶっとびホラーコメディですが(※称賛しています)、その中に、人間が異形のものを無条件に排除する、逆に異形なものが人間を排除するという、『異物』シリーズとも共通するテーマが描かれていますよね。また「“悪魔”って、何をもって悪魔なんだろう」とか、意外にも深く考えさせられました。

宇賀那監督:僕自身は作品を通して、“メインストリームに立てない人への愛” をずっと描いてきていると思っていて。『黒い暴動♡』だと黒ギャル、『サラバ静寂』だと音楽が禁止されている中で音楽をやるという、ある種の違法なものにとらわれている人たち、『魔法少年☆ワイルドバージン』なら童貞とか。そういうマイノリティーへの愛が常々自分のテーマとしてあって。その中でも一番際立ったものとして描いたのが悪魔とか異形のものなんです。そういう意味で、今作が僕の一つの集大成だと思っています。

― 相容れない者同士が通じ合う媒体が “音楽”であるというのも、宇賀那監督作品の共通点ですね。

宇賀那監督:そうですね。最近の僕のテーマは “Don’t Think, Dance”。考えるな、踊れ。この作品のテーマにしたいと思って。

― わぁ、めちゃくちゃいいですね!

宇賀那監督:世の中が不条理だっていう意識が、僕の中で強いんでしょうね。『異物-完全版-』という不条理を無理やり愛でていた時代があって、『愚鈍の微笑み』ではそれに気づかないふりをして抵抗をして、今はそれをもう楽しむしかないっていう、だから「踊れ」!

― 本作は北米配給も始まり話題になっているとか。日本でもどんな反響があるのか、今からワクワクしています。最後に、宇賀那監督の最終的な野望ってなんですか?

宇賀那監督:僕は好きなものを作り続けていればいいタイプ。大作を撮りたい気持ちもあるにはありますけど、そこがゴールではないし、やりたいことを実現するために必要があるならやりますし。日記みたいに作り続けたいんですよ、映画を。
そうやって、やり続けたり考えたりする中で、例えば不条理に対しての思いも変わっていったりするじゃないですか。自分が死ぬ間際に、あの時はこう思っていたなというのを映画のタイトルを見て思い浮べられたら一番いいなと思います。

― ご自身を知りたいのですね。宇賀那監督とお会いすると毎回思いますけど、単純に映画の現場や作ること自体がすごくお好きなんですね。

宇賀那監督:現場にいたいですね。現場が好きっていうのはすごく大きい。脚本を書くのが一番辛い作業なんですが、でもなんだかんだ好きでもあるので、これからも書いていきたいですし。

― これからの作品もすごく楽しみです。本日はありがとうございました!

PROFILE

【脚本・監督:宇賀那健一(うがな・けんいち)】
1984年4月20日、東京都出身。青山学院経営学部経営学科卒業。近年の監督作に、ガングロギャルムービー『黒い暴動♡』(2016)、音楽が禁止された世界を描いた『サラバ静寂』(2018)、30歳を超えた童貞が魔法使いになるラブコメファンタジー『魔法少年☆ワイルドバージン』(2019)、NYLON JAPAN15周年記念映画『転がるビー玉』(2020)、トリノ映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭、エトランジェ映画祭など20ヶ国80以上の海外映画祭に入選し、12のグランプリを獲得した『異物-完全版-』、『渇いた鉢』(2022)などがある。2024年に『みーんな、宇宙人。』が劇場公開予定。

予告編・作品概要

別の世界の扉が開かれる――
奇才にして鬼才、宇賀那健一監督が放つサイケデリック・ホラー!

【STORY】ハルカ、ナナ、タカノリは連絡の取れなくなったバンドメンバーのソウタの家を訪ねる。しかし、彼の家は窓ガラス一面に新聞紙が張られており不気味な雰囲気で、彼の様子もどこかおかしかった。そこで不思議な力に導かれたナナが、部屋の奥に貼られている不気味なお札を外してしまい別の世界の扉が開かれる――。
数か月後のある日、音楽プロデューサーのコウスケが目を覚ますと、彼は見覚えのないBARで身体を縛られていた。そして、そこには見知らぬ男、レンが近くに横たわっていた。コウスケは必死にレンに呼びかけるが……。
別の世界が開かれた世の中でハルカとコウスケが出会い、再びあの家を訪れる。

▼『悪魔がはらわたでいけにえで私』
(2023年/60分/シネスコ/日本/DCP)
監督:宇賀那健一
出演:詩歩、野村啓介、平井早紀、板橋春樹、遠藤隆太、三浦健人、ロイド・カウフマン ほか
プロデューサー:高橋淳、野村啓介、WATANABE
撮影・編集:小美野昌史 照明:淡路俊之、津田道典 録音:Keefar、茂木祐介 効果:小川高松、Keefar
音響スーパーアドバイザー:大川正義 衣装:WATANABE 制作:WATANABE、宇賀那健一 制作担当:山口隆実
制作:株式会社Vandalism 製作:『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会
特殊メイク・特殊造型:千葉美生、遠藤斗貴彦 特殊メイク助手:池田恋、森田由華、河口伶 VFX:若松みゆき
音楽:ILA MORF OEL、Keefar
配給:エクストリーム
©『悪魔がはらわたでいけにえで私』製作委員会

●公式サイト:https://harawata-ikenie.com/

※2024年2月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、 シネマート新宿ほか全国順次公開

  • 2024年02月19日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2024/02/19/59797/trackback/