11月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2019年10月29日更新
11月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが気になるのは、どの映画!?
LINE UP 11/1(金)公開 『マイ・ビューティフル・デイズ』 11/1(金)公開 『キューブリックに愛された男』 11/2(土)公開 『積むさおり』 11/9(土)公開 『ラフィキ:ふたりの夢』 11/22(金)公開 『テルアビブ・オン・ファイア』 11/29(金)公開 『読まれなかった小説』 11/30(土)公開 『漫画誕生』 11/30(土)公開 『台湾、街かどの人形劇』 11/30(土)公開 『種をまく人』 |
更新情報:11月28日に『種をまく人』を追加掲載しました。
『マイ・ビューティフル・デイズ』
切なさと清々しさが残るティモシー・シャラメ主演の青春映画
ティモシー・シャラメがブレイク前に主演した作品で、彼の初々しい姿が見られる。どこか憂いのあるスティーヴンス先生に恋心を抱く、人付き合いが苦手で無口な高校生ビリー。ある週末、彼はほかの2人の生徒とともに、先生の引率で演劇大会に参加することに。一方先生は出発前に、「ビリーには行動障害があり服薬中」だと校長から告げられる。だが、感情を真っ直ぐにぶつけてくる彼に翻弄され……。本作はどんな痛みを抱えていても、自分を受け入れてくれる人がいるだけで世界が違って見えることを教えてくれる。70年代の挿入歌やおんぼろ車でドライブするシーンなど、作品全体に漂うノスタルジックな雰囲気も魅力的。(吉永くま)
2019年11月1日(金)より公開 公式サイト
(2016年/アメリカ/86分)原題:Miss Stevens 監督:ジュリア・ハート 出演:ティモシー・シャラメ、リリー・レーブ、リリ・ラインハートほか 配給:ファインフィルムズ ©2016Young Dramatists, LLC. All Rights Reserved.
『キューブリックに愛された男』
専属運転手の証言から鬼才の素顔に迫る
『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督がこの世を去って20年。その稀代の才能を約30年間、専属運転手として支え続けたイタリア移民、エミリオ・ダレッサンドロの証言を中心に、鬼才の素顔に迫ったドキュメンタリー映画だ。エミリオはレーサーを目指して英国に渡るが、ドライバーとしての腕を見込まれ、キューブリックに仕えることになる。車の運転だけでなく、どんなくだらない雑用も呼ばれれば駆けつけるという実直さが巨匠に信頼されたゆえんだろうが、インタビューに応じる姿からも朴訥で嘘のない性格がうかがえる。全編ほぼ彼の証言による構成で、作品の断片を全く使ってもいないのに、キューブリックの天才ぶりが伝わってくることに驚いた。キューブリック作品の裏方に徹したレオン・ヴィターリの生き方をモチーフに、芸術の根源に触れるドキュメンタリー『キューブリックに魅せられた男』(トニー・ジエラ監督)も同時公開。(藤井克郎)
2019年11月1日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2016年/イタリア/82分)原題:S is for Stanley 監督:アレックス・インファセッリ 出演:エミリオ・ダレッサンドロ、ジャネット・ウールモア、クライヴ・リシュ ほか 配給:オープンセサミ ©2016 Kinetica-Lock and Valentine
『積むさおり』
夫婦の危機を「音」で表現
特殊メイクアーティストの梅沢壮一監督が、倦怠期の夫婦に訪れた危機を、「音」に焦点を当てて紡ぎあげた意欲作。40分という短い上映時間で、ほぼ夫婦2人だけの出演ながら、極めてふくよかな映像世界が広がる。間もなく結婚5周年を迎えるイラストレーターのさおりは、犬の散歩の途中、薮の中の小さな穴に音が吸い込まれるような体験をする。それ以来、夫が立てる些細な音や言葉が気になってしまい……。何かがこすれるような音が大音量で響く冒頭から、不快感をあおる音声が次から次へと襲いかかる。イラストの仕事がうまくいかないいらいらの表現など、映像の工夫も秀逸。音だけで夫役を演じた木村圭作の存在自体が不快に見えてくるから不思議だ。(藤井克郎)
2019年11月2日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2019年/日本/40分) 監督・脚本・編集:梅沢壮一 出演:黒沢あすか、木村圭作 ほか 配給:「積むさおり」製作委員会 ©「積むさおり」製作委員会
『ラフィキ:ふたりの夢』
虹色の映像美でケニヤ社会の溝に迫る
昨年、ケニヤ映画として初めてカンヌ国際映画祭に選出された作品で、カラフルな映像美とポップなリズム感でケニヤ社会に横たわる深い溝に迫る。将来は看護師を夢見る少女、ケナは、国会議員を目指す父親の対立候補の娘、ジキの奔放な姿に興味を抱く。やがて互いに惹かれ合う2人だが、同性愛は違法とされているケニヤでは、彼女たちの夢がかなうはずがなかった。虹色に染め上げたジキのドレッドヘアに街角の階段でのダンスシーンなど、おしゃれな味つけに魅了される。一方で、古いしきたりに宗教観、世代間格差、男女差別などあらゆる問題がここではすべて同次元に集約されるという展開が鮮やかで、これが長編2作目という女性監督の無限の才能を感じた。(藤井克郎)
2019年11月9日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/ケニヤ、南アフリカ、フランス、レバノン、ノルウェー、オランダ、ドイツ/82分)原題:RAFIKI 脚本・監督:ワヌリ・カヒウ 出演:サマンサ・ムガシア、シェイラ・ムニヴァ、ジミ・ガツ、ニニ・ワシェラ ほか 配給:サンリス ©Big World Cinema.
『テルアビブ・オン・ファイア』
イスラエル人とパレスチナ人がメロドラマの脚本を巡り対立!?
