4月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2020年04月01日更新

4月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?

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4/3(金)公開 『在りし日の歌
4/3(金)公開 『悲しみより、もっと悲しい物語
4/4(土)公開 『ようこそ、革命シネマへ
→公開劇場ユーロスペース休館により4/6(月)より上映(※4/8日より休館)
4/10(金)公開 『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡
→6/26(金)公開になりました
4/24(金)公開 『きっと、またあえる
→8/21(金)公開になりました
4/25(土)公開『あなたの顔
→6/27(土)公開になりました
4/25(土)公開 『ドロステのはてで僕ら
→6/5(金)公開になりました
4/25(土)公開『ペトルーニャに祝福を
→2021年初夏に公開延期となりました※公開日等は新型コロナウィルス感染拡大の影響で変更になる場合もございますので、ご鑑賞前に各作品の公式サイト、劇場サイトをご確認ください。


『在りし日の歌』

断片をちりばめて訴える家族の悲しみと絆

映画『在りし日の歌』中国の地方都市で工場に勤めるヤオジュンとリーユンの夫婦は、一人息子のシンと穏やかな日々を過ごしていた。シンと同じ日に生まれた息子を持つインミン、ハイイエン夫婦とは家族ぐるみの付き合いだったが、リーユンに2人目の子どもが授かったことで、家族間に波風が立つようになる。中国政府が進める一人っ子政策を背景に、時代に翻弄される家族の悲しみと絆を、『北京の自転車』(2001年)などのワン・シャオシュアイ(王小帥)監督が、時制を巧みに行き来させて描いた。大胆に時空間を飛躍させる作劇法には当初、戸惑うものの、パズルのピースを埋め込んでいくような快感に変わる。ほんの断片だけの集積でこんなにも情感に訴えるとは、改めて映画の魔力を思い知った。(藤井克郎)

2020年4月3日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/中国/185分)原題:地久天長 英題:SO LONG, MY SON 監督・脚本・製作:ワン・シャオシュアイ(王小帥) 出演:ワン・ジンチュン(王景春)、ヨン・メイ(詠梅)、アイ・リーヤー(艾麗婭) ほか 配給:ビターズ・エンド © Dongchun Films Production


『悲しみより、もっと悲しい物語』

台湾の街に咲いた悲しくも美しい永遠の愛

映画『きっと、またあえる』メイン画像クォン・サンウ主演の韓国映画『悲しみよりもっと悲しい物語』の台湾リメイク版で、国内興行収入ランキング1位を記録した。若くして天涯孤独になったKと事故で家族をなくしたクリームは、高校1年生のときに運命的な出会いを果たす。やがて同居するようになるが、お互い恋心を秘めたまま、かけがえのない存在として時を重ねていく。それぞれ音楽プロデューサー、作詞家として活動を始めるふたり。だがKは白血病で自分の余命が僅かだと知り、クリームを別の男性に託そうと決意する……。相手を悲しませないために、自分の気持ちを抑える心情は日本人の私たちの心にも響く。究極のプラトニックであるが故の深い愛。純粋すぎる彼らを取り巻く周囲の人間たちが、どこまでも優しい。(吉永くま)

2020年4月3日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2018/台湾/106分/PG-12)原題:比悲傷更悲傷的故事 英題:More than Blue 監督:ギャビン・リン 出演:リウ・イーハオ、アイビー・チェン、アニー・チェン 配給:ハーク


『ようこそ、革命シネマへ』

映画産業が崩壊した国で老監督たちが立ち上がる!

