3月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2020年03月04日更新
3月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 3/6(金)公開 『サクリファイス』 3/14(土)公開 『透明花火』 3/20(金)公開 『恐竜が教えてくれたこと』 3/20(金)公開 『人間の時間』 3/21(土)公開『カゾクデッサン』 ※2021年2月6日(金)に公開延期 『モルエラニの霧の中』 |
『サクリファイス』
学生映画の域を超えた意欲作
立教大学映像身体学科の課題から始まった企画で、昨年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭では国内コンペティションの優秀作品賞を受賞した。少女のころ、新興宗教団体で東日本大震災を予言した翠が通う大学周辺で、猫が連続して殺される事件が起きる。普通の生活を嫌う女子学生の塔子は、同じ学部の青年、沖田が犯人とにらんで接近するが……。大震災の記憶とカルト教団、さらには若者の戦争志願という今日的なトピックを組み込んで、重層的な物語が展開する。特殊能力を有する若者たちが見る未来図を独創的な映像処理で再現するかと思えば、犯人捜しのサスペンス要素など娯楽性もたっぷりで、学生映画の域をはるかに超えた高邁な志にうなった。(藤井克郎)
2020年3月6日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/77分)監督・脚本・編集:壷井濯 出演:青木柚、半田美樹、五味未知子 ほか 配給:コムテッグ © Récolte&Co.
『透明花火』
美しいタイトルと配役の妙が光る群像劇
新鋭・野本梢が初長編作のメガホンを執り、『死んだ目をした少年』の三浦賢太郎がプロデューサーと脚本を務める、不器用に生きる人間たちの群像劇。ナンパ塾を営みながら祖母と暮らす淳(髙橋雄祐)。24歳で女性経験がないコンプレックスに悩む圭太(清水尚弥)。キャリアウーマンとなった同級生と再会したフリーターの楓(安藤輪子)。親友の恋愛成就の手助けをする女子高生の理恵(根矢涼香)。血の繋がりのない息子との関係に悩む真希(みひろ)。心に葛藤を抱える5人の主人公たちの物語が、交差しながら花火大会の日へと向かっていく……。少し意外とも思える配役と、『透明花火』という美しい矛盾をはらんだタイトルに惹かれ観賞したが、複雑な内面を滲ませる俳優陣の表情に胸を打たれた。自分を偽るとき、現実から目を背けるとき、「本当の自分」は透明な存在になってしまったように弱々しく色を失う。そんな透明な心模様を、かすかに染めていくような花火の柔らかな色彩と音。こんなにも繊細で優しい花火シーンを描く若き才能に注目せざるを得ない。池袋シネマ・ロサで3月13日(金)まで上映中の野本梢監督特集も要チェックだ。(min)
2020年3月14日(土)より池袋シネマ・ロサにて2週間レイトショー
公式Twitter 予告編動画(透明花火) 予告編動画(野本梢監督特集)
(2018年/日本/97分)監督・編集:野本梢 企画・脚本・プロデューサー:三浦賢太郎 出演:髙橋雄祐、清水尚弥、安藤輪子、根矢涼香、みひろ、百元夏繪、土山茜、櫻井保幸、東野瑞希、手島実優、古山憲正
『恐竜が教えてくれたこと』
眩しく輝く少年のひと夏の思い出
アンナ・ウォルツの児童文学「ぼくとテスの秘密の七日間」を映画化。家族とともにバカンスで島にやってきた11歳のサム。「地球最後の恐竜は、自分が最後の恐竜だと知っていたのかな?」という哲学的な疑問に悩む、思春期の入り口にいる少年だ。ある日彼は地元の少女テスに出会い、彼女の “まだ見ぬパパ”をめぐる秘密作戦に協力することになる……。現代の物語でありながら、淡い色彩で描かれる青い海やのどかな街並み、人々のゆったりした時間の過ごし方にはどこかアナログ的な優しさと懐かしさが漂う。多感な少年が経験する初恋と孤独や死に対する不安。少し大人になるための特別なひと夏の出来事は、眩しいほど輝いている。(吉永くま)
