【独占レポート】『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント― 曽我部恵一さん×櫻井香純さん×川原康臣監督 〜続き〜

  • 2018年04月14日更新

「何かすごいものを観たなというか……残る映画」(櫻井さん)

映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(川原康臣監督)川原:では、いよいよ『寝てるときだけ、あいしてる。』のお話を。櫻井さんはご覧になっていかがでした?

櫻井:観ているあいだに、この場で何を話そうか考えていたんですけど、まとまらなくて。でも、何かすごいものを観たなというか……。初めてこういうタイプの作品を観ました。

川原:失礼ですが、櫻井さんはおいくつでしたっけ?

櫻井:21歳です。

映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(曽我部/櫻井)曽我部: 21歳でこれを観て……ああ、でも、あったなそういうこと。何か変に残るよね、こういうの。普通の作品とあまりに違うから。

櫻井:残りますね。

川原:こういう出来事がご自分にあったということではなくて、作品が?

曽我部:うん。10代から20代にかけて、こういう作品にドキドキしながら触れるっていうことが。

櫻井:ありがとうございます。勉強させていただきました(笑)。

川原:単純に、おもしろかったですか? 具体的にどこがとか。

櫻井:はい。好きなシーンでいうと、ヨーグレットを「べっ」と吐き出すところとか。

『寝てるときだけ、あいしてる。』川原:妹の凛が朝夫と逃避行に出てヨーグレットを食べながら誘っている時に、朝夫がのぞみのことを口にするから「べっ」と吐き出すシーンですね。あのシーンでは、凛役の笠島智さんが、吐き出すという行為について「できるかなぁ」と悩んでいらして。でも、「朝夫が自分に振り向いてくれないから、そこだけに集中してムカッとすれば出来るんじゃないですか」って言ったら、ものの見事に吐き出してくれて。天才だと思いました(笑)。

櫻井:演技の擦り合わせを、すごくされたのかなと思いました。

川原:全然やってないです。本読みだけはして、1話1話こういう風に表現しますという話はして、質問も受け付けますけど、本番ではほとんどお任せです。僕は見ているだけで、無になっちゃう。(俳優陣は)辛かったと思いますけど。

「曖昧さの中に漂う気持ち良さみたいなものを感じてもらえたら」(川原監督)

曽我部:監督の作品を観ると、いつも何か違和感を感じるんですよね。自分がいいと思っているものとは、ちょっと違うものに触れている感じがするというか。でも、その違和感が何かはよく分からない。MVを作っていただいても、そういう釈然としないものが残るんです。腑に落ちないというか、ちょっと気持ち悪いというか。

川原:つまらないですか……?

曽我部:つまります! つまるから困るんですよ(笑)! でも、監督の短編映画『大風呂屋エイジ』は、僕の中ではその違和感はすごく低いですね。

映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(曽我部恵一/川原康臣監督)川原:ああ、吉本興業さんと作らせていただいた『ハアドボイルド漫談師 大風呂屋エイジ~河津桜よ永遠に~』(2013)。あれは違和感がないと思いますよ。そこを意識して作っているので。

曽我部:もちろん監督の作品らしいだとは思うんでけど、『寝てるときだけ、あいしてる。』は、その違和感が爆発している作品だと思う。ただ、奇をてらったような違和感ではないんですよ。やっていることは全部普通のことだけど、それがよく分からない。言葉に出来ない。

川原:良いのか悪いのか(笑)。

曽我部:良いんじゃないですか?

