【『追い風』SPECIAL INTERVIEW vol.2 監督:安楽涼 脚本:片山享】これは、追い風を吹かせるために描いた「向い風」の映画

  • 2020年08月06日更新


安楽涼監督が『1人のダンス』に続き、脚本に盟友・片山享を迎えて描いた最新作『追い風』。その主人公は、安楽監督の幼馴染みで俳優やラッパーとして活躍するDEGこと出倉俊輔。安楽監督や片山さんと旧知の仲であるからこそ描けたDEGへの辛辣かつ愛情深いストーリーは、どのように生まれたのか?

劇場版公開を記念したスペシャルインタビューの第2弾は、安楽監督と片山さんに映画『追い風』に秘めた思いを語ってもらった。片山さんがメガホンを執り、安楽さんが主演を務めた映画『轟音』が今年7月に米・ニューヨークで開催された「JAPAN CUTS 2020」のNEST GENERATION部門に選出され、来る8月19日〜9月2日(現地時間)に開催される「ハンブルグ日本映画祭 2020」の招待作品にも選ばれるなど、いま国内外のインディーズ映画界で熱い注目を浴びる二人は、本作をどう作り上げたのか。


20年以上の付き合いで、初めて知るDEGの感情

― お二人の間では、どう脚本を固めていったのですか?

脚本・片山享さん(以下、片山):DEGにある出来事が起きて、友人の結婚式でライブをすることになって、それを安楽が撮影したのがストーリーの発端です。自分もカメラとして参加したかったけど、都合がつかなくて。どうだったのかを聞いたら、安楽が「今までに見たことのないDEGだった」って。

監督・安楽涼さん(以下、安楽):最初は自分で軽く脚本を書いて、それを片山さんに送って……みたいな流れだったんですけど。僕が書いたら、自分が知っているDEGでしかなかった。じゃあいっそのこと、DEGが何を考えているのか、直接聞こうと思ったんです。20年以上の付き合いで、これまで、まじめな話ってほとんどしたことがなかったけど、二人で居酒屋に行って、3時間くらい初めてDEGの気持ちを根掘り葉掘り聞きました。それをこっそりレコーダーに録音して、片山さんに送ったんです(笑)。

片山:僕がその会話を聞かせてほしいって言ったんです。

安楽:劇中歌にも使った「Sorry」という曲に、どんな思いを込めたのかと聞いたんですけど、DEGは「自分に対してごめんって思っている」って言って。それは、初めて知るDEGの感情でした。気持ちの折り合いのつけ方が、僕はたまたま「怒り」に向くだけで、DEGは全然違う尺度で感情を処理しているんだな、と思ったんです。子どもが「ごめんね」というセリフは、その時に生まれました。

Shot!!!/DEG(official music video)

Shot!!! 】詞:DEG 曲:JUVENILE Gt. 藤田義雄
監督・撮影:安楽涼 Active Copy:片山享 制作:すねかじりSTUDIO

本作のストーリーの起点となった実際のライブ映像が『Shot!!!」のMVになっている。劇中ではこのライブシーンをほぼ忠実に再現。ぜひ、劇場で観たあとに見比べてみてほしい。

映画を作るときに根底にあるのは、
「正直に生きられているか?」っていうこと

片山:子どもを登場させるのは、安楽が書いた原案の時点ですでにあったけど、最初は「笑ってんじゃねぇよ」っていうセリフだったんだよね。

安楽:そう。でも、片山さんがDEGと僕の会話を聞いて「このセリフは、違うね。『ごめんね』だね」って。

― 子どもが象徴するものは、“本来の自分”ということでしょうか。

安楽:一番“純”な心を象徴する存在として、子どものアイデアが浮かんだんです。僕だって、笑ってごまかすこともあるし、子どもみたいに純粋かって言われたら違う。けど、映画を作るときに僕の根底に常にあるのは、「正直に生きられているか?」っていうことなんです。子どものころは、そんなことすら考えずに正直に生きていて。だからDEGの話を撮ろうと思ったときにすぐ思いつきました。それと、僕が撮りたいのはドキュメンタリーじゃなく、あくまでフィクションだから、劇映画ならではの感情表現も入れたかったんです。

DEGと自分は似ているところがあるから
脚本を書くのは結構辛い作業だった

片山:脚本の段階で、安楽は「DEGの笑ってごまかす感じが自分にはまったく分からない。けど理解したい気持ちもある」ってよく言っていました。でも、僕はDEGと少し似ているところがあって。そこをほじくりながら脚本を書いていたので、僕自身も結構辛い作業でした。

― 劇中、片山さんはDEGさんにかなり辛辣な言葉を投げかけますよね。

片山:そうですね。あの会話は、実際に僕とDEGが交わしたものなんですけど、もともとは、あそこまで厳しい言い方をする予定ではなかったんですよ。

― あの会話というのは、KREVAさんのライブに感動したうんぬん……のお話ですよね?

