7月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2020年07月03日更新

7月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

LINE UP
7/3(金)公開『MOTHER マザー
7/4(土)公開『もち
7/10(金)公開『マルモイ ことばあつめ
7/17(金)公開『悪人伝
7/17(金)公開『ブリット=マリーの幸せなひとりだち
7/17(金)公開 『リトル・ジョー
7/18(土)公開『zk/頭脳警察50 未来への鼓動
7/18(土)公開『ぶあいそうな手紙
7/31(金)公開『海辺の映画館—キネマの玉手箱

更新情報:7月12日に『悪人伝』『ぶあいそうな手紙』を追加掲載しました。


『MOTHER マザー』

ゆがんだ親子愛の痛ましすぎる行方

大森立嗣監督が、2014年に埼玉県で起きた「少年による祖父母殺人事件」に着想を得て描く、壮絶かつ衝撃的な親子の物語。ろくに働きもせず、男たちと行きずりの関係を繰り返し、生活に困れば実家に金の無心をするシングルマザーの秋子を長澤まさみが体当たりで演じ、新境地をみせる。秋子は幼い息子の周平をまともに学校にも通わせず、自分の破滅的な人生の道連れにするかのように社会から隔離する。閉ざされた世界で成長し、唯一絶対的な母への思慕に翻弄される息子……。このゆがんだ親子愛の果てに、周平が起こす殺人事件があまりにも切ない。17歳になった周平を演じるのは、本作が映画初出演の奥平大兼。さみしげな表情のなかに悲しさや喜びを滲ませ、新人とは思えぬ存在感で周平を体現する。さらに、親子を取り巻く人々を、阿部サダヲ、夏帆、木野花ら実力派俳優陣が演じ、濃厚な人間ドラマをより立体的に膨らませていく。プロデューサーは、『新聞記者』『宮本から君へ』など、現代社会への問いを含む作品を手掛ける河村光庸。本作では、他者が立ち入り難い親子の愛の在り方を、観る者に投げかける。周平の犯した罪は法律で裁かれるべきものだ。しかし、この無垢で聡明な少年がもっと広い世界を生きていられたなら、と口惜しく思わずにいられなかった。(min)

2020年7月3日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
2020年/日本/126分)監督:大森立嗣 脚本:大森立嗣、港岳彦 出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野花 配給:スターサンズ/KADOKAWA © 2020「MOTHER」製作委員会


『もち』

地域特有の文化を身近なテーマに

岩手県一関市の本寺地区を舞台に、日本の原風景ともいえる山村の四季とこの土地に根付く独特のもち文化を背景にした、1人の少女の心のひだを描く。ユナの通う中学校は翌年の閉校が決まり、3年生のユナは最後の卒業生となることになった。幼馴染みのシホも引っ越すことになり、寂しさを抱えながら新居の上棟式のためのもち作りにシホの家に向かう。ユナ、シホをはじめ、出演者は全員、地元民で、大半の人が自分自身を演じる。テレビCMやミュージックビデオなど、500本以上の映像作品を手がけてきた小松真弓監督は、創作と現実を微妙に交錯させて、地域特有の文化を身近なテーマに落とし込む。約1時間というコンパクトな上映時間といい、映像の力が持つ新たな側面を垣間見た。(藤井克郎)

岩手・一関での先行上映後、2020年7月4日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/61分)脚本・監督:小松真弓 出演:佐藤由奈、蓬田稔、佐藤詩萌 ほか 配給:フィルムランド © TABITOFILMS・マガジンハウス


『マルモイ ことばあつめ』

命がけで母国語を守った人々を描く感動の歴史ドラマ

映画『マルモイ ことばあつめ』メイン画像日本統治下にあった1940年代の朝鮮半島を舞台に描く、史実を基にした劇映画。朝鮮語(韓国語)の使用が禁じられるなか、誇りをかけて母国語の辞書を作ろうとした人々の奮闘を感動的に描く歴史ドラマだ。メガホンを執ったのは、本作が長編映画監督デビューとなる、オム・ユナ。『タクシー運転手 約束は海を越えて』の脚本家であり、本作でも脚本を手掛ける。物語の主人公は読み書きもできず、盗みなどで生計をたてている男やもめのパンス(ユ・へジン)。ある時、偶然に「朝鮮語学会」の代表ジョンファン(ユン・ゲサン)と出会い、学会の雑用係として働くことになるが、非識字者であるパンスには、命がけで言葉を守ろうとするジョンファンたちが不思議でならない。しかし、パンス自身も字を覚え、“知”によって世界が広がっていく喜びを知るうちに、彼らの信念に大きく心を動かされていく……。パンスとジョンファンの友情物語と、それぞれの親子の物語も見ごたえたっぷりで、笑いあり涙ありの良作だ。ユ・へジンの人間味あふれる演技と表情にも惹き付けられ、すっかりファンになってしまった。(min)

