【インタビュー】ジャンルレスで描く究極の愛! 宇賀那健一監督が “超セカイ系”映画『Love Will Tear Us Apart』を撮った理由

  • 2023年08月15日更新
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映画『Love Will Tear Us Apart』
映画『Love Will Tear Us Apart』

宇賀那健一監督が “究極の愛” を描く最新長編作、『Love Will Tear Us Apart』が2023年8月19日(土)より全国順次公開となる。主演の久保田紗友をはじめ、青木柚、莉子、吹越満、麿赤兒、前田敦子、高橋ひとみ、ゆうたろう、田中俊介ほか魅力いっぱいのキャストが集結する本作は、観ている人の感情をぐちゃぐちゃにかき回すサスペンスホラー&ラブロマンス作品。日本公開に先駆け海外映画祭でも話題を呼んでいる本作の裏側に迫った。

取材:富田旻 写真:James Ozawa


社会と自分が乖離していく感覚の中で、
隣人を愛することを極限まで突き詰めた “超セカイ系”映画

― 本作の着想のきっかけを教えてください。

宇賀那健一監督(以下、宇賀那監督):大きく二つあるのですが、映画の「中身」の部分でいうと、社会と自分が乖離していく感覚の中で、隣人を愛することを極限まで突き詰めた“超セカイ系”と呼べる作品を描きたかったんです。

― “超セカイ系”とは?

宇賀那監督:少し前に、社会と断絶して自分たちの世界で生きる人たちを指す“セカイ系”という言葉が流行って、そういう人たちを揶揄するような風潮もあって、そこに対して疑問を感じていました。「みんな社会のことをもっと考えるべき」とか、正論ですけど、そもそも隣人を愛せないヤツが社会を愛せるわけないと僕は思うんです。

丁度そんなことを考えていた時に『天気の子』(2019)を観て、ブッ刺さっちゃって。あの作品も、目の前の人をとにかく愛して選択していく話で、自分がやりたかったことだったからすごくショックでした。同時に、先にやられてしまったからこそ、自分の正義と愛だけで人を守り抜く、“超セカイ系”と呼べるような作品を描きたいと思いました。

コロナ禍への逆説的アプローチから生まれた、ロードムービー

― もう一つの着想の起点はなんですか?

宇賀那監督:もう一つは、映画の「ガワ」の部分ですね。コロナ禍で、映画制作にもいろいろな枷ができて、みんなが小さく収まらざるを得なくなって。その状況が予想以上に長引いて、このままではよくないと思ったんです。それで、感染対策をしつつ、いろんな地域で撮影をするロードムービー的なものを撮って、みんなに観せたいと思いました。

― コロナ禍で逆説的に生まれたアイデアだったのですね。ほかの人がやっていないことをあえてやろうという発想が、宇賀那監督らしいですね。

宇賀那監督:厳密にはロードムービーではないけれど、主人公が新しい場所に移動していく映画がいいと思って。ホラー作品によくある、何者かにずっと追いかけ回されるという設定を過剰にしたら日本中を回れると考えて(笑)、そこから撮っていきました。

それと、実は僕が高校生の時に初めてに書いた脚本が、ロマンスとホラーを掛け合わせた殺人ものだったんです。内容は今作と全然違いますが、「何が正義か?」みたいな部分が一緒で。今なら、あの時できなかったこともできるんじゃないかなと思ったんです。「幸喜(コウキ)」という登場人物の名前も、実は当時の脚本から引っ張りました。

― おお! そんな青春時代の思いも込められた作品だったのですね!

目指したのは、『天気の子』×『悪魔のいけにえ』×『トゥルー・ロマンス』

― 若手からベテランまで魅力的なキャストが集結しているのも、本作の大きな魅力です。キャスティングやそれぞれのキャラクターについて教えてください。

映画『Love Will Tear Us Apart』宇賀那監督:主演の久保田紗友さん、青木柚さん、莉子さん含め、若手のメインキャストはほとんどオーディションで選ばせていただきました。

― 久保田さんを主演に抜擢された一番の決め手はなんですか。

宇賀那監督:ホラーコメディは、どれだけ真剣にやれるかが肝だと思うんです。その点で、久保田さんは「真面目に信じ切る能力」が高いと思いました。久保田さんが常に真面目に演じてくれたからコメディとして成立するし、感情移入もできるし。でも、感情の振り幅が大きい役で、演じるのは大変だったと思います。「常に感情がぐちゃぐちゃです」とは言っていました。

