『獣は月夜に夢を見る』〜洗練された映像美、北欧の小さな漁村で生きる母娘の哀しい宿命〜

  • 2016年04月17日更新

19歳の孤独な少女の宿命を描いた、ホラーミステリー。北欧の海を背景に、少女の内面的な獰猛さと純粋さを静かに映し出す。ラース・フォン・トリアー監督の「奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で美術アシスタントをつとめ、短編映画などで評価されてきたヨナス・アレクサンダー・アーンビー監督、初の長編映画。クラシカルな映像美が印象的な作品。
4月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
(C) 2014 Alphaville Pictures Copenhagen ApS

口をきけない車椅子の母、村人の冷酷な視線。19歳の少女の身に起こる異変。
世間から隔絶されたような、美しく小さな漁村で、19歳のマリー(ソニア・ズー)は、父(ラース・ミケルセン)と病気の母(ソニア・リクター)と3人で暮らしていた。村の人々は、美しいが口もきけず、ほとんど身動きすらしない車椅子の母親を、なぜだか恐れ避けている。父はマリーに母親の世話をさせるものの、病気について何の説明もしてくれない。定期的にマリーも医師の検査を受けさせられていたが、ある日、自ら胸元にあざを見つけ、自分の身体に異変を感じ始める。同じ頃、マリーは勤め先で出会った孤独を抱えた青年ダニエル(ヤーコブ・オフテブロ)に恋心を抱き、少しずつ距離を縮めていく。やがて、母の病気や、過去に村で起きた凄惨な事件について知り始めるマリー。そこにはマリーの宿命を示唆する、恐ろしい秘密が隠されていた…。

 

変わりゆく少女の内面を体感するような、恐ろしくも美しい映像
広大な海、グレーの曇り空。クラシカルで沈鬱な、かつ美しい北欧の風景。この海や空とともに、自分の恐ろしい運命に気づく、少女の内面も映し出す。彼女の主観や内面のイメージを挟むことで、体の異変だけでなく、内面的にも得体の知れない何かが芽生え、変わりゆく様が、自らの身に起こったようにも感じられる。哀しい宿命に捕らえられた切なさが、じわじわと身にしみてくるようだ。



数奇な運命に囚われた少女の、激しく残酷な生き様を描く
本作が初めての長編作品となるヨナス・アレクサンダー・アーンビー監督。もともとラース・フォン・トリアー監督の『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などで美術アシスタントをつとめていただけあって、本作もいずれのシーンを切り取っても絵になる美しさだ。若干ネタバレとも思えるタイトルだが、本作は、これを仕掛けとせず、一つの事象として扱っているのだろう。数奇な運命のもとに生まれた19歳の少女が、内なる獣を抱えながら懸命に生きようとする姿を寓話的に、かつ内面や心理を強烈に浮かび上がらせている。スレンダーな肉体でマリーを演じるソニア・ズーは、新人だが、神秘的な雰囲気で「演技すること」を感じさせない、圧倒的な存在感と表現力をたたえている。

 

▼『獣は月夜に夢を見る』作品・公開情報
(2014年/デンマーク・フランス/シネマスコープ/85分)
原題『When Animals Dream』
監督・脚本・原案:ヨナス・アレクサンダー・アーンビー
主演:ソニア・ズー、ラース・ミケルセン、ソニア・リクター、ヤーコブ・オフテブロ
●『獣は月夜に夢を見る』公式サイト
配給:クロックワークス
4月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
(C) 2014 Alphaville Pictures Copenhagen ApS

文:市川はるひ

 

 

 

  • 2016年04月17日更新

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