映画『ようこそ、革命シネマへ』メイン画像映画産業が崩壊した独裁軍事政権下のスーダンで、還暦を過ぎた4人の映画監督・製作者が映画館を復活させるために奔走するドキュメンタリー。若かりし頃、海外で映画を学び作品を作った彼らは、1989年のクーデター後弾圧を受け、亡命や逮捕・拘禁などの苦渋を嘗めた。そして2015年、再会を果たした彼らは、潰えた夢を取り戻すかのように、壁にぶつかりながらも準備を進めていく。お互い冗談を言い合い、一見飄々としていても、その心の底には体制への静かな怒りや悲しみを秘めているように見える。老映画作家たちの映画への熱い思いは、ガスメルバリ監督をはじめ、次の世代へしっかりと受け継がれていくことだろう。(吉永くま)

2020年4月4日(土)より全国順次公開 ※公開劇場のユーロスペース休館により4/6(月)より上映(※4/8日より休館) 公式サイト
(2019/フランス・スーダン・ドイツ・チャド・カタール/97分)原題:Talking About Trees 監督:スハイブ・ガスメルバリ 出演:イブラヒム・シャダッド、スレイマン・イブラヒム、エルタイブ・マフディ、マナル・アルヒロ 配給:アニモプロデュース © AGAT Films & Cie – Sudanese Film Group – MADE IN GERMANY Filmproduktion – GOÏ-GOÏ Productions – Vidéo de Poche – Doha Film Institute – 2019


『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』

むき出しの人間性に恐怖感すらも

映画『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』金メダルを目指すロシアの新体操選手、マルガリータ・マムーンのオリンピックへの道のりに密着したドキュメンタリー。とはいえ、ポーランド出身のマルタ・プルス監督の興味は、マムーン本人よりも2人のコーチに向かっているようだ。とにかく2人とも、ありとあらゆる罵詈雑言をマムーンに浴びせかける。特に年配のイリーナ・ヴィネルの言葉は容赦なく、「無能」「ポンコツ」などと言いたい放題。2人のコーチの確執も熾烈で、さらにマムーンへの風当たりが強くなる。父親ががんで余命わずかというのに、マムーンはそれでも猛練習に励む。そんなむき出しの人間性が前面に出まくっていて、感動というよりも恐怖感に圧倒される。すべての悪口がクリアに聞こえる音声にも驚いた。(藤井克郎)

2020年4月10日(金)より全国順次公開 ※6月26日(金)より全国順次公開になりました。
公式サイト 予告編動画
(2018年/ポーランド・ドイツ・フィンランド/74分)原題:Over the Limit 監督:マルタ・プルス 出演:マルガリータ・マムーン、イリーナ・ヴィネル、アミーナ・ザリポア ほか 配給:トレノバ、ノーム © Telemark, 2018


『きっと、またあえる』

涙腺が壊れながらも笑いが止まらない!?

映画『きっと、またあえる』メイン画像

『ダンガル きっと、つよくなる』のニテーシュ・ティワーリー監督作の感動コメディ。主人公アニの受験生の息子が病院に担ぎ込まれる。ベッドの上の彼を応援するために、学生時代を一緒に過ごした仲間が久しぶりに集合。“負け犬”だった当時のバカ話や奮闘ぶりを熱く語り出す。アクが強いといわれるインド映画だが、熾烈な受験戦争でもがく若者、友情や親子の愛情、元夫婦の微妙な距離感にまつわるエピソードは、日本社会と同じで深い共感を覚える。それにしても「涙腺が崩壊しながらも笑ってしまう」という稀有な経験は貴重。学生寮対抗戦で繰り広げられるカバティやクリケット、キャロムとなどの日本ではあまり馴染みのない競技も興味深い。(吉永くま)

2020年4月24日(金)より公開 ※8月21日(金)公開になりました。 公式サイト
(2019/インド/143分)原題:CHHICHHORE 監督:ニテーシュ・ティワーリー 出演:スシャント・シン・ラージプート、シュラッダー・カプール、ヴァルン・シャルマ 配給:ファインフィルムズ
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『あなたの顔』