2020年7月10日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2019年/韓国/135分)原題:말모이 監督・脚本:オム・ユナ 出演:ユン・ゲサン、ユ・へジン、キム・テフン ほか 配給:インターフィルム © 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


『悪人伝』

ハリウッド・リメイク決定!漢くささ全開のバイオレンス・アクション

映画『悪人伝』メイン画像怪優マ・ドンソクがヤクザの組長に扮し、荒くれ者の刑事とバディを組む、“漢”くささ全開のバイオレンス・アクション。ある夜、大物ヤクザのチャン・ドンスは、見知らぬ男にめった刺しにされる。奇跡的に⼀命をとりとめたドンスは対立する組織の仕業を疑うが、連続無差別殺人鬼を追っていたチョン刑事は同一犯だとにらみ、手がかりを求めてドンスにつきまとう。互いに敵意を剥き出しにしながら独自に犯人を追うドンスとチョン刑事。しかし狡猾な犯人を出し抜くためには互いの情報を利用するべきだと悟り、それぞれ思惑を抱えながら手を組むことにする……。本国では異例の⼤ヒットを記録し、シルヴェスター・スタローン制作によるハリウッド・リメイクも決定した注目作。凶暴だが情の深さを垣間見せる侠客はまさにドンソクのハマり役。キム・ムヨルもやんちゃで無鉄砲な刑事をエネルギッシュに好演し、俳優たちがみせる粗野な男の魅力に惹き付けられる。ハードなアクションに加え、ヤクザ、刑事、サイコパス、それぞれの心理戦も見どころ。マーベル・シネマティック・ユニバース『エターナルズ(原題)』で世界進出を決めたマ・ドンソクの活躍からは、当分目が離せそうにない。(min)

2020年7月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/韓国/110分)原題:악인전 英題:THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL 監督・脚本:イ・ウォンテ 出演者:マ・ドンソク、キム・ムヨル、キム・ソンギュ ほか 配給:クロックワークス © 2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.


『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』

北欧発! 笑顔を忘れた主婦の再生物語

映画『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』メイン

家事を完璧にこなすだけの日々を送り、笑うことを忘れていた主婦が、夫の浮気をきっかけに戸惑いながらも新たな人生を歩もうとする姿を描く。主演は『スター・ウォーズ』エピソード1、2でアナキン・スカイウォーカーの母親を演じたペルニラ・アウグスト。夫に愛人がいることを知り、家を出た63歳の主婦ブリット=マリーは、やっとのことで小さな町のユースセンターの管理人兼子どものサッカーコーチとして雇われる。住民たちと交流しながら少しずつ笑顔を取り戻していく彼女だったが、突然夫が目の前に現れて……。移民の子どもたち、盲目のサッカー選手、親身な警官。彼らに自分の存在価値を認められること、自分の大事なものを知ることで、岩のようにごつごつした雰囲気を持つ女性が、穏やかで柔らかなオーラを放つようになる。この物語の彼女の着地点は出発点だ。そこにあるのは安堵感と期待感。「何となく生きづらい」という思いは少しの勇気で打破できるのかもしれない。(吉永くま)

2020年7月17日(金)より全国公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/スウェーデン/97分)原題:Britt-Marie var här 監督:ツヴァ・ノヴォトニー 出演:ペルニラ・アウグスト、ペーター・ハーバー、アンデシュ・モッスリング ほか 配給:松竹 © AB Svensk Filmindustri, All rights reserved


