『コングレス未来学会議』〜誰も見たことのない未来! サイケデリックで圧倒的なトリップ体験〜

  • 2015年06月19日更新

『戦場でワルツを』で、自らの戦争体験を描いた鬼才アリ・フォルマン最新作。映画に出演するのは実態のないスキャンデータたちに変わった、そう遠くない未来のハリウッド。そしてさらに「娯楽」は恐るべき変化を遂げようとしていた……。そんな世界で人間は、アートは、愛は、性はどうなってしまうのだろう。「世界がどんなに変わっても揺るがない愛」とはどんなものなのか?『惑星ソラリス』の原作で知られるSF界の巨星・レムの小説を、舞台をハリウッドに変えて映画化。極彩色のアニメーションを駆使し、危険で魅惑的な未来を壮大なスケールで描く。サイケな多層世界に飛び込んだようなトリップ感! 混乱と浮遊感に惑わされる、知的興奮にあふれた問題作。 6月20日(土)より新宿シネマカリテにてロードショーほか全国順次公開© 2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP

 
シングルマザーである女優ロビンの苦悶と決意。その果てに立ちはだかる、変わり果てた驚愕のハリウッド。
2014年。ハリウッドは俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明。40歳を過ぎた女優ロビン・ライト(ロビン・ライト)にもスキャンの声がかかった。はじめは受け入れる気のない彼女だったが、今や旬を過ぎ仕事は激減、さらにシングルマザーとして難病をかかえる息子アーロン(コディ・スミット=マクフィー)を養わなければならない現実があった。代理人であるアル(ハーヴェイ・カイテル)の説得もあり、悩んだ末にロビンは巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを映画会社・ミラマウント社に売り渡した。その契約のためにロビンは二度と演技ができなくなり、一方スクリーンでは若いロビンのデータが出演を拒んできたSFアクション映画のヒロインを演じ作品を大ヒットさせた。さらに 加速的に文化は発展を続け、20年後の契約更新の時期、ロビンは60歳代に。ミラマウント社から招待を受けたロビンは、ある決意を胸にハリウッドに再び乗り込む。しかしそこはアニメーションしか存在できないという驚愕のパラダイスと化した世界だった……。

厳しい現実と理想的な幻想。いずれを生きるか、という哲学的テーマも。
アニメーションが話題の本作も、作品冒頭からかなりの長さが実写部分。プリンセスのようにハリウッドで脚光浴び、時を経て母親役になった役柄そのままのロビン・ライトが、リアルに演じる。ハーヴェイ・カイテルらも感情豊かに演じ、イマジネーションあふれる本作にしっかりとした輪郭を与えている。そして中盤からのアニメーション部分も非常に丁寧に作りこまれ、細部にわたって意味を持っているという。ちょっと見、キッチュで懐古的な味わいをもつスタイルは、1930年代に名作を生んだフライシャー兄弟(『ポパイ』『ベティ・ブープ』、初代『スーパーマン』などのカートゥーン映画を制作)へのオマージュ。アニメーション制作現場は8カ国にまたがり、各地から届いた原画を調整し、時間をかけて制作された。このアニメーションの世界は、とてつもなく美しい明るい未来だ。あふれる自然、空中庭園、すべてが極彩色。あらゆる肌の色や形状の人々。伸びやかに羽を広げる鳥、そして空飛ぶ建築物、主人公たちも空を飛ぶ……。全ては自由、だがこれは幻想の世界。幻覚の外には現実がある。いずれ死ぬという宿命、自由意志、加齢……。幻想がすべて「自分の心の中だけの存在なのだ」と気づくときの虚しさたるや。このギャップが、観ているものをゾクゾクさせる。そんな思いを心に刻まれたうえで、あなたなら現実と幻想、どちらで生きる選択をするだろう。

 
恐ろしくも魅惑的なサイケデリックな世界。ストーリーの中で現実と幻想が交錯し、心地よい混乱へ導かれる。
原作はスタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議』。ただし、本作は原作とは設定がかなり変わっている。アリ・フォルマン監督はインタビューの中で「古典を翻案するなら、自由になる勇気が必要だ」と語っている。小説での「化学薬品による独裁体制」は「エンターテインメント業界における独裁体制」におきかえられている。そのアイディアの中で、もう若くないある映画女優がストーリーに巻き込まれていくというテーマが生まれたという(原作では、主人公は探検家であり科学者の男性)。幻覚のサイケデリックな描写が多量になだれ込む圧巻のアニメーション。その「トリップしたような」激しいインパクトは完全に大人向き。恐ろしくも魅惑的なサイケデリックな世界。そんな光景にひたりながら「真実」や「現実」について考えていると、何が「主人公が作り出した幻覚」なのか「主人公は目が覚めているのか」も混乱してゆく。毒とも癒しともなるこの体験は、アルコールに酔う以上に心地よい。ぜひスクリーンで味わっていただきたい。

 

▼『コングレス未来学会議』作品・公開情報
2013年/イスラエル・ドイツ・ポーランド・ルクセンブルク・フランス・ベルギー/120分/カラー/英語/DCP・BD
原題:The Congress
監督・脚本:アリ・フォルマン
原作:スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議』
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン
出演:ロビン・ライト、ハーヴェイ・カイテル、ジョン・ハム、ポール・ジアマッティ、コディ・スミット=マクフィー、ダニー・ヒューストン、サミ・ゲイル ほか
配給・宣伝:東風、gnome
『コングレス未来学会議』公式HP
6月20日(土)より新宿シネマカリテにてロードショーほか全国順次公開
© 2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP

 

文:市川はるひ

 

 

  • 2015年06月19日更新

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