川原: ちょっと説明をさせていただくと、『大風呂屋エイジ』は、ペナルティのヒデさん主演で、静岡県の河津町を舞台に撮らせていただいた30分の短編映画です。漫談師のエイジが河津町へやって来て騒動を起こす物語で、吉本新喜劇や松竹の新喜劇、三谷幸喜さんのドラマ『王様のレストラン』のような、子どもが観ても爆笑できるシチュエーションのドタバタコメディにしようと割り切って撮りました。なおかつ、自分の好きなキャラクターの刑事コロンボとか古畑任三郎みたいな、ちょっと頭がおかしいけど人を惹き付ける主人公にしたいと思って。主人公自身は成長しないけど、周りの人を変化させていく心地良さみたいなものを詰め込めたらなと、狙って作りました。非常に分かりやすく楽しい作品になっていると思うんですが、確かにそれを観たあとに今作を観るとメチャメチャ困惑されるとは思います。ただ、僕はどちらも違和感を与えてやろうとは思って撮っていないし、演じている方もそう思っていないと思います。

曽我部:(今作では)テーマとか、核となるメッセージはあるんですか?

川原:もちろん、あります。演者に伝えたのは、観客に辛い思いをさせたいのではない。でも、きっと辛い思いはさせると思う。ただ、観終わったあとに、辛かったことも含めて何か観てよかったと思えるような、曖昧さの中に漂う気持ち良さみたいなものを感じてもらえたらと。そのために、曖昧なものを演じてもらうのではなくて、お客様にも話しかけるし、凛みたいなあり得ないキャラクターも投入していくし、あり得ない展開もどんどん盛り込んでいく。カメラもフィクショナルに撮るんじゃなく、ずっと手持ちで側から撮って、引くことはないと思いますと説明して。そういう手法と意図のぶつかり合いみたいなものを実験的にやっていこうと話しました。その核には、観た方に誰かと腹を割ってぶつかってほしい、ちゃんとケンカをしてほしいというのはありましたね。

「結果としてここにあった質感が濃く伝わる映画」(曽我部さん)

『寝てるときだけ、あいしてる。』曽我部:映画を観て残るものが、ストーリーや作品が言わんとしたことじゃなく、フィルムの粒子の感じや作品の質感だったりすることもあると思うんです。これはそういう映画だという気が僕はしていて。もちろんテーマとか、監督が大事にしていることはたくさんあると思うけど、セリフとか誰が誰とどうなったとかを忘れても、結果としてここにあった質感が濃く伝わる映画だという気がしています。

川原:確かに、質感で作品を読み解こうとされる方はいて、僕はそれを新鮮に感じています。例えば、この映画を、猫が見ている視点という風に言葉にされる方がいたり、この3人が猫なんじゃないかとおっしゃる方がいたり。答えは出していないじゃないですか。(僕が)意図していないとしても、そういうところを探るのって、曽我部さんがおっしゃる質感みたいなものを掴んで謎解きをしているのかなと思って。

曽我部:うん、だから実は楽に観られます。

川原:それは嬉しいな。櫻井さんは楽に観られましたか?

『寝てるときだけ、あいしてる。』『寝てるときだけ、あいしてる。』櫻井:はい。ジーっという音が意外と心地良くて。その音がずっと鳴っているけど、セリフはちゃんと入ってきて。

曽我部:友達と旅行やピクニックに行って、何を話したとか何を食べたとかを覚えていなくても、光の感じとかが残っていて、最高の1日だったっていう感覚がある。そういう感じ。ザラついた画質が僕は好きなんだと思った。最初に観た時は、フィルムでもビデオでもない、アナログでもデジタルでもないどっちつかずな鈍さが気持ち悪くて、それが嫌だったんだけど。でも、結局それが好きだなって思いました。観たくなる色、さわりたくなる質感みたいな。

川原:僕はスクリーンで観ることで、肉体感がより濃くなりました。

曽我部:うん。リアリティがありますよ。監督の映画って。

川原:嬉しい……(笑)。リアリティか、難しいな。真実味ってところですか? 説得力?