片山:そうです。『1人のダンス』の上映が神戸の元町映画館であって、安楽とDEGと僕と大須(みづほ)さんの4人で遠征したんですけど。良い機会だから道中でDEGにいろいろ聞こうということになって。夜、男三人で温泉に入ってした会話なんです。

安楽:DEGを知ろうとする過程で、いろいろ理解できた部分もあるけど、KREVAさんの話だけは僕は全く分からなくて。思わず、温泉を離れてしまいました。

「片山さん、思いっきりやっちゃってくださいよ」って(笑)

片山:僕は、DEGの言いたいこと自体は理解できるんです。でも、違うんじゃないかと思うところはすごくあって。そういう話を延々と温泉でしていたんです。

安楽:脚本にその実際の会話を入れることにして、本番前に段取りだけ軽くやったんですけど、その時点でもまだDEGの言っていることがさっぱり分からなくて。「何言ってんの?」って、すごくムカついきて。

片山:僕もムカついていて、そしたら本番前に安楽が「片山さん、思いっきりやっちゃってくださいよ」って。

安楽:そんなこと言いましたっけ(笑)?

片山:言ったよ(笑)! その結果、あの辛辣なシーンになったわけです。

― DEGさんの一番何にムカついてたんですか?

片山:DEGが何のために歌っているのかが、全然伝わってきていないということです。何のためでもいいから、やりたいことをやればいいのに。本当は、DEGだって自分勝手にやりたいという思いも持っているのに、人に伝えるってなったときに、遠慮したり自分を押し殺したりする。そこが、子どもとは対照的という意味で、「DEGは大人だ」っていうセリフになったんです。

見とれるくらいダサい瞬間を撮りたかった
あの日のDEGを見てしまったから

― 映画を撮り終えて、公開を目前にしたいま、DEGさんに対して思うことは?

安楽:最近、この映画のパンフレットを作っていて、過去に遡って日記を書いたりしたんですが、そこで気付いたんです。僕はDEGを理解したいという以前に、見とれるくらいダサい瞬間を撮りたかったんだって。DEGを理解できないって言っていたけど、今まで20年以上、誰よりもいっぱい一緒にいて、僕自身もDEGに何も聞いてこなかったんですよ。それでも、DEGに対する愛情は圧倒的に増してきているわけだから、本当のDEGがどうこうなんて言うつもりはなかった。でも、あの日、結婚式で歌うDEGを見てしまったから。ただ歌って最後に笑っただけだけど、DEGの生きている様を見た気がしたんです。DEGは、辛いところから自分で突き抜けて笑えるんだって。それにすごく感動して。一回本当のDEGを見ちゃったから、どうせ映画を撮るならもっと見たいと思って。撮ってみて分かったけど、結局、映画を撮る全行程で、DEGとの理解を深めたかったんだなって(笑)。

― 愛情ですね……! じゃあ、理解を“深める”という目的は達成されたんですね。

安楽:はい。だって、僕こんなに全力で人を応援したことないですもん。長い友だちのなかで少しの嫉妬もなく、心から応援できているのは、DEGだけかもしれない。去年のMOOSIC LABでDEGが賞を穫ったときも、すごく気持ち良かったし。

脚本の最後に書いた一行は「DEGはいまどんな顔してるの?」


片山:
実は“向い風”の映画だし、何も解決していない話だけど、それでも、たまに追い風が吹く瞬間があって、そこがすごく気持ちの良い映画だと思います。エンディングのライブシーンで、僕が脚本の最後に書いた一行は「DEGはいまどんな顔してるの?」って言葉だけ。DEGが最後に見せる表情を、ぜひ劇場で観てほしいです!

安楽:コロナの影響もあって、劇場公開も“向い風”だらけだし、客席が半分になるのとかはDEGに申し訳わけない気持ちもあるけど、意地でも映画を撮ってきたから、意地でも盛り上げたいと思っています。映画を観た方がDEGのことを知るというのが、僕の考えるDEGにとっての“追い風”。だから、まだ何も始まっていないんです。DEGに追い風を吹かせるのは、これからが本番です。

安楽涼 片山享
Wリョウに聞いた!
DEGの「ここが魅力!

<質問>
【1】あなたから見た、または、あなただけが知っているDEGさんの魅力とは?
【2】DEGさんへひと言お願いします!
【3】映画をご覧になる方へのメッセージをお願い致します!
【4】ご自身の告知・宣伝もどうぞ!