2020年3月20日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/オランダ/84分)英題:My Extraordinary Summer with Tess 監督:ステフェン・ワウテルロウト 出演:ソンニ・ファンウッテレン、ヨセフィーン・アレンセンほか 配給:彩プロ ©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH
『人間の時間』
キム・ギドク節全開の欲望渦巻く世界
『嘆きのピエタ』(2012)などの鬼才、韓国のキム・ギドク監督が、日韓で活躍する藤井美菜を主役に迎え、階級社会におけるむき出しの人間性を皮肉たっぷりに描いた。元軍艦のクルーズ船が、恋人と旅行中の女性や国会議員とその息子、彼らに取り入ろうとするやくざに謎の老人など、たくさんの人々を乗せて出港する。人間の欲望が渦巻く夜が明けると船は異空間に浮いていて、どこに向かうのかわからなくなっていた。閉鎖的な社会で人々はどう動くのか。食料が徐々になくなっていく中、特権階級の議員を頂点に各人の私利私欲が衝突するさまが、キム監督ならではのどぎつい描写で紡がれる。あっと驚くラストの仕掛けまで、ギドク節全開の映像世界に刮目した。(藤井克郎)
2020年3月20日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/韓国/122分/R-18+)英題:Human, Space, Time and Human 監督・脚本:キム・ギドク 出演:藤井美菜、チャン・グンソク、アン・ソンギ、オダギリジョー ほか 配給:太秦 © 2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
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『カゾクデッサン』
謎を湛えた家族の姿をさわやかに活写
バーで働く剛太のもとへ、元妻の息子、光貴がやってくる。「交通事故で母の意識が戻らない。声をかけてやってほしい」という光貴の願いに応え、病院で意識不明の元妻と十数年ぶりに再会するが……。撮影現場で照明技師などを務めてきた今井文寛監督が、自己資金で初の長編映画に挑戦した。光貴の出生の秘密をはじめ、さまざまな謎を湛えた家族の姿が、シネスコサイズのワイド画面に合った広がりのあるカメラワークでつづられる。夜の神社や鉄橋下の河原など、光貴の心の揺れを巧みに表現するとともに、サスペンス性をはらみながらさわやかな物語にまとめ上げた構成力も見事。光貴を演じた大友一生のみずみずしさも一見に値する。(藤井克郎)
2020年3月21日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2019年/日本/98分)監督・脚本・プロデューサー:今井文寛 出演:水橋研二、瀧内公美、大友一生、中村映里子、大西信満 ほか 配給:今井文寛 © 「カゾクデッサン」製作委員会
『モルエラニの霧の中』
人の温かみ、土地のぬくもりが伝わる映像詩
『ハーメルン』(2013)などの坪川拓史監督が、居住地の北海道室蘭市を舞台に、場所と人の記憶をたどる7章からなる映像詩を織り上げた。第1話の「冬の章」で水族館のクラゲを見つめていた少年。その母親は、第2話「春の章」では写真館の一室を借りてキャンドルショップを営んでいる。それぞれが誰かとつながっていて、ささやかなハーモニーを奏でる。そんな一つの連環が、モノクロとカラーが入り混じり、画面サイズも思い思いの映像で構成される。音楽も記憶の中枢に訴えるような懐かしいメロディーで、人の温かみ、土地のぬくもりがズシリと伝わってくる。室蘭の何気ない風景も一つ一つがきらめいて見えて、改めて坪川監督の豊かな感性に感じ入った。(藤井克郎)
2020年3月21日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2020年/日本/214分)脚本・監督・音楽:坪川拓史 出演:大杉漣、大塚寧々、水橋研二、菜葉菜、香川京子 ほか 配給:ティー・アーティスト © 室蘭映画製作応援団2020
※新型コロナウィルス感染予防対策のため、2021年2月6日(土)公開に延期
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