【注目の映画人にインタビュー!】『氷川丸ものがたり』主演声優 河本啓佑さん

  • 2015年09月11日更新

建造85年を迎え、現在は博物館船として横浜の山下埠頭に係留される氷川丸。その波乱に満ちた歴史を、一人の乗組員の成長と共に描いた長編アニメーション映画、『氷川丸ものがたり』が全国順次公開中(一部地域上映終了)だ。

日米航路の豪華貨客船として誕生した氷川丸は、戦時中は病院船として幾度も戦火の海を渡り、終戦後は復員船、引揚船として多くの人々の命を運んだ。時代の荒波を生き抜いた船とその乗組員たちの姿を史実とオリジナルストーリーを交えて描くこの作品は、現代に生きるわたしたちと次世代を担う子どもたちに、海の魅力、平和の尊さ、船の仕事の厳しさと素晴らしさを語りかける。

主人公・平山次郎の青年時代を演じたのは、河本啓佑さん。『ISUCA』の浅野真一郎役、『東京ESP』東京太郎役、『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』ラウル・チェイサー役などで人気を博し、現在はCS放送のバラエティー番組『声優男子ですが・・・?』のレギュラーを務めるなど、今もっとも注目を集める若手声優のひとりだ。そんな河本さんに、次郎役や作品にかけた思いを語っていただくとともに、その素顔の魅力にも迫った。


「100パーセント全力を出すだけでは足りない、101パーセントから先を出して役に取り組まないといけないと思いました」

― とても力強く感動的な作品でした。各地の上映でも大きな反響を呼んでいるそうですね。

河本啓佑さん(以下、河本):ありがとうございます。普段アニメを観ないという方からも感想をいただいたり、たくさんの方が映画に感動したと言ってくだって、本当にうれしいです。この作品に参加できたことに感謝しています。

― 主人公の平山次郎役に決まった時は、どんな気持ちでしたか?

河本:実は、出演オファーをいただいた時点では、配役を知らなかったんです。台本を受け取る時に、所属事務所のスタッフから「主役だからがんばって」と言われて、「まさか!?」って。台本の青年時代の平山次郎役に自分の名前が書いてあるのを見た瞬間、驚くと同時に急激なプレッシャーに襲われました。

― 何か大きなことに挑戦するんだ、というような気持ちになられたのでしょうか?

河本:はい。どんな役を演じるにも責任とプレッシャーは感じますが、主役というのはさらに重みがあるというか。内容的にも戦争や平和という大きなテーマを含んだメッセージ性の強い作品ですし、これまでの自分の経験や知識から模索したものでは役づくりは成立しないだろうと思いました。100パーセント全力を出すだけではきっと足りない、101パーセントから先を出して役に取り組まないといけないと思いました。

― 河本さんがこれまで演じてきた役は、草食系の好青年というイメージが強いのですが、次郎のような昭和の日本男児の役は初めてではないでしょうか。新境地とも呼べる役なのでは?

河本: そうですね。これまで演じてきた役は、どちらかというと「巻き込まれ型」というか。次郎のように見習いから司厨長になり、自分が上に立って人をまとめる立場になるというのは今までの役にはなかった部分です。次郎を演じることは新しい挑戦でもありましたし、新鮮でとてもやりがいがありました。

― どのように役を自分の中に落とし込んでいったのでしょうか?

河本:台本をいただいてから収録までの間に原作本の「氷川丸ものがたり」(伊藤玄二郎著 かまくら春秋社)と台本を読み込みました。ただ、今回の役は同じ人物の少年時代を日下ちひろさんが演じられるので、自分一人では役をつくれない部分もありました。ある程度は自分の中で次郎という役を固めていって、現場で日下さんが演じる次郎を聞いて「このセリフは日下さんが演じられるとこういうニュアンスになるんだ。じゃあ、大人になった次郎にはこうつながっていくだろう」というのを考えながら、収録に臨みました。

― 河本さんからみた平山次郎というのはどういう人物ですか?

河本:少年のまま大人になったような、真っ直ぐで正直な人間だと思います。氷川丸が本当に好きで、その氷川丸をないがしろにする人が現れると怒りを隠せない。やんちゃでそそっかしい部分もあるけれど、そんな熱血漢なところが次郎らしいと思います。

― 次郎をはじめとする乗組員全員が仕事に誇りをもち、同時に氷川丸の誇りを守っている姿が大変すばらしいと思いました。

河本:おっしゃる通りだと思います。次郎だけではなく、乗組員全員が氷川丸という船と、自分の仕事に誇りをもっていて、氷川丸を心から愛していて。だからこそ、戦争に突入して病院船に改造された時には、とてもやるせない気持ちになったと思うんです。でも、今、氷川丸にできることを精一杯やるしかない、船としての役回りは変わっても氷川丸の誇りだけは全員で守っていこうという気持ちで団結しているんです。その絆は本当にすばらしいと思います。

― 完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

河本:自分の演技について客観的に観るのはなかなか難しいのですが、映画を観た一観客としては、映像がすばらしく、海と氷川丸の魅力、登場人物の生き様がリアルに描かれていて、すごく見ごたえのある作品だと思いました。アフレコの時には映像が完成していない部分もあったので、できあがった作品を観た時の衝撃はすごく大きかったですね。

― これから河本さんの故郷である岡山県や東北でのロードショー上映も予定されていますし、3年ほどかけて公民館や学校での上映運動も行われるそうですね。長きにわたって残っていく作品だと思いますし、河本さんにとって思い入れの大きい作品になったのではないでしょうか?