曽我部:うーん……分かんない(笑)。

川原:結局分かんないんじゃないですか(笑)。でも、それを読み解きつつ、皆さんがお家に帰ってくれるといいなと思います。身の回りの人達をそういう風に質感で捉えるというのは、いかがでしょうか。……みたいな、まとめ方をしたりして(笑)。僕は映像を観ていて、触れたいなと思うんですよ。

曽我部:そうそう。

川原:それが最後の手段というか。映像で触れられたら最強なんじゃないかと思っていて。新しい技術で触れられる感覚が得られたら、それが最後じゃないかって。

映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(曽我部/櫻井)曽我部:僕ね、映画だったら何でもいいって思っちゃうんですよ。小学生の頃、親が小遣いとは別に、映画に行く時とマンガ以外の本を買う時にはお金を出してくれたんです。だから町に一軒だけある小さな映画館に行きまくっていたんですが、フィルムが映っていて、その光の感じがあれば、映画の内容は何でもよかったんです。大人になってくると、映画のテーマとか、言わんとしていることは何かっていう風になってくるし、自分もそういうところで映画を観たりするけど、それを忘れてボケっと観られるという意味で、この作品はすごく“映画”だと思います。

川原:嬉しいです。

曽我部:女性と付き合う時もそうじゃないですか? 僕はですけど、その人と主義主張が合うかというよりも、触れたいなと思うかどうか。

川原:それはもう、ありますね。

曽我部:それだけじゃないですか? むしろ、そこに尽きと思うんです。どのくらい愛しているとか、私はこういう理由であなたがいないとダメだとか言うことより、一緒にいて幸せで、一緒にいたいと思うかどうかだけだから。だから、この映画も何を指し示そうとしているかはどうでもよくて、どうでもいい映画であるほど僕は好きですね。

川原:がんばります(笑)。なかなかおもしろい話になってきましたが、そろそろお時間ということで……。皆さん、今日は本当にありがとうございました!

◆◆ミニシア恒例!靴チェック◆◆

映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(靴チェック/川原) ★川原康臣監督★
「CONVERSE(コンバース)のジャックパーセルしか履きません」というほど、ジャックパーセル好きの川原監督。取材当日に履いていたのは、米国アウトドアファブリックのトップブランド「サンブレラ」とのコラボモデル。紺×白の色使いがさわやか!
映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(靴チェック/曽我部)  ★曽我部恵一さん★
世界で初めてラバーソールを採用したことで知られ、多くのミュージシャンたちからも愛されてきた英国の老舗シューメーカー、George Cox(ジョージコックス)の靴で登場した曽我部さん。個性的なレオパード柄もさりげなく履きこなし、ちらりとのぞかせた赤いソックスまでオシャレ。
映画『寝てるときだけ、あいしてる。』トークイベント(靴チェック/櫻井) ★櫻井香純一さん★
フィンガーダンス 、コンテンポラリーダンサーの櫻井さん。靴を選ぶ基準はやはり動きやすさ。特にReebok(リーボッック)のスニーカーがお気に入りだそうです。キュートなルックスと、圧倒的な踊りの表現力をもつ櫻井さん。今後の活躍はご本人のTwitterInstagramからチェックを!

サニーデイ・デービス「the CITY」

NEWアルバム
サニーデイ・サービス『the CITY』

ストリーミング&ダウンロード 2018年3月14日より配信!
2枚組アナログ盤 2018年4月25日発売!

◆詳細はこちらへ
曽我部恵一(ROSE RECORDS)オフィシャル・サイト

取材・編集・文:min スチール撮影:ハルプードル

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『寝てるときだけ、あいしてる。』▼『寝てるときだけ、あいしてる。』作品・公開情報
(2014年/日本/110分/DCP)
英題:Nozomi and Tomo
監督・脚本・撮影・編集:川原康臣
出演:前田多美、関口崇則、笠島智
衣裳:藪野麻矢 音楽:寝子
助監督:堀切基和、安川有果 撮影照明助手:米山舞
制作応援:今村悠輔、横山真哉
脚本協力:上原三由樹
宣伝デザイン:岡太地
グッズ・イラスト:にどみ
製作:MayFly  ©MayFly

『寝てるときだけ、あいしてる。』公式サイト

池袋シネマ・ロサにて、2018年3月31日(土)〜 4月6日(金)モーニングショー
 、4月7日(土)〜 4月13日(金)レイトショー上映
※現在は上映終了しています。

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