『アナと世界の終わり』-「glee」のホラーバージョン!? 奇想天外なハイスクール“ゾンビ”ミュージカル
- 2019年05月18日更新
高校生とミュージカル、ゾンビというコラボレーションがユニークな青春映画。本作を『ショーン・オブ・ザ・デッド』×『ラ・ラ・ランド』と評する海外メディアもあるが、 どちらかといえば“負け犬の高校生が抜群の歌唱力で歌って踊る”米テレビドラマ「glee/グリー」を彷彿とさせる。スペイン「シッチェス・カタロニア国際映画祭」のミッドナイト・エクストリーム部門最優秀作品賞を受賞。
クリスマス、ゾンビが町にやってくる!
イギリスの田舎町で父と二人で暮らす高校生アナは、クリスマスセーターを着るダサいジョン、オラオラ系の元彼ニック、SNSでソウルメイトを探すステフなど、冴えないクラスメイトたちと面白味のない学校生活を送っていた。高校最終学年のクリスマスの日、なぜか突然町にゾンビが増殖し始める。アナたちは、日ごろの鬱屈を発散するかのように、高らかな歌声と軽快なリズムにのってゾンビに立ち向かう。ゾンビだらけのこの町から、そして代わり映えのしない退屈なこの人生から、抜け出すことはできるのだろうか。
ミュージカルナンバーは名曲ぞろい!?
イギリスの低い空と同様、人生も曇りまくっているまだ10代のアナ。大学に行かずに旅をしたいが父親が許してはくれない。息が詰まる毎日に押しつぶされそうになっている心の叫びが歌となり、体の底から絞り出される。「ここを抜け出さなきゃ」「自分の道を見つける」「息をしている限り希望はある」……。ストレートな歌詞はどの世代の心にも突き刺さるはず。意外にもどの曲のメロディも聞きやすく、耳に心地良く残る。
毎日の閉塞感を打破したのは……
前半は比較的コミカル。登場人物が恍惚の表情で歌い上げる背後で血まみれのゾンビが蠢き人を襲っているというシュールな場面も。
その後一転、本来の“ゾンビ映画らしい”痛みを伴う展開に。それでもアナたちは歌う。歌いながらゾンビに反撃し、極限の状況下で逞しさと優しさを身につけて成長していくのだ。夢や希望のかけらもない退屈な生活に風穴をあけたのは皮肉にもゾンビだった。
彼らのゾンビへの反撃が必要以上に手荒いのは、ゾンビから逃げ出すためだけでなく、今の状況を打破したいからのようにも見える。世界が終わる日は新しい世界が始まる日となるのか。アナたちの世界が変わるクリスマスの一日に立ち会って、その行方を見届けてほしい。
▼『アナと世界の終わり』作品・公開情報
(2017年/イギリス/英語/98分/PG12)
原題:Anna and the Apocalypse
監督:ジョン・マクフェール
脚本:アラン・マクドナルド、ライアン・マクヘンリー
音楽:ロディー・ハート、トミー・ライリー
出演:エラ・ハント、マルコム・カミング、サラ・スワイヤー、クリストファー・ルヴォー、ベン・ウィギンズ ほか
配給:ポニーキャニオン
©2017 ANNA AND THE APOCALYPSE LTD.
※2019年5月31日(金)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
文:吉永くま
- 2019年05月18日更新
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