『書くことの重さ~作家 佐藤泰志』-幻の小説家はいかに生き、書き続けたか

  • 2013年10月08日更新

2010年に公開された『海炭市叙景』(加瀬亮主演・熊切嘉和監督)は、原作者・佐藤泰志の故郷である函館市の有志の発案により制作された映画である。この映画が話題を集め、絶版となっていた佐藤泰志の過去の著作が復刊される運びとなった。村上春樹、中上健次らと並び評されながら賞に恵まれず、41歳で自ら命を絶った小説家、佐藤泰志。本作『書くことの重さ』は、文学と真摯に向き合い、文学に苦悩し続けた泰志の生きざまを描いたドキュメンタリーである。いま改めて評価され直しつつある現状に泰志は何を思うのか―知り得ぬ故人の感情に、思いを馳せずにはいられない1作だ。



ビートルズを聴きながら書いた小説『きみの鳥はうたえる』から物語は始まる
「芥川賞候補」「有島文学賞」「上京」「海炭市叙景」。本作では4つのテーマを軸に、再現ドラマを交えて佐藤泰志の半生が描かれる。中学2年の文集に「芥川賞作家になる」という目標を書き、高校時代は有島文学賞を2度受賞。上京して通った大学では同人誌に力を注ぎ、北海道の文芸誌から一般の文芸誌へと次第に活躍の場を広げていった作家は、5度もノミネートを受けながら終に芥川賞をとることなくこの世を去った。「仕事というものは何1つ軽いものはない。身を削らない仕事はない」。本作の中で、「書くことの重さ」について芥川賞作家の堀江敏幸はこう語っている。佐藤泰志もまさに、肉体と精神を削りながら作文用紙にペンを走らせていたのだろう。泰志が遺した濃密で硬質な文章は、ひっそりと生き続け、いま再び脚光を浴びている。文学に人生を傾け生き急いだのではなく、生まれるのが早すぎたのかもしれない。



雪をかぶった路面電車が走る街・函館への想い
泰志の父母は、当時青森への連絡手段だった青函連絡船を往復して、青森産の黒石米を運び地元で売りさばく「かつぎ屋」として生計を立てていた。かつぎ屋とは、戦後の食糧難の中で、食糧や生活物資などの運送を商売にしていた人びとのことである。両親が日々乗り込んでいたのと同じ青函連絡船に乗って、泰志は20歳の時に上京する。 『そこのみにて光輝く』や『海炭市叙景』など、函館を舞台にした小説に書かれているのは、短い夏と長く重苦しい冬という厳しい自然環境の中で生活する人びとの姿である。他に行き場のない状況の中で生にしがみつく姿、と言い換えてもいいかもしれない。本作の冒頭、仲代達矢のナレーションによって語られる通り、「生まれ育った街に愛憎入り混じる想いを抱えていた」作家は、それでも20年間過ごした街を書かずにはいられなかった。疎ましく思うほどの故郷を持たない者の目に、佐藤泰志が子どもの頃から見続けてきた函館の海はただ広く美しいものにしか映らない。煩わしくも振り切れない故郷を持つ人たちの目には、果たしてどのように映るのだろうか?



▼『書くことの重さ~作家 佐藤泰志』作品・公開情報
プロデュース・監督:稲塚秀孝
語り:仲代達矢
出演:佐藤泰志、加藤登紀子、村上新悟(佐藤泰志)
協力:無名塾
製作:タキオンジャパン
配給:太秦
2013/日本/カラー/HD/91分
●『書くことの重さ~作家 佐藤泰志』公式サイト
10/5(土)〜新宿K’s cinemaにてモーニングショー、以下全国順次公開

文:南天

 

  • 2013年10月08日更新

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