『リトル・ジョー』

花粉を浴びると幸せになる不安

オーストリア出身のジェシカ・ハウスナー監督による初の英語作品で、主演のエミリー・ビーチャムは昨年のカンヌ国際映画祭で女優賞に輝いた。バイオ企業で働く研究者、アリスは、新種の植物「リトル・ジョー」の開発に成功する。愛を注げば幸福をもたらすという特徴があり、アリスは一株をこっそり持ち帰って最愛の息子のジョーに育てさせるが……。いつの間にか未知の生命体に体を乗っ取られる『ボディ・スナッチャー/恐怖の町』のような展開だが、花粉を浴びると幸せになるというのがミソで、次第に奇妙な行動を取るようになるジョーを、アリスはただ見守るしかない。果たして誰にとっての幸せか。ウィズコロナ時代の生き方が模索される今、まさに時宜を得た作品といえるかもしれない。(藤井克郎)

2020年7月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/オーストリア・イギリス・ドイツ/105分)原題:Little Joe 監督:ジェシカ・ハウスナー 出演:エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス ほか 配給:ツイン © COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019


『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』

芯の通った2人の芸術性が浮き彫りに

2019年に結成50年を迎えたロックバンド「頭脳警察」のPANTAとTOSHIの生き方と今とを見つめたドキュメンタリー。2人のインタビューやステージ映像に加え、加藤登紀子、大槻ケンヂ、山本直樹、宮藤官九郎、鈴木邦男といった幅広い人脈の証言などから、彼らの破天荒ながら芯の通った芸術性が浮かび上がる。結成当初の全共闘運動との絡みぶりも面白いが、出色はロシアが併合を宣言したクリミア半島でのステージだろう。日本のロックなど聴いたことがないという観衆が、サダム・フセインの孫を歌った「七月のムスターファ」に感銘を受ける場面には打ち震えた。コロナ感染の広がるギリギリまで2人を追いかけて躍動感あふれる作品に仕立てた末永賢監督の手腕にも恐れ入る。(藤井克郎)

2020年7月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/100分)監督・編集:末永賢 出演:頭脳警察(PANTA、TOSHI、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけい)ほか 配給:太秦 ©2020 ZK PROJECT


『ぶあいそうな手紙』

「手紙の代読と代書」が孤独な人生の扉を開く

映画『ぶあいそうな手紙』メイン画像

「老いるとは何かを失うことだけではなく得られるものもある」、そんな希望を感じさせてくれる温かさに包まれた作品。ブラジルに住むエルネストはウルグアイ出身の78歳、一人暮らし。頑固で息子からの同居も拒否している。ある日故郷の友人の妻から手紙を受け取るが、目がほとんど見えないため、偶然知り合った若い娘ビアに手紙の読み書きを頼むことに。そして彼女と交流するうちにエルネストの人生に変化が訪れる……。寡黙で孤独な老人の生活に、一見無遠慮だが繊細で優しいビアがするりとはいりこむ。美しい言葉がしたためられた手紙を通じて、二人に信頼関係が築かれていく様子に心が和む。終盤のエピソードでは不意を突かれて涙がこみ上げた。(吉永くま)

2020年7月18日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/ブラジル/123分)原題:Aos Olhos de Ernesto 英題:Through Ernesto’s Eyes  監督:アナ・ルイーザ・アゼヴェード 出演:ホルヘ・ボラーニ、ガブリエラ・ポエステル、ジュリオ・アンドラーヂ ほか 配給:ムヴィオラ  © CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019


『海辺の映画館―キネマの玉手箱』

大林宣彦監督が託す映画愛と平和への希求

コロナ禍がなければ公開初日のはずだった4月10日に82歳でこの世を去った大林宣彦監督の遺作。映画への愛、映画館への愛にあふれた人間賛歌のミュージカル作品に仕上がっている。舞台は大林監督のふるさと、広島県尾道市の海辺にある映画館。閉館を迎える最後の上映は、幕末の戊辰戦争からの日本の戦史をたどるプログラムだったが、映画を観にきていた3人の青年はいつしかスクリーンの中に入り込んでいた。よどみなく流れる音楽に色とりどりの圧倒的な映像美の中、戦争の無意味さ、ばかばかしさがこれでもかと描き出される。戦争を知る最後の世代である大林監督の平和への希求と、それを表現すべき使命を帯びた映画というすばらしきものへの思いがひしひしと伝わってきて、胸が締めつけられた。(藤井克郎)

2020年7月31日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
脚本:大林宣彦 出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲 ほか 配給:アスミック・エース ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

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