河本:本当に大切な役と作品に巡り会えたと思っています。小さいお子さんから、実際に戦争を知っている氷川丸と同年代の方まで、多くの方に観ていただきたいです。人それぞれに感じることは違うと思いますが、この作品をきっかけにいろいろなことを考えたり、また話し合う機会にしてもらえたらうれしいですね。自分自身もこの役は演じて終わりというものではないと思いますし、この作品が伝えたかったことを、今後も考え続けていかなければと思っています。

 

「良い声の人たちの中に、自分みたいな普通の声の人がいたら逆に目立つんじゃないかと、無理矢理に理由づけてモチベーションにしていました」

― 声優を目指したきっかけについて教えてください。

河本:子どものころからアニメが大好きで、その世界に入り込みたいっていう願望があったんです。高校2年で進路を決める時期に、ちょうど『機動戦士ガンダムSEED』にのめり込んでいて。好きなアニメに関わる仕事がしたいと思いました。じゃあ、何になろうって考えた時に初めて「声優」っていう職業が明確に思い浮かんで。もうほぼ直感というか、迷いなく決めてしまいました。

― 自分が良い声だということにも気がついていたんですよね?

河本:いや、それはないですね。声優さんの声はメチャクチャかっこいいと思っていたし、それと比べると自分の声は特長的でもないし。両親に声優になりたいって言った時も、はじめは無理だと反対されました。でも、それ以上に、声優になりたいっていう気持ちの方が強くなっていて、どうしてもあきらめられなかったんです。良い声の人たちの中に、自分みたいな普通の声の人がいたら逆に目立つんじゃないかと、無理矢理に理由づけてモチベーションにしていました。

― どのようにご両親を説得したのですか?

河本:ことあるごとに声優になりたいって口に出して、ジャブを打ち続けました。最終的には新聞奨学生制度を使って専門学校に行くから許してくれと説得したんです。

― 根性の勝利ですね! 今のご活躍はご両親も喜んでいらっしゃるのではないでしょうか。

河本:はい。両親ともに今はすごく応援してくれていて、僕の出演した作品がオンエアされると、すぐに「観たよ」って母親からメールがくるんです。僕より僕の出演作品について詳しいんじゃないかと思うくらい(笑)。ネットにかじりついて僕のことを検索してくれているみたいで。うれしいやら恥ずかしいやら……。

― すごくモテる役を演じられることが多いですが、河本さんもご自身もとても端正なルックスをされていて、やはりモテモテですよね?

河本:いやいや、ぜんぜんです(笑)! 褒めていただけたのは、ありがたいし素直に嬉しいですけど、中身が大人でかっこよくならないとモテないんだなって日々感じています。もっと成長して人として魅力のある男になりたいですね。以前、ある方から「声は人の身也(なり)」という言葉をいただたんですが、本当にそうだと思うんです。さまざまな経験を重ねれば、より深く役に入り込んで演じることもできると思いますし。今はまだモテるための修行中です。

― 好きな女性のタイプは?

河本:明るくて優しい人が理想です。あとは、自分が料理をするのが好きなので、もし料理ができる人なら一緒につくれたりして楽しそうだなと思います。でも、料理できなくても、僕がつくってあげるので大丈夫ですよ!

― 河本さんにお料理をつくってもらえたら幸せですね! 声優として演じてみたい役や、声優以外にチャレンジしたいお仕事はありますか?

河本:自分にやれることならば、どんな仕事でも全部やっていきたいという気持ちはあります。いろいろなことにチャレンジしていきたいですね。演じてみたい役はめちゃくちゃクールで動じないかっこいい役をやってみたいです。これまではバタバタしたり、振り回される系の役が多かったので、真夏でも汗をかかないんじゃないかと思うくらい涼しげなキャラクターを演じてみたいです(笑)。

― これからのご活躍が本当に楽しみです。本日はありがとうございました!

 

《ミニシア恒例、靴チェック!!!》
海と氷川丸へのリスペクトを込めて、さわやかなマリンルックで登場してくれた河本さん。アクアブルーのスニーカーがとってもお似合いです。パンツにはさりげなく“いかり”の刺繍も。センスの良さと、さりげない気づかいに、取材班もすっかり河本さんのファンになってしまいました!

 

 

◆『氷川丸ものがたり』作品・公開情報
『それいけ!アンパンマン』劇場版シリーズなどを手がけた大賀俊二氏が監督を務め、アニメーション制作を虫プロダクションが手がける長編アニメーション。
【ストーリー】1930年5月、貨客船「氷川丸」が横浜港からアメリカのシアトルに向け、処女航海に出港した。岸壁には、その様子を熱い目で見つめる13歳の平山次郎がいた。関東大震災で母を亡くした次郎は、南京そばの屋台を営む父の源三を手伝いながら、二人で暮らしている。ある晩、屋台で手を動かしながら、氷川丸に乗ってみたいと熱く語る次郎を、微笑んで見つめる二人の紳士風の客がいた。彼らは、氷川丸の秋永船長と松田事務長であり、次郎は氷川丸の見習い調理員として雇われる。かくして、次郎の氷川丸での日々が始まるのだが……。

(2015年/日本/90分)
監督:大賀俊二
原作:「氷川丸ものがたり」著・伊藤玄二郎(かまくら春秋社)
ナレーション:戸田恵子
主題歌:『彼方』小田和正
製作:氷川丸ものがたり製作委員会、株式会社かまくら春秋社、虫プロダクション株式会社
アニメーション制作:虫プロダクション
配給:氷川丸ものがたり製作委員会 / 有限会社関西プロデュースセンター
© 氷川丸ものがたり製作委員会

※詳しい上映スケジュールは公式サイトをご覧ください。
『氷川丸ものがたり』公式サイト

 

取材・編集・文:min スチール撮影:ハルプードル

  • 2015年09月11日更新

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