見つめる自分がいつしか見られている感覚

映画『あなたの顔』商業映画からの引退を宣言し、近年はもっぱら映像のアート作品を手がける台湾在住のツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督による異色のドキュメンタリー。台北にある歴史的建造物、中山堂の館内に置かれた一脚の椅子に、人生を重ねた13人が座る。深くしわが刻み込まれた一人一人の顔を、カメラはただじっと見つめる。ある者は途中で笑い出し、ある者は話しながら涙を流す。ただハーモニカを吹き続ける男もいれば、いびきをかいて寝ていた人がハッと目を覚ます瞬間もある。そして14人目の顔は……。他人の顔をじっと見ていると思っていたら、いつの間にか自分が見られているように感じてくる。この不思議な感覚を味わえるのも、ツァイ監督の鋭い創造性の賜物なのだろう。(藤井克郎)

2020年4月25日(土)より全国順次公開 ※6月27日(土)より全国順次公開になりました   公式サイト
(2018年/台湾/76分)原題:你的臉 英題:Your Face 監督:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮) 音楽:坂本龍一 出演:リー・カンション(李康生) ほか 配給:ザジフィルムズ、トランスフォーマー © 2018 HOMEGREEN FILMS TAIWAN PUBLIC TELEVISION SERVICE FOUNDATION ALL RIGHTS RESERVED


『ドロステのはてで僕ら』

2分差の過去と未来を重層的に表現

映画『ドロステのはてで僕ら』人気劇団「ヨーロッパ企画」を率いる上田誠が原案、脚本を手がけ、山口淳太監督はじめ劇団メンバー全員で取り組んだオリジナル長編映画。まさに映像でしか表現できない驚異の群像SFコメディになっている。カフェのマスター、カトウがビルの2階にある自室に帰ると、テレビの中から声が聞こえる。画面には2分後の自分が映っていて、1階のカフェから話しかけているという。慌ててカフェに行くと、テレビの画面には2分前の自分が映っていた。わずか2分差の過去と未来を、2台のテレビ画面を使って重層的に見せるアイデアが秀逸。しかもワンカットの長回しで、笑いあり、アクションあり、恋模様ありの複雑なドラマに仕立ててある。何度でも見たくなる癖になりそうな1本。(藤井克郎)

2020年4月25日(土)より全国順次公開 ※6月5日(金)より全国順次公開になりました   公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/70分)監督・撮影・編集:山口淳太 出演:土佐和成、藤谷理子、朝倉あき ほか 配給:トリウッド © ヨーロッパ企画/トリウッド

◆オススメ記事:【スクリーンの女神たち】『四月の永い夢』主演・朝倉あきさんインタビュー


『ペトルーニャに祝福を』

女性に禁じられた“幸せの十字架”が巻き起こす大騒動

映画『ペトルーニャに祝福を』メイン画像まだ女性の地位が低く、男性優位社会である北マケドニア。美人でもなく太目で恋人なしの32歳のペトルーニャは、セクハラを受けた仕事の面接の帰り道、男性しか参加を許されていない伝統儀式の十字架投げで、思わず“幸せの十字架”をつかみ取ってしまう。だが男たちから猛反発を受け、教会や警察を巻き込んだ騒動に……。ガラの悪い現代風の男たちが持つ古臭い固定観念、保守的な価値観を押し付ける母親、無理解な警察に心が折れそうになりながらも抵抗し、頑固なまでに十字架を手放そうとはしないペトルーニャは強く逞しい。主演女優はコメディ出身。息苦しい世界の生きづらさを、時にシリアスに時にユーモラスに表現する。この物語のラストの先に、進歩と伝統が共存する清々しい世界が待っていると信じたい。(吉永くま)

2020年4月25日(土)より全国順次公開 ※2021年初夏に公開延期となりました 公式サイト
(2019年/北マケドニア・ベルギー・クロアチア・フランス・スロヴェニア/100分)英題:God exists, her neme is Petrunya 監督:テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ 出演:ゾリツァ・ヌシェヴァ、ラビナ・ミテフスカ 配給:アルバトロス・フィルム © Pyramide International

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