<回答者:安楽涼>

東京都江戸川区西葛西出身。1991年生まれ。18歳のときに役者としてキャリアをスタートし、その後、自分が出演したいが為に映画制作を始める。自ら立ち上げた映像制作ユニット「すねかじりSTUDIO」では、映画やMVの監督として活躍。主な出演作に『恋愛依存症の女』(木村聡志監督)、『轟音』(片山享監督)などがある。監督4作目となる『1人のダンス』でMOOSIC LAB 2018 【短編部門】男優賞受賞を果たし、後に劇場デビュー。最新作『追い風』がMOOSIC LAB 2019【長編部門】で再び注目を集め、主演のDEG が最優秀男優賞とミュージシャン賞を W受賞したほか、サトウヒロキも男優賞に輝く。主演作『轟音』が、米・ニューヨークで7月に開催された「JAPAN CUTS 2020」NEXT GENERATION部門選出。8月にはドイツで開催のハンブルグ日本映画祭にも招待上映が決定。劇場公開版『追い風』が2020年8月7日(金)より公開!

【1】根っこの純粋な部分が昔から全然変わりません。落ち込んでると、前向きな事を教えてくれます。

【2】これからだな俺ら!

【3】DEGの魅力の1つは他人を楽しませて幸せにする事だと思います。ただ、今回はDEGが主役です。晴れ舞台を、これからを笑い飛ばすDEGを楽しみにしててください。

【4】主演作『轟音』がハンブルグ日本映画際で上映されます!


<回答者:片山享>

1980年、福井県鯖江市生まれ。大学卒業後から俳優活動を始める。主にインディーズ、単館系映画にて多く出演を重ね、主演も果たす。舞台では賞レースを賑わせたトラッシュマスターズに多く客演。安定感のある演技力を武器に着実にメジャー作品にも進出しつつある。近年の主な出演作は『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017/入江悠監督)、『リングサイド・ストーリー』(2017/武正晴監督)『DEVOTE』主演(2015/田島基博監督)など。また『轟音』主演の安楽涼氏監督作『1人のダンス』では脚本を務め、安楽監督の最新作『追い風』でも脚本を担当。監督作『轟音』が、米・ニューヨークで7月に開催された「JAPAN CUTS 2020」NEXT GENERATION部門選出。8月にはドイツで開催のハンブルグ日本映画祭にも招待上映が決定。

【1】魅力かどうかわかりませんが、頭が良い人です。だから、良いところと悪いところがあります。常に頭をフル回転して生きています。だから嘘をつくことも多かったでしょう。でも、だからこそ、嘘をつかないことを覚えた気がします。嘘つかないDEGは最高に人間らしく、そして、最高に優しい人です。

【2】そのままでいいと思います。でも、そのままが嫌になったらいつでも言ってください。また、その、そのままが産まれると思うから。一緒に頑張っていきましょう。

【3】この映画はたぶん「向かい風」の映画です。でも、ちゃんと吹きます、「追い風」が。その「追い風」は、きっと「俺達の追い風」なんです。なんか、その風を感じていただけたら嬉しいです。

【4】私が監督しました「追い風」監督の安楽が主演してくれた映画『轟音』が、今年7月にニューヨークで開催された(今年はオンライン開催)JAPAN CUTSのNEXT GENERATION部門に選出されたことに続き、8月にはドイツハンブルグ日本映画祭にも招待上映されます。

劇場公開版 予告編 & 作品詳細

【STORY】ミュージシャンの出倉は誰にでもどんなことがあっても笑う。誰も傷つけたくない、だから笑う。そうやって自 分自身を傷つけてきた年齢は28歳。身の回りの人はそれなりに幸せを掴みかけている。人に合わせ愛想笑いをする出倉はアーティストとしては評価されずにいた。そんな時、友達の結婚式の知らせがくる。そして、その式には、ずっと好きだったひかりが来るとのことだった……。

▼『追い風』
(2019 年/日本/71 分/DCP/アメリカンビスタ/ステレオ)
監督:安楽涼  音楽:DEG 脚本:片山享、安楽涼
プロデューサー:山田雅也 撮影:深谷祐次
録音:坂元就、鈴木一貴、新井希望
助監督:太田達成、小林望、登り山智志
ヘアメイク:福田純子 ウェディングドレス制作:磯崎亜矢子
スチール:片山享、ハルプードル
装飾:JUN 題字・広告デザイン:広部志行
企画:直井卓俊 特別協賛:黒川和則
製作・配給::すねかじりSTUDIO

出演:DEG、安楽涼、片山享、柴田彪真、関口アナン、サトウヒロキ、大友律、大須みづほ、ユミコテラダンス
柳谷一成、アベラヒデノブ、吉田芽吹、山本奈衣瑠、髙木直子、宮寺貴也、マックス、藤田義雄、木村昴、RYUICHI

『追い風』公式サイト

※2020年8月7日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!

編集・文:min インタビュー撮影:ハルプードル

  • 2020年08月06日更新

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