― 撮影前には、どのように作品の意図を共有されたのでしょうか。

宇賀那監督:僕は脚本について話す時間は基本的に設けないのですが、今回に関しては久保田さんと青木さんには僕がなぜこの作品をやりたいのかということと、『天気の子』×『悪魔のいけにえ』×『トゥルー・ロマンス』みたいな作品にしたいという話をしました。

着想は『天気の子』から得て、登場人物の境遇などはあとの二作に重ねた部分があります。『悪魔のいけにえ』の殺人鬼レザーフェイスには周囲から理解されない人間の不器用さや悲しみという背景もあって、『トゥルー・ロマンス』も現実をうまく生きられない人たちが逃避しながらもがいていく物語で、観る人によって捉え方や感情移入する点も違うだろうし、そういう多面的な作品を作りたいと思いました。

映画『Love Will Tear Us Apart』― 久保田さん演じる主人公・わかばの描き方も画一的じゃなくておもしろかったです。子どもの頃は正義感が強くて、しっかり者かと思いきや、あやしい男性も簡単に信じちゃう。真面目だけど隙だらけで、良くも悪くも穢れていないというか。

宇賀那監督:昔のスプラッター映画にナタとか斧とかチェーンソーがよく出てくるのは、キリスト教の姦通罪への恐れからきているそうなんです。婚前交渉に対して日本よりずっと厳しいから、処女性の高い人がいわゆるファイナルガールになるっていうのがあって、そこは単純になぞっておいたほうがおもしろいなと思ったんです。

才能ある若手俳優たちと、ノリノリで挑んでくれたベテラン俳優たち

― 青木柚さんと莉子さんにはどんな印象を持たれましたか。

宇賀那監督:青木さんはオーディションの時に、「彼しかいない」と満場一致で決めました。芝居が上手いのはもちろん、本人の持っている陰と陽のバランスが絶妙なんですよね。
莉子さんは爆発力のあるタイプで、彼女への信頼度も大きかったです。今作のコメディ要素をわかりやすく加速させているのは田中俊介さんや麿赤兒さんや吹越満さんのパートですけど、この作品が実はコメディだとわかりだすのは、多分、莉子さんのパートだと思うんです。

映画『Love Will Tear Us Apart』 映画『Love Will Tear Us Apart』

― たしかに、莉子さん演じる環奈が深刻になるほど笑ってしまうシーンがありました。田中さんの胡散臭さも最高でしたし、吹越さん、麿さんも役に振り切っていましたね。

宇賀那監督:
あくまでも僕の中のイメージですが、どこまで無茶なことに応えていただけるかというのをキャスティングの際に考慮しました。麿さんも吹越さんも、前田敦子さんもしかりですが、インディーズ作品やジャンル映画的な作品も知っていらして、そこへの理解がある方というのが出演をオファーする際の理由として大きかったですね。現場では、麿さんも吹越さんもノリノリで演じてくださいました。

映画『Love Will Tear Us Apart』 映画『Love Will Tear Us Apart』
映画『Love Will Tear Us Apart』 映画『Love Will Tear Us Apart』

― 前田さん演じるわかばたちの小学校の先生も、心の底がうかがいしれないというか、つかみどころのない役ですよね。

宇賀那監督:悪意があるのかないのか、自覚があるのかないのか、このあやしさをすごくいいバランスで演じてくださいました。これは褒め言葉ですが、得体の知れない禍々しさみたいなものを表現されるというか、なんて言ったらいいんだろう……やっぱり、場数なんでしょうね。経験してきたことの蓄積がちゃんと見え隠れするというか。難しかったとは思いますが、大きく打ち合わせすることもなく感覚的にそこをつかんでくださってやって、すごく魅力的だと思ったし、ありがたかったです。

― 個人的に共感しつつも少し意外だったのが、本作のメイキング特報で、「『Love Will Tear Us Apart』を一言でいうと?」という質問に、わかばの母親役の高橋ひとみさんが「思いっきり爽快!」って答えられていて、こういった作品にもすごく理解がある方なんだなと思いました。

宇賀那監督:そうなんですよ。僕も高橋さんに出演をオファーするときはダメかなと思いつつ聞いてみたのですが、快諾してくださって。撮影の初日が高橋さんのシーンで、僕も探り探りだったんですけど、現場でもいろんなことを試してくださったし、すごく楽しんで演じてくださいました。うれしかったですね。

<メイキング特報>
『Love Will Tear Us Apart』を一言でいうと?