ヴェネチア国際映画祭作品賞<InterFilm部門>受賞作。主人公は、パレスチナの人気ドラマの言語指導を担当する気弱な青年サラーム。ある日、検問所でイスラエル軍司令官アッシに脚本家だと嘘をついたことから、脚本のアイデアを強引に押し付けられるようになる。アッシの妻はドラマの大ファンだったのだ。だがその結末をめぐり、サラームは窮地に立たされる。果たして彼が振り絞った“笑撃”のエンディングとは!? 散りばめられたユーモアの中に時折漂う緊張感は、この地に横たわる厳しい現実を想起させる。メロドラマの制作現場という緩いシチュエーションのもと、その現実を上手くコメディに仕立て上げたユニークな作品。(吉永くま)
2019年11月22日(金)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/ルクセンブルク・仏・イスラエル・ベルギー/97 分) 監督:サメフ・ゾアビ 出演:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニフ・ビトンほか 配給:アット エンタテインメント © SamsaFilm -TS Productions -Lama Films -Films From There -Artémis Productions C623
『読まれなかった小説』
溢れ出る台詞と豊かな映像で、父と息子の“確執と絆”を描く人間ドラマ
『雪の轍』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作。大学卒業後、トロイ遺跡近くの故郷に戻ったシナンは、処女小説を出版しようとするが誰にも相手にされない。教師の父イドリスは競馬好きで、シナンはそんな父を疎んじている。彼らの心は交わらないように見えたが、2人を繋いだのは意外にもシナンの小説だった。口だけは達者な青年の若さゆえの痛々しさと、権威を失墜した父親の情けなさが行きつく先を、カメラは突き放すことなく見守り続ける。膨大な台詞と豊かな映像で父と息子の絆を描く、見応えある人間ドラマだ。(吉永くま)
2019年11月29日(金)全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2018年/トルコ・フランス・ドイツ・ブルガリア・マケドニア・ボスニア・スウェーデン・カタール/189分)原題:Ahlat Agaci 英題:The Wild Pear Tree 監督・編集:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン 出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー 配給:ビターズ・エンド © 2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film
『漫画誕生』
日本の漫画業界の礎を築いた男の半生
明治から昭和にかけて活躍した日本初の漫画家・北沢楽天の半生を描く。印税契約、登場人物の商品化、初めて少女を主人公とした定期連載漫画など現代の漫画業界の礎を築き、彼の作品は手塚治虫や長谷川町子など後世の漫画家たちに多大な影響を与えたという。今や日本文化を代表するほどになった漫画のルーツを知ることができる。彼を時事新報に誘った福沢諭吉のハイカラな生活や、「フクちゃん」の作者・横山隆一とのエピソードも興味深い。世間にあまり知られていない彼だが、その洗練された作品は一見の価値あり。検閲官の前で漫画への情熱や愛を語るイッセー尾形の演技は圧巻。(吉永くま)
2019年11月30日(土)全国順次公開 公式サイト
(2018/日本/118 分)英題:THE MANGA MASTER 監督:大木萠 出演:イッセー尾形 、篠原ともえ、稲荷卓央 配給:アースゲート ©漫画誕生製作委員会
『台湾、街かどの人形劇』
伝統芸能をめぐる葛藤の記録
台湾に伝わる指人形劇「布袋戯(ほていぎ)」の人間国宝、陳錫煌(チェン・シーホァン)に密着したドキュメンタリーで、台湾ドキュメンタリー界の第一人者、楊力州(ヤン・リージョウ)監督が10年の月日を費やして完成させた。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作『戯夢人生』のモデルで出演者でもあった人形師、李天禄(リ・ティエンルー)の長男として生まれた陳は、13歳から父について人形遣いの修業を積む。だが80歳を超えた今もなお、父の影に引きずられていた。父と子、師匠と弟子の葛藤のドラマを中心に、消えつつある伝統芸能の魅力、奥深さを多角的に掘り下げる。中でも奥義ともいえる微妙な指の動きを、人形をまとわずに演じてみせるところなど、この誇るべき芸術を映像記録として後世まで残したいという陳の気概が伝わってきて、ジーンと胸に迫る。侯孝賢監修。(藤井克郎)
2019年11月30日(土)より全国順次公開 公式サイト
(2018年/台湾/99分)原題:紅盒子-Father 監督:楊力州 出演:陳錫煌、呉栄昌、黄武山、薛湧 ほか 配給:太秦 ©Backstage Studio Co.,Ltd.
『種をまく人』
家族が背負う重荷を観客も一緒に考える
油絵も手がける竹内洋介監督が、ゴッホの苦難に満ちた人生と東日本大震災の被災地に咲いていたひまわりに着想を得て撮った初長編作品。2016年のテッサロニキ国際映画祭(ギリシャ)で監督賞などに輝いた。久しぶりに病院から戻った光雄は、弟の裕太一家の歓迎を受ける。明くる日、10歳の娘の知恵から光雄と一緒に遊園地に行きたいとせがまれた裕太夫妻は、知恵と障害を抱える幼い妹の一希の2人を光雄に預けるが……。遊園地で何が起きたかを見せることで、それぞれの人物が背負うその後の重荷を、観客も一緒になって考えざるをえないという語り口が見事。知恵を演じた竹中涼乃のリアルな表現もあいまって、何ともやるせない刮目すべき作品に仕上がった。(藤井克郎)
2019年11月30日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開 公式サイト
(2019年/日本/117分)監督・脚本・編集:竹内洋介 出演:岸建太朗、足立智充、中島亜梨沙、竹中涼乃 ほか 配給:ヴィンセントフィルム ©YosukeTakeuchi
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