『この映画を観れば世界がわかる』発売記念トークイベント―蓮實重彦、北野武、ジャ・ジャンクー。 東京フィルメックスプログラムディレクターの節目となる映画人達

  • 2014年11月21日更新

いよいよ11月22日より第15回東京フィルメックスが開幕。節目となる第15回の映画祭開催を記念して、東京フィルメックス初の単行本『この映画を観れば世界がわかる』が発売されました。今回は11月19日に行われた東京フィルメックス プログラム・ディレクターの市山尚三さんと共同通信社編集委員の立花珠樹さんによる『この映画を観れば世界がわかる』発売記念トークイベントの模様をレポートします。東京フィルメックスプログラムディレクターである市山尚三さんの“節目となる映画人との出会い”そして15回目を迎える東京フィルメックスの見逃せない作品についてたっぷり語っていただいています。



蓮實重彦さんの作る人の目線から語る映画論
立花珠樹(以下立花):大学時代に蓮實(重彦)さんの授業を受けられていらっしゃいますね
市山尚三(以下市山):不勉強でゼミを受けるまで、そこまで有名な人とは知らなかったのですが、面白そうだなと思ってゼミにいったら、たくさんの人がいました。当時、小津安二郎の本が出たばかりで信者と呼ばれる方も多かったようです。その時のテーマというのが50年代日本映画でしたが、その授業が後の人生に影響を与えましたね。
立花:確かに50年代は日本映画の黄金期ですね。
市山:ゼミでは小津安二郎監督や溝口健二監督の作品を観る一方、中川信夫監督やマキノ雅弘監督など娯楽映画にも触れていました。中でも忘れられないのが「高原の駅よさようなら」という作品です。中川監督作品の代表作にははいってないと思いますが、この作品を蓮實さんが大真面目に分析されていました。影の付け方から構図から作品を観ることによって、真剣に撮られていた作品だとわかったのですね。講義を聴きながら「こんな世界があったのか」と感銘を受けました。蓮實さんは映画の現場の経験がある方ではないけれど作る人の目線から語るような授業は、それまで読んでいた批評とは違うものでした。蓮實さんの生徒には立教大学出身の黒沢清さん、周防(正行)さん、青山(真治)さん、塩田(明彦)さんや今回フィルメックスに出品される篠崎誠さんなど多くの作家がいらっしゃいますが、それは蓮實さんの“作っているものの目線からの分析”の影響を受けているのではないかと思います。
立花:そういう見方を教えてもらうということは作家としては大きなことですね。
市山:その授業がなければそれほど映画にのめりこむこともなかったですね。



初監督の北野武さんをみてこんなすごいことがあるのかと驚きました
立花:北野武監督の『その男凶暴につき』の現場に立ち会われたそうですね。
市山:この作品ではプロデューサーの奥山(和由)さんの助手をしていました。初監督の北野武さんを見てこんなすごいことがあるのかと驚き、大きな転換点となりました。
立花:現場の取材をしていると、魔法がかかったようにすごいものが出来上がる現場がありますよね。
市山:この作品はもともと深作欣二監督が撮られるということで準備をしていたものでした。深作さんと野沢(尚)さんが作られた脚本を北野さんがどんどん変えていって、派手なところをどんどんそぎ落としていくと、全く別の映画になった。深作監督が監督をされれば別の意味で面白い映画になったと思いますが、(現場で)別の方向のすごい映画が出来上がるということがあるのかという驚きがありました。



ジャ・ジャンクー監督の出会いはベルリンのレストランで
立花:市山さんがプロデュースを手掛けられたジャ・ジャンクー監督が(東京フィルメックスの)審査員長をされます。監督の作品『長江エレジー』は素晴らしい映画でした。揚子江の三峡ダムという大工事をしている場所を舞台にした物語で、映画の中に社会が映し出されています。ジャ・ジャンクー監督についてお話いただけますか?
市山:ベルリン国際映画祭でデビュー作の『一瞬の夢』を観てすごい監督だと思っていた矢先に、たまたまベルリンのレストランで会いました。その時、私は侯孝賢監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』という作品をプロデュースしている真っ最中でした。 ジャ・ジャンクーは侯孝賢の大ファンということで興味をもってもらったみたいです。海外のプロデューサーを探しているということで話したのが最初でした。送られてきた脚本は中国の検閲を通らなかったのでアンダーグラウンドでクランクインしました。
立花:中国では未公開ですか?
市山:中国では未公開です。今回のフィルメックスでは『ジャ・ジャンクー、フェンヤンの子』というドキュメンタリーが上映されます。ブラジルのウォルター・サレス監督がジャ・ジャンクーを追ったドキュメンタリーで、この中でも検閲について話しているので参考になると思います。そのあと、『青の稲妻』『世界』『長江エレジー』と続きます
立花:最新作『罪の手ざわり』でもわかるように、中国で現在起こっている問題を扱っている作家ということですね。
市山:上流階級ではない一般の人たちの目線で撮っている、その部分は一貫している監督ですね。



ここで22日から始まる第15回東京フィルメックスでこれだけは見逃せない市山さんが強力にプッシュしている作品について話は続きます。

1.『ディーブ』 Theeb-オイルマネーから生まれた映画を見逃すな

ヨルダン人の新人監督作品です。アブダビやカタールのドーハ,ドバイなどの映画祭では助成金を作っています。オイルマネーを文化活動に使っており、そこで多くの作品が生まれているのです。(中東地域は)日本のニュースを見ていると危険な地域だと思われますが、行ってみると意外にそんなに危険ではなかったりします。そこには普通の人たちが普通の生活をしている。それを恐れて知らないでいるともったいない気がします。映画はその土地に行かなくても体験ができ、危険であるというイメージを変えてくれるものではないでしょうか。


2. 『扉の少女』(仮題) A Girl at My Door / DOHEE YA扉の少女ペ・ドゥナんが映画祭に登壇!見逃すな

ペ・ドゥナさんとキム・セロンさんという子役出身の女優さんの共演が素晴らしい。ペ・ドュナさんはご本人から主席したいというお申し出をいただき、今回映画祭に来ていただくことになりました。Q&Aにも登壇されます。






3. 『野火』 Fires on the Plain / 野火-ベネチア国際映画祭の話題作の日本初上映を見逃すな
市川崑監督の作品とは色々な意味で違う作品ですね。もちろん原作は同じですが、同じ原作から派生した別の映画という感じです。リメイクというよりも別の視点からの映画化といえるでしょう。市川作品は俳優の演技のぶつかり合いがトピックでしたが、今回の塚本晋也作品は沖縄、フィリピンで撮影しており、雄大な自然の中でも血みどろの戦闘が行われ“自然の中の人間”というのがより強く出ています。今回の上映が日本プレミアになります。© SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER



4. 特集上映(2) 1960 -破壊と創造のとき-DVDになっていない60年代の洒落たサスペンスを見逃すな
60年代は新人監督がたくさん出て松竹ヌーベルバーグと呼ばれる時代ですが、その中でも今まで顧みられていないもの髙橋治監督と森川英太朗監督にクローズアップしています。中でも『死者との結婚』はウィリアム・アイリッシュ原作の洒落たサスペンスです。DVDも出ていませんので、この機会にぜひご覧ください。(C) 1960松竹




文・編集・イベント撮影:白玉

  • 2014年11月21日更新

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