ジャンルレス映画の流行とその背景にあるもの

― 本作は、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でワールドプレミア上映され、Portland Horror Film Festivalでは長編映画部門の最優秀作品賞を受賞するなど、日本公開に先駆けて、海外でも注目を集めていますね。具体的にどのような反応がありましたか。

宇賀那監督:ポートランドでの上映中の様子を動画で観たのですが、後半は爆笑が起こっているんですよ。スプラッター映画は日本だとなかなか笑いにならない部分もあるけれど、そこは海外らしい反応だな思います。映画祭のコミュニティサイトに上がっている感想を読むと「ロマンスと笑いのバランス」みたいなことが言われているんですけど、批評家たちのレビューでは、貧困やネグレクト、いじめなど社会的な部分に触れているものが多くて、いろいろな見方をされているんだなと思いました。

― いろんなテイストが混ざり合った作品だからこそ、多様な見方や反応があるんですね。短編の『異物』シリーズも多岐にわたるジャンルの映画祭で賞に輝いていましたが、宇賀那監督がジャンルレスにこだわる理由はなんですか。

宇賀那監督:一つの作品の中にいろいろなジャンルが混ざっているのは僕のもともとのスタイルですが、ジャンルレスといった傾向は世界的に流行してきていると思いますね。

― ジャンルレスな作品が流行してきている理由はなんだと思いますか。

宇賀那監督:昔はレンタルビデオ屋もジャンルで棚分されていたくらい明確なのが普通でしたけど、配信の時代になって、いろいろな面で垣根がなくなっているように感じます。
それと、映画が誕生して100年以上経って、過去作の模倣やパターンもやり尽くされて、「ホラーの定番ってこういうこと」みたいな基礎知識をみんなが持っているのを大前提にした上で、もう一つなにかを更新していく時代に入っているのかなと感じますね。いろいろなものを見飽きて飽和状態だから、ジャンルをまたいだものを人々が求めているのかなと思います。

― なるほど。今後の宇賀那監督の作品の構想などがあれば教えてください。

宇賀那監督:実はもう、公開待機作品が3本あって、新しい映画もクランクインしているんです。それぞれ違うジャンルの作品なので、ぜひ楽しみにしていてください。

― いつも精力的で、独創的で本当に驚かされます。今後の作品も楽しみにしています!

 

【脚本・監督:宇賀那健一(うがな・けんいち)】

1984年4月20日、東京都出身。青山学院経営学部経営学科卒業。近年の監督作に、ガングロギャルムービー『黒い暴動♡』(2016)、音楽が禁止された世界を描いた『サラバ静寂』(2018)、30歳を超えた童貞が魔法使いになるラブコメファンタジー『魔法少年☆ワイルドバージン』(2019)、NYLON JAPAN15周年記念映画『転がるビー玉』(2020)、トリノ映画祭、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭、エトランジェ映画祭など20ヶ国80以上の海外映画祭に入選し、12のグランプリを獲得した『異物-完全版-』、『渇いた鉢』(2022)などがある。現在、3本の監督作品が公開待機中である。

予告編&作品概要

【STORY】日本の田舎に暮らす普通の小学生、真下わかば。彼女はある日、虐められていたクラスメイトの小林幸喜を助ける。それ以降、わかばと関わっていく人が次々と殺されていく。犯人は誰なのか。目的は何なのか……。犯人がわかった時、わかばは本当の愛を知ることとなる。

映画『Love Will Tear Us Apart』ポスター画像『Love Will Tear Us Apart』
(2023年/87分/シネスコ/5.1サラウンド/DCP/カラー/R15+)
出演:久保田紗友、青木柚、莉子、ゆうたろう
前田敦子(特別出演)/ 高橋ひとみ
田中俊介、麿 赤兒 / 吹越満
望月歩、天木じゅん、淡梨、須田アンナ
矢部 俐帆、山口太幹、山崎莉里那、山下徳大、神尾優典
木村知貴、横山美智代、小出薫、赤崎貴子、白土りょうすけ、スギヤマタクヤ
兵頭功海、石田夢実、潮みか、森下史也、宮本和武

監督:宇賀那健一
プロデューサー:當間咲耶香、宇賀那健一 共同プロデューサー/編集:小美野昌史
脚本:宇賀那健一、渡辺紘文 音楽:小野川浩幸、服部正嗣 撮影:岩倉具輝 照明:加藤大輝 録音:Keefar 美術:横張聡
助監督:平波亘 制作担当:宮司侑佑 スタイリスト:小笠原吉恵 ヘアメイク:くつみ綾音
スチール:柴崎まどか 特殊メイク/特殊造形:千葉美生、遠藤斗貴彦 VFX:若松みゆき
制作プロダクション:VANDALISM
配給:VANDALISM 製作:「Love Will Tear Us Apart」製作委員会
Ⓒ『Love Will Tear Us Apart』製作委員会

『Love Will Tear Us Apart』公式サイト

※2023年8月19日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

  • 2023年